新聞「農民」
「農民」記事データベース20191007-1379-01

貿易交渉、日本が一方的譲歩


協定の国会承認を許さず、
本格的な日米FTA交渉中止を
強く求める世論と運動を

 安倍首相とトランプ大統領は9月25日に首脳会談を行い、農産物や工業品などについての日米貿易協定に最終合意し、共同声明に署名しました。日本は農産物でTPP(環太平洋連携協定)をほぼ完全実施し、アメリカは自動車でTPPを拒否するという結果になり、日本側の一方的譲歩が浮き彫りになりました。

 まるで大統領選向けセレモニー

 カウボーイハットをかぶったアメリカの農業団体代表を首脳会談に同席させ、トランプ大統領が「米国の農家にとって巨大な勝利」と勝ち誇るなど、「まるで来年の大統領選に向けたセレモニーだった」(北海道新聞)――。

 アメリカの識者は「安倍首相はトランプ大統領の再選キャンペーンに加わったのか?」と皮肉り、日本の識者も「安倍首相は『トランプ・ファースト』を貫いた」と批判しました。

 来年の大統領選に向けて「今だけ、票だけ、自分だけ」を貫くトランプ氏の圧力に無様に屈する“トランペット”(トランプのペット)ぶり。「安倍首相よ、恥を知れ!」と言わなければなりません。

 「亡国政権」そのものだ

 首相は会見で「日米ウィンウィン(双方の利益)の協定」「日本の農業者、消費者、国民にとって利益となる協定」と強弁しました。ネット上では「ギゾウ・ネツゾウ・安倍晋三」「不安倍増・安倍政権」の言葉がおどっていますが、こういう批判を全く無視した白々しい弁明です。

 第一に、TPP11、日欧EPA(経済連携協定)発効に続いて日米貿易協定まで受け入れ、日本農業を未曽有の総自由化にさらす決断をした自戒も反省も全くありません。「亡国首相」の汚名を墓まで背負っていくつもりなのでしょうか。

 第二に「一方的譲歩という批判は当たらない」などと開き直っていますが、日本は農産物でTPP完全実施、アメリカは自動車でTPP完全拒否という事態の前では“負け犬の開き直り”にすぎません。

 第三に、安倍首相は「TPPの範囲内」と弁明しますが、その「水準」自体が危険きわまるものです。加えて牛肉などの低関税枠を別枠で設け、アメリカ産遺伝子組み換えトウモロコシの大量輸入を約束するなど、アメリカを特別扱いする「TPP超え」は明白です。トランプ政権は、現在の対米農産物輸入額の5割に当たる72億ドル(7700億円)の農産物市場開放を約束させたと「巨大な勝利」を勝ち誇っています。農業や地域経済、国内経済への打撃は、TPP11、日欧EPAをはるかに上回ることは必至です。

 国民欺き、本格的な日米FTAへ

 これに加えて重大なのは、日米共同声明で「他の貿易上の制約、サービス貿易や投資に係る障壁、その他の課題について交渉を開始する」、つまり、本格的な日米FTA(自由貿易協定)に突き進むことを宣言したことです。

 トランプ大統領は今回の協定は「初期段階」の合意であり、「かなり近い将来、日本とのさらなる包括的な協定をまとめることになる」と強調し、ライトハイザー通商代表は、来年春以降に「第2ラウンド」に入ると述べています。

 「第2ラウンド」では何が問題になるのか――。トランプ政権の「日米FTA交渉方針」は、(1)対日貿易赤字の削減、(2)日本の医療保険・薬価制度の見直し、(3)遺伝子組み換え食品表示など食の安全にかかわる規制の撤廃、(4)自動車の米国での生産・雇用を拡大する条項の新設、(5)為替・中国包囲条項の新設などを求めています。いずれも国民生活の根幹と日本の主権を脅かす重大な問題です。

日米FTAはいらない!
食健連が緊急宣伝行動

 日米FTA交渉中止の世論と運動を

 日米両政権は協定発効を来年1月1日と見込んでいます。今回の「合意」を受けた協定の国会承認を許さず、本格的な日米FTA交渉の中止を強く求める世論と運動を広げることが重要です。

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全国食健連は9月25日、日米貿易交渉の最終合意に抗議する緊急宣伝行動を行いました。東京・新宿駅では「SNSでこの行動を知り、かけつけた」という人もいて、熱いスピーチが続きました。

 「互いの選挙でウィンウィンの関係を築くために通商問題を利用するような政治は、もう終わりにしたい」(西日本新聞社説)。選挙第一で「国益」をもてあそび、暮らしと経営、食の安全に危機感を募らせている国民の痛みにも苦しみにも思いが及ばない「政権益」政治の害悪は深刻です。安倍政治は、一日も早く終わらせなければなりません。

(日米貿易協定の詳細は続報します)

(新聞「農民」2019.10.7付)
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