新聞「農民」
「農民」記事データベース20181022-1332-06

持続可能な農業へ向け
担い手づくりと地域づくり

農業と地域を未来へつなぐために

紀ノ川農協(和歌山)の取り組み
味村妃紗(紀ノ川農協) 長田倫子(和歌山県農民連)


家族農業を元気に守る地域づくり
食と農を発展させる担い手づくり

 紀ノ川農協は和歌山県全域を地区とする販売専門農協です。

 同時進行で行っていく

 和歌山県は有数の果樹・野菜の産地ですが、基幹的農業従事者のうち15〜29歳は約1%です。和歌山県の人口は100万人をきり、さらに減少しています。

 そんな中で「食と農」をどう守り、次の世代につなぐかが急務の課題になっています。

 紀ノ川農協では持続可能な農業を行うため、次の世代の担い手づくりと集落の農業生産機能の維持に焦点をあてた「地域づくり・担い手づくり」プロジェクトを去年からスタートしています。

 いくらやる気のある新規就農者が1人集落でがんばっても、周りの人達が諦めていると若い人達は地域に定着できません。農業の担い手づくりと地域づくりは、同時進行で行っていくことこそが重要です。

 「とても輝いている」人たち

 現在は3つの地域で地域づくりをスタートしています。地域住民の方の声を聞き、課題を把握し解決へと進めています。農業の枠を飛び越え、地域の課題を解決することが次の世代の農業を創ると私たちは考えています。

 地域づくりに関わって特に感じるのが、難しい課題にぶつかっていても、地域の人達は「とても輝いている」ということです。そんな人達の中で地域が元気になり、地域のリーダーも育っていきます。

 近年IT技術などが急速に発展するなか地域の人たちの間で本気で議論を交わす、頼りにする・されるなどの経験が少なくなっていると感じます。地域のなかでそのような経験をすることにより人間力が培われていき、次世代の地域のリーダーが育っていくのだと思います。

 消費者と生産現場で交流も

 また地域づくりを進める中で消費者の方と生産現場との交流の形も変化しています。

 地域づくりでは耕作放棄地・再生プロジェクトも進めています。この活動には消費者の方も関わっています。農業の大変さも素晴らしさも一緒に体験し、考えていただけるような消費者と生産現場のより深い関係づくりを進めています。このことが消費行動にも変化を与えていくと考えています。

 婚活イベントで人の輪ひろがる

 また担い手づくりとして婚活プロジェクト、トレーニングファーム、レンタルハウス・キウイ棚に取り組んでいます。

 婚活イベントは、農業者がパートナーを見つけて安定的に農業に取り組める環境をつくりたいという思いから行いました。ところが実際に行ってわかったことは、本来の目的以上のことが起きるということです。参加された方の中には、就農希望の方や農業のことを話せる仲間づくりを目的に参加する方もいます。婚活イベントで人の輪が広がっているのを感じます。

 さらに本来の担い手育成も進めています。就農希望者を育成する専門部会、トレーニングファーム部会「ふたば塾」を立ち上げ、今年の7月には県の承認を受けました。部会のメンバーは果樹や野菜、花き栽培をしている熟練農家で、複合的な品目経営の農業スタイルが学べ、農地取得などの支援もしてくれます。新規就農の方を見ていて、独立してからもわからないことが気軽に聞ける環境が、就農の近道のように思います。

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就農希望者を育成する「トレーニングファーム部会」

 また育成制度と併せて初期投資の高い農業施設について、紀ノ川農協が建てて、レンタルする制度も始まっています(レンタルハウス・キウイ棚)。

世界の食料生産に大きく寄与する家族農業

 みんなで予想図 10年後を討論

 持続可能な農業を考えたときに、環境への配慮を考えた農業、次の担い手の育成という課題で、この10年が大きな転機になると思います。

 先日8月31日に「みんなで描こう地域農業の未来予想図〜想像してみよう自分たちの10年後の農業〜」と題して紀ノ川農協と和歌山県農民連の共催でシンポジウムを開催しました。当日は予想に反して100人近い参加者(パネリスト・職員・運営スタッフ含む)となり、農業のこれからという議題に対して参加者全員が高い関心を寄せているのがわかりました。農民連の笹渡義夫会長と日本共産党の紙智子参院議員を含む4人のゲストをパネリストとしてお招きし、紀ノ川農協の宇田篤弘組合長の司会のもと、和歌山県における「農業の10年後」についてディスカッションしました。

 たくさんの人の共同の力が必要

 シンポジウムでは発言者が各々の現状の苦しさや難しさを訴えるも、誰ひとり消極的な意見は述べず、それぞれ真剣に「10年後の自分たちの農業についてどうがんばっていくか」を念頭に置いて発言していました。なかでも御年84歳の男性参加者が「10年後も農業をがんばっていく」と力強く発言していたのがとても印象的でした。

 また発言の中には農業の未来予想図を描くためのヒントがたくさん詰まっていました。農家・地域同士での連携や情報交換などの共同の力を望む声、他県の先進的な新規就農者支援制度の紹介、女性用の農業用機械や農具の要望、農家にとって役立つ機械づくりや制度を上手に利用する方法など、地域農業を未来へつないでいくためには様々な立場のたくさんの人の共同の力が重要だと改めて考えさせられた有意義な時間でした。

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「みんなで描こう地域農業の未来予想図」シンポジウム=8月31日

 高齢化、人口減少で農業危機

 国連は2017年に開催された総会で、19年から28年までの10年間を「家族農業の10年」とすることを決定しています。世界の食料の大部分を担っているのは、家族農業です。

 日本でも多くは家族農業です。しかし高齢化、人口減少で日本の農業は危機に瀕しています。農業を続けていけるよう家族農業を守り発展させることが求められています。次の世代に農業をつなぐために。

(新聞「農民」2018.10.22付)
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