新聞「農民」
「農民」記事データベース20190902-1374-01

日米貿易交渉

トランプ言いなりの茶番許すな


農産物も自動車も
“アメリカ第一”の交渉は直ちに中止を

 日米貿易交渉が重大局面を迎えました。

 8月25日に2度にわたって開かれた日米首脳会談で、トランプ大統領は「非常に大きな取引で、アメリカの農家にとってはすばらしい結果だ」と勝ち誇り、軍事品の購入拡大やトウモロコシの輸入拡大を迫りました。安倍首相は「日米両国にとってウィンウィン(共存共栄)の結果だ」と述べましたが、5月にトランプ大統領が「8月にはすばらしい結果が発表できる」と宣言した通り、“トランプ・安倍密約”に沿ったアメリカ一人勝ちの事態が迫っています。

 直前の閣僚交渉での「大枠合意」宣言に続いて、9月下旬の国連総会の合間に開かれる首脳会談で署名するという最短・最悪の結末に突入しようとしています。何重にも異常な事態です。

 国民には秘密のまま

 第一に「合意」の中身は秘密のままです。TPP(環太平洋連携協定)が「大枠合意」した際には、数百ページにわたる政府説明書が公表されましたが、今回は一切なし。茂木大臣に記者が質問しても「中身については答えられない」の一点張りです。

 臨時国会は10月ですが、その前のドサクサに紛れて大枠合意・署名に突っ走るのが安倍政権の魂胆。“密約”の疑いが濃厚だった4〜6月に野党と国民の予算委員会開会要求を拒否したのに続く暴挙です。

 秘密主義の結果、肝心な点が不明のままです。たとえば(1)「農産物の譲歩はTPP水準におさまった」という報道が目立ちますが、本当にそうなのか、(2)牛肉のセーフガード(緊急輸入制限)はTPP11諸国と協議して緩和するというが、TPP11諸国の納得を得られるのか、(3)米・小麦のアメリカ特別枠は増えるのか、減るのか――などなど。

 農産物も自動車も「アメリカ第一」

 第二の問題は、交渉というより、密約に従った謀議・茶番の結果が農産物を差し出し、自動車でもアメリカに押されっぱなしだという点です。農産物も自動車も「アメリカ第一」で譲歩を迫られっぱなしで、一体どこが「ウィンウィン」なのか。「腰抜け外交」「負け犬外交」ではないかと言わざるをえません。

 安倍政権は交渉の初めから「農産物はTPP合意までは譲歩する」と白旗をあげ、逆に自動車については、アメリカが「2・5%の自動車関税を25年かけて撤廃する」というTPP合意を拒絶したことを丸呑(の)みしました。

 トランプ政権のねらいは“日本からアメリカに輸出している自動車は、全部アメリカで生産しろ。そうすれば、貿易赤字問題も解決するし、アメリカの雇用も増える”というもの。こんなことがまかり通れば、日本経済は大打撃を受けます。

 日本経済をしゃぶり尽くしてでも「アメリカの利益が第一だ」という強欲トランプ政権のもとでは、農業を犠牲にすれば自動車が助かるという見通しは甘く、農業も自動車も犠牲になりかねないことを示しています。

 トランプ大統領は首脳会談で「これまでの対日協定で最大規模になる」と勝ち誇りました。「負け犬」と「勝ち犬」の対照くっきりというところです。

 脅しはまだ続く

 第三に、報道で目立つのは「全てはトランプ氏次第。彼が翻意すればいったん合意した内容ですら揺らぎかねない」(交渉関係者)など、9月下旬までの1カ月の間にトランプ大統領の変心や蒸し返しが予想されることに対する不信と警戒です。

 トランプ氏は首脳会談の前に「率直に言って、日本に対しては中国との間で起きていることが役に立つ」と言い放ちました。つまり、中国からの輸入品全部に25〜10%の報復関税をかけると脅して米中貿易交渉に引っ張りこみ、中国が言いなりにならないことに逆切れして、さらに報復関税をかけたり、アメリカ企業に中国からの移転を強要するというやり方を日本にも突き付けるという宣言です。

 「日米FTA(自由貿易協定)は絶対にやらない」と言っていた安倍首相が日米FTA交渉に引きずりこまれた最大の引き金は、自動車関税25%への引き上げと輸入数量規制というトランプ大統領の脅しでした。

 この回避を確約させることが安倍政権にとって最大の焦点だったにもかかわらず、「その話はしていない」(茂木大臣)というありさま。トランプ大統領は「中国に対する高関税は変えない。日本についても変えない」と、“恫喝(どうかつ)関税”で脅し続けることを宣言しました。

画像
G7ビアリッツ(フランス)・サミットに集まった各国首脳

 売国の譲歩を許すな

 第四に、安倍政権は臨時国会での貿易協定批准をゴリ押しする構えですが、アメリカ側は5%程度以下の物品の関税引き下げは議会の承認が不要という大統領特権を活用して、議会審議をパスする見込みです。

 アメリカは、痛くもかゆくもない他の工業製品の関税をわずかばかり引き下げてお茶を濁し、一方、日本は農産物と工業製品の「不公平感が目立たない枠組み」(時事)を偽装するという共同作戦です。臨時国会に向けて、「TPP並みだから安心だ」という宣伝を含めて、安倍政権のウソとゴマカシはいっそう激しくなることは必至です。

 第五に、交渉筋から「交渉が終わったとは思えず、どうなるか分からない」と警戒する声が出ているとおり、交渉は終わっていません。短期的には、トランプ大統領一流のちゃぶ台返し、長期的には食の安全や医療、為替政策などに踏み込んだ包括的な日米FTA交渉への突入が予想されるからです。

 参院選では国民をごまかし続け、わずか1カ月後にトランプ政権言いなりに売国の譲歩に乗り出す安倍政治は断じて許せません。日米貿易協議は即刻中止すべきです。

 9月下旬の日米首脳会談での署名阻止、臨時国会での批准阻止のために、日米貿易協定は直ちに中止せよの世論と行動を急速に広げる時です。

(新聞「農民」2019.9.2付)
HOT情報
写真