新聞「農民」
「農民」記事データベース20191028-1382-05

栃木県の種苗条例

種子生産に対する
県の責任を放棄

リポート
栃木農民連会長 國母克行さん

 主要農作物種子法(種子法)が2018年4月に廃止されたもとで、いま全国の都道府県で、種子法に代わる条例の制定が広がり、10月15日現在で11道県が制定しています。一方、栃木県で10月9日に制定された「栃木県奨励品種の優良な種苗の安定供給に関する条例」には問題点が含まれています。栃木農民連の國母克行会長にリポートしてもらいました。


自家採取、原則禁止の可能性も

 栃木県では「種子の会とちぎ」が中心になって、種子法に代わり、稲、麦、大豆の品種開発・維持・供給などを県が引き続き責任を持って実施していくことなどを定めた条例制定運動に取り組み、約7000人分の署名を添えて提出しました。

 しかし、県の条例は県民が求めていたものとは全く逆の、国が種子法を廃止した行為を追認する内容となってしまいました。育種ほ場の選定、審査、種子生産計画、発芽率等の品質管理も民間任せにし、県は責任を持たない内容となっています。

 9日の本会議では、日本共産党の野村せつ子県議だけが反対討論を行い、(1)県の種子生産計画の策定放棄につながる、(2)種子を生産するほ場審査が事業者任せになる、(3)育苗業者への原種・原原種の委託化となる――ことを指摘。「稲・麦・大豆の種子生産に対する県の責任を骨抜きにする条例は容認できない」として反対しました。

 パブリックコメントでも多くの方が、県が各業務を従来通り責任を持って実施するよう求めましたが、「業者への指導、助言をしていく」との回答のみで、全く受け付けられませんでした。すでに全国の11道県で制定された条例に比べ、栃木県の条例は全く異質で、条例名からも「種子」の名が消えてしまっています。

 緊急集会に90人

 県議会開会中の状況が緊迫しているさなかの9月28日に宇都宮市で90人近い参加者が集まり緊急集会が開かれました。まず、「種子の会とちぎ」の共同代表4人と、弁護士の浅野正富さん、元県農業試験場職員の山口正篤さんが、それぞれの立場から県条例案を分析され、その異質な内容の説明、それに対する憂慮を述べられました。

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9月28日に宇都宮市で開かれた「種子の会とちぎ」主催の緊急集会

 その後、急きょ来県された、元農水大臣の山田正彦さんから他県の状況説明、解説があり、栃木県条例の異常さ、県の無責任さがさらに明確になりました。今後取りうる対応についての解説や、種苗法改定の動きで、自家採取が原則禁止される可能性の情報提供もありました。

 後半では一般参加者からの質問、発言、5人の県議の皆さんからの発言もありました。この条例が制定され、業務が広く民間へ開放されれば、多国籍種子会社などからの申請で、遺伝子組み換え種子栽培が開始され、花粉による交雑で周辺のほ場での大豆などの種子への遺伝子汚染の可能性、さらに特許侵害で周辺農家に訴訟が起こされる可能性への心配、価格上昇への不安などの発言もありました。

 健康への問題

 種子の問題は健康へも直結する、一人ひとりの問題であり、広く訴えていこうとの発言もありました。3時間半に及ぶ集会でしたが、活発な議論で、今後どうしていくか皆さん真剣に考え発言され、時間不足の感じでした。

 栃木の条例が今後、種子条例が制定される自治体に悪い影響を与えてしまうことを懸念しています。

(新聞「農民」2019.10.28付)
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