新聞「農民」
「農民」記事データベース20191118-1385-01

日米貿易協定

明治大学 作山 巧教授にきく

 与党が批准の強行をねらう日米貿易協定について、明治大学の作山巧教授に問題点を聞きました。


ウィンウィンには
ほど遠い不平等条約

 自動車と部品の関税撤廃はウソ

画像  日米貿易協定は、安倍首相が言う「ウィンウィン」とはほど遠い、まさに不平等条約というべきものです。

 最も決定的なのは、政府は「アメリカの自動車の関税撤廃を約束させた」と言いますが、その裏付けは全くありません。

 アメリカの関税に関わる付属書Uのなかでは、英文のみで「自動車・自動車部品の関税は、関税の撤廃に関してさらなる交渉の対象となる」という表現にとどまっていて、これは関税撤廃とは読み取れません。

 まず、最終合意直後の9月26日、内閣官房が発表した「日米貿易協定の概要」によれば、「自動車・自動車部品については、米国譲許表に『更なる交渉による関税撤廃』と明記」となっていましたが、署名した10月6日の「概要」では、「米国付属書に『関税の撤廃に関して更に交渉』」と何の説明もなく書き換えられています。英文しかないもとで、和訳のわい曲による印象操作をしたと非難されるべきものです。

 さらに決定的なことは、付属書Uには、自動車と自動車部品のリストが付いていないことです。つまり、アメリカが関税の撤廃を約束したのであれば、譲許表にその対象となる品目リストが付いていなければならないのに、たくさんある項目のなかで自動車も自動車部品も一切明記されていないのです。アメリカ側は、自動車や自動車部品に対して、関税撤廃を約束していないことは明確です。

 本来であれば、FTA(自由貿易協定)の締結には、国際ルール上、両国の貿易額の「9割超の関税撤廃」が必要です。アメリカの対日輸入額の約3割を自動車とその部品が占めており、その関税を撤廃しなければ、日米両国を合わせた関税撤廃率は9割に満たず、日本側は、これでは国際ルールに反するので拒否するべきでした。

 農林水産品で日本が一方的な譲歩

 次に問題なのは、日米間の譲歩が著しくバランスを欠いていることです。まず、全品目の貿易額でみた関税撤廃率で、TPP(環太平洋連携協定)と日米貿易協定を比較すると、日本はTPPの95%から日米貿易協定の84%と小幅な低下にすぎないのに比べて、アメリカは自動車と自動車部品を除外したため、100%から57%へとほぼ半減しました。

 さらに農林水産品の品目数でみると、日本の関税撤廃率はTPPの82%から日米貿易協定で37%に低下しました。一方、アメリカが日米貿易協定で関税撤廃したのはわずか19品目にすぎず、関税撤廃率はTPPの99%からわずか1%へと激減しました。農林水産品についても、日本の一方的な譲歩にほかなりません。

 結局、農業が捨て石にされたにすぎず、その背景には、「どんなに譲ってもいいからまとめよ」という安倍首相の強い意向があったためと推測されます。

 セーフガードはTPP超え

 セーフガード(緊急輸入制限)の発動基準をめぐっても大幅譲歩、TPP超えが見られます。

 牛肉の交換公文の中では、「セーフガードが発効して10日以内に協議を開始して、90日以内に結論を出す。それも高い水準をめざして協議をする」ということになっています。そもそもセーフガードとは自動的に発動されるもので、発動されるとその基準が直ちに見直されてしまうなどという協定は見たことがありません。

 TPPでは「発効から7年経って初めて見直す」という規定になっています。ですから大幅なTPP超えです。

 本格的な交渉はこれから

 日米貿易交渉は来年5月から本格的な交渉が始まります。付属書Tには、アメリカは、将来の交渉において、農産品に関する特恵的な待遇を追求することが明記されています。「再協議」に日本も同意したものであり、米や乳製品で不満のあるアメリカ側は今後、さらに追加的な譲歩を求めてくることは必至です。

 安倍首相は「何も決まっていない」「予断をもっていない」と強弁しますが、やらないのであれば「やらない」と言うはずで、まさにこれからが本格的なFTA交渉になることになります。

 日本の農業を守るためにも、うそとごまかしをこれ以上許してはなりません。

(新聞「農民」2019.11.18付)