新聞「農民」
「農民」記事データベース20190304-1350-01

全市でネオニコ系農薬の
空中散布を中止に

豊かな生態系を次世代に

千葉・匝瑳市


 九十九里の海岸沿いに広大な水田が広がる千葉県有数の穀倉地帯、匝瑳(そうさ)市。この匝瑳市で無人ヘリを使った航空防除を実施している匝瑳地区植物防疫協会は、2019年度の空中散布にネオニコチノイド系農薬を使わないことを決めました。なぜネオニコ系農薬をやめることになったのか、その経過は――同協会の理事で、千葉県農民連執行委員の伊藤秀雄さんに話を聞きました。

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水田の広がる匝瑳市

 伊藤さんがネオニコ系農薬の使用に疑問を持ち始めたのは5年ほど前のこと。匝瑳市のなかの野栄植物防疫協会の会長として、県からのヒアリング会議などでネオニコ問題を質問し続けてきましたが、県の安全農業推進課からは「調査中」との回答が続いていました。しかし、4年目となった昨年、TBSテレビの「報道特集」という番組でネオニコ系農薬によるミツバチの減少が報じられたのをきっかけに、伊藤さんは総会でもネオニコへの懸念を訴えました。

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農薬の転換を呼びかけた伊藤秀雄さん

 同時に、伊藤さんは野栄植物防疫協会の役員会でもその「報道特集」を見てもらい、話し合いました。「伊藤さんの言う通りだ。おれは虫がゼロになるまで農薬で皆殺しにする必要はないと思っている。中止に賛成だ」と応援してくれた生産者もいて、野栄地区では一足先に昨年からネオニコ系でない農薬へと変更されました。

 伊藤さんは生産者からは反対の声は出なかったといいます。「カメムシが稲に被害を与えるのは、柔らかい実が太って堅くなるまでの1週間くらいのもので、ネオニコのように長く効く必要はない。他にも安くて効果も高い農薬はたくさんある」

 匝瑳地区植物防疫協会でも、事務局を担当している共済組合の職員が伊藤さんの問いかけに賛同してくれたことが大きなターニングポイントとなり、11月に開かれた農薬を選定する会議で2019年度からネオニコ系農薬からの変更が正式に決まったのでした。

 生態系を壊して続けていけるか

 「ネオニコ問題に取り組むなかで、この年になって、私も自然を冒とくしてきた一人だと、百姓として罪の意識を感じている」と率直に語る伊藤さん。「生態系を理解せず、壊し続けて、将来もずっと農業が続けられるかというと、それは違う。農業後継者たちが私たち世代と同じ考えで農業を続けてはいけない。進むべき方向だけでもつけていきたい」と言います。

 「私の次のステップは、従来のような農業をずっと続けていいのかと問いかけていくことだと思っている。農民連には食品分析センターもあり、情報も多い。足を踏み出す時ではないだろうか」


ネオニコ系農薬とは

画像  ネオニコチノイド系農薬は、浸透移行性(=有効成分が葉や茎から吸収されて植物体内にゆきわたる性質)が高く、作物の内部に殺虫成分が長期間残留するため、殺虫効果が持続します。粒剤でも散布でき、現在では稲のカメムシ、果樹や野菜のアブラムシ等の防除に広く使用されています。

 しかしネオニコチノイド系農薬は、ミツバチの「蜂群崩壊」の原因となるなど生態系への影響や、人体の神経系統への影響が懸念されており、EU(欧州連合)委員会は昨年4月に一部の使用禁止を発表。日本でも2017年12月に、日本弁護士連合会が使用禁止と新規認定をしないことや農産物規格規定の見直しを求める意見書を提出するなど、世界的に大きな問題になっています。

(新聞「農民」2019.3.4付)