新聞「農民」
「農民」記事データベース20190527-1361-01

農地中間管理機構関連法改定

放棄地対策にならず

関連/集落の将来設計の話し合いでこそ

 企業の農業への参入や規模拡大を促す農地中間管理機構(農地集積バンク)関連法改定法が5月17日、参議院本会議で、与党などの賛成多数で可決され、成立しました。14日の参院農水委員会の参考人質疑では、和歌山県紀ノ川農協の宇田篤弘組合長理事が意見陳述に立ちました。


 農地集積進まず機構利用も停滞

 農地中間管理事業法は2014年に施行されました。農地や耕作放棄地について、都道府県に一つ設置される農地中間管理機構が借り受け、必要な場合には、基盤整備等の条件整備を行い、担い手(法人経営、大規模経営、集落営農、企業など)がまとまりのある形で農地を利用できるよう配慮して貸し付けるもので、実施後5年をめどに見直すと定めていました。

 政府は、23年までに全農地の8割を担い手に集積する目標を掲げていますが、18年までの集積は55%にとどまっています。

 そこで(1)機構による農地の借り入れと転貸手続きの改善、(2)JAや市町村が担ってきた農地利用集積円滑化事業の統合一体化、(3)地域の話し合いの活性化――などを柱とする見直し方針に沿って同事業を改定するものです。

 あわせて、認定農業者制度について、現行の市町村による認定に加えて、都道府県や国が認定する仕組みを創設。さらに農地所有適格法人(農業生産法人)の役員要件を緩和し、企業的な担い手が広域で経営展開をしやくするものです。

 同改定案をめぐって、衆院農水委員会で、野党が機構の廃止や市町村段階での集積・集約化の推進を柱とした修正案を提出しましたが否決。農業委員会への十分な支援などが盛り込まれた付帯決議を全会一致で採択しました。

 参院農水委員会では、日本共産党の紙智子議員が、企業の農業への新規参入や規模拡大を促すものであり、家族経営農業の振興や農村の再生よりも企業によるアグリビジネスを重視するものだと批判しました。

 参考人質疑でも問題点が噴出 

 14日の参考人の意見陳述では、秋田県農業公社の佐藤博理事長、和歌山県・紀ノ川農協の宇田篤弘組合長理事、東京大学大学院の安藤光義教授の3人が立ちました。

 佐藤理事長は、農地の集積・集約を進めていくうえで、地域での話し合いの大切さを述べました。安藤教授は、「農地集積のカギを握る地元の取り組みを前提に制度が組み立てられず、見直しもされなかった」と批判し、「市町村やJAが担ってきた担い手への農地集積を都道府県レベルで動かすことに無理がある」と指摘しました。

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耕作放棄地再生プロジェクト(紀ノ川農協)

 宇田組合長は、紀ノ川農協の取り組みを紹介し、与野党の議員から、質問や賛辞が多く出されました。

 参考人への質疑では、宇田組合長の陳述を受け、立憲民主党の小川勝也議員が「中山間地をどうするか、集落の人口を守るためにはどういう施策が必要かについてもっと議論していきたい」と述べました。

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トウモロコシ畑で「コーン(婚)活」(紀ノ川農協)

 国民民主党の田名部匡代議員は、「私の地元、青森はリンゴの産地で果樹地帯。同じような問題を抱えていると思う。移住、定住を進めるうえで農業政策として何か要望があれば聞かせてほしい」と質問。宇田組合長は「農家からの要望としては、(1)担い手(2)価格の安定(3)耕作放棄地(4)獣害、の4つの問題がでてくる。一番根っこにあるのは、価格が安定しないことだ。農業の多面的機能に対する充実した支援があって、安心して農業にチャレンジしていける状況をつくることが大事」だと述べました。


集落の将来設計の話し合いでこそ

宇田篤弘さん(和歌山・紀ノ川農協組合長)が意見陳述

画像  地域でこれからの農業をどうしていくのかを一緒に考える場をつくることが非常に大事だと思います。和歌山の場合は、果樹が中心で、中間管理機構への関心があまりないと思います。

 紀の川市の中間管理事業の到達は、農地面積378・2ヘクタールのなかで、2014年から4年間で、中間管理事業での使用貸借の面積が2ヘクタールです。それから、賃貸借が5・4ヘクタールで、合計で7・4ヘクタールしかありません。

 紀ノ川農協は、トマト、タマネギ、柿、キウイ、ミカンなどを生産し、生協産直を行っています。キウイフルーツやタマネギについては有機JASに、かんきつ類、柿、タマネギ等では特別栽培にも取り組んでいます。

持続可能な環境保全型農業を

 今、最大の課題は担い手、生産量をどう維持していくのか。そんな中で、持続可能な環境保全型農業をどう発展させるかを一つのテーマにし、耕作放棄地を再生するに当たってボランティアで参加してもらう取り組みも始まっています。

 担い手の育成では、県知事の認証も受けながら、トレーニングファームを設立しました。紀ノ川農協が先に施設を建ててレンタルハウスを貸すという仕組みも始めています。婚活などにも取り組んでいます。トレーニングファームは、4人の研修がスタートしたばかりです。

 和歌山の場合、果物の生産額が全体の63%を占め、果物の比率が高い。しかも、そこが傾斜地で、それを面的に集約していくことは非常に難しく感じています。

 和歌山県の古座川町は、65歳以上が70%を超え、85歳以上の人口が20%の地域です。

 そこで50軒の聞き取り調査を行い、地域から3つの要望が出てきました。(1)7つの集落の中心にあるダムのそばの桜が古くなっていて、これをもう一回きれいにしたい、(2)買い物が大変だ、(3)ユズを中心に担い手を育成し、移住、定住をもっと促進していきたいというものでした。このとき、80代のおじいさんが「ダムの桜をもっときれいにしたい。今植えないと将来の桜がない。夢をかなえてほしい」とお話しされました。

 今、クマノザクラという新しい品種が学会で発表され、それを植えたいということで、70代、80代のお年寄りが動き始めたところです。お年寄りの方たちが元気よく継続していくことは非常に大事だと思います。

 そんな中で、農地を維持するために空き家を調べようと地域の方たちが調査に回っています。今、二つの空き家をリフォームしてお試し住宅というのができました。今まで諦めていた方たちが寄り合いをして、みんなで話し合っていく中で動き始めたところです。

 もう一つは、紀の川市で、将来農業の担い手が高齢化していくので、そこに新たに新規就農を迎え入れていきたい、空き家を何とかしたいという声があります。その地域の中でコーディネートする人がいれば、話が進んでいくと思います。農地だけの話でなくて、集落全体でどんな将来を設計していくのかを話し合う場をたくさんつくることがこれから非常に大事だと思います。

(新聞「農民」2019.5.27付)
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