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「農民」記事データベース20191125-1386-08

安全でより豊かな学校給食を(1/3)

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千葉・いすみ市

給食全てを地元有機米に

給食と有機農業が市の魅力に

 市内の小中学校給食すべてに地元産の有機米を使用している町があります。千葉県いすみ市です。2014年に本格的な生産が始まり、15年から給食に使用開始。17年には市内の公立小学校10校と公立中学校3校、約2300人の給食100%にいすみ産有機米を使用しています。

 有機米の生産に取り組んでいるのが「自然と共生する里づくり協議会」です。環境創造型農業の推進及び自然環境の保全・再生を通じた地域活性化を推進するため、農業関係団体や自然環境保全・生物多様性関係団体など22団体で12年に組織され、市が事務局を担っています。

 同協議会のメンバーで農事組合法人みねやの里の生産者、矢澤喜久雄さん(73)といすみ市農林課の鮫田晋主査に話をうかがいました。

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おいしいご飯に笑顔がこぼれます(いすみ市提供)

 生産者の希望で給食へ使用開始

 13年に22アールからスタートした有機米の生産ですが、初年度に大きな壁にぶつかります。「漠然と農薬や化学肥料を使わないでやるという考えしかなく、具体的な知識も技術も持たずに始め、草だらけの田んぼの雑草取りで、大変な目にあいました」と矢澤さん。

 翌14年からは市の実証事業として「有機稲作モデル事業」がスタートし、民間稲作研究所の稲葉光國さんに技術指導を受けながら1・1ヘクタールから4トンの米を収穫。「子どもたちの健康づくりに少しでも役立ちたい」「農業に関心を持ってもらいたい」という農家の思いに応え、15年5月に1カ月分の有機米が学校給食に使用されました。

 給食に使ったことで、子どもたちの保護者から地域へと有機米の取り組みが広がりました。「市役所にも『どこで作ったものですか』『有機米はどこで買えますか』といった問い合わせや、『給食にもっと有機の食材を増やしてほしい』など要望も寄せられました」と鮫田さん。翌年に10人の生産者が新たに取り組みに参加し、農家の経営を支える取り組みに発展しつつあります。「子どもたちのために使ってもらえることが、生産者の背中を押しました」と矢澤さんは振り返ります。

 翌16年には市長の強い意向で学校給食全量に有機米使用の目標を打ち出しました。基準価格との差額を市の予算で補てんし、給食費は据え置きです。段階的に予算を引き上げ、17年には生産量が50トンに到達。給食の全量をいすみ産の有機米に切り替えました

 給食で子どもたちが食べるだけではなく、給食で食べる無農薬の米作りを中心とした食農教育も実施しています。「年間30時限ですが、1年の中で一番楽しいと言ってくれます」と子どもたちの様子を話す鮫田さん。「子どもが田舎にいながら、その良さから離れた生活をしている現実を変えていければ」

 実際に自分たちの作ったお米を食べるなど、体験したことと毎日の現実を切れ目なく感じることで、食べ残しも減るなど変化も起きています。

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有機米の田んぼで田植えを体験(いすみ市提供)

 地域の担い手増のきっかけに

 19年は25人、23ヘクタールまで拡大し、2人の新規就農者も新たに加わるなど、農家の所得を支え、新たな担い手を呼び込むきっかけにもなっています。また、農家以外でも給食を気に入って移住する人が現れるなど、有機米づくりが地域に新たな活力を呼び込むきっかけになりつつあります。

 今後は面積の拡大とともに、給食に使う野菜についても、全て地元の有機野菜の導入をめざします。「『有機と言えばいすみ』と言われるようになれば」と矢澤さんは夢見ています。


いすみ市 太田洋市長

 市内には美しい田園風景が広がっていますが、農家の高齢化や後継者不足などで、失われつつあります。この田園風景を子どもたちに何としても残すのが、私たちに課せられた仕事です。

 経済を大きく発展させることだけが日本の進む道ではありません。この地域をいつまでも続く地域としていきたい。給食から始まった取り組みは、地域そのもののブランド化や移住希望者の増加、海外からの修学旅行生の来訪など、持続可能な地域作りへ多面的な広がりをみせています。(栃木県上三川町の第12回有機農業推進フェアでの講演から)


民間稲作研究所 稲葉光國さん

 太田市長や鮫田さんなど市が熱意を持って取り組み、ここまで広がりました。

 給食全量有機米使用は実現できるとは思っていましたが、矢澤さんが「子どもたちの健康のために」と発言されたことが、学校給食に利用するきっかけになりました。

 「付加価値をつけて有利販売する」のではなく、「農薬の影響を一番受ける子どもたちの健康のために」という思いが、地域の人の理解を広げたと思います。

(新聞「農民」2019.11.25付)
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