新聞「農民」
「農民」記事データベース20191209-1388-01

経済主権を投げ捨てる日米FTAに反対です

=芥川賞作家の笙野頼子(しょうのよりこ)さんに聞く=

 芥川賞作家の笙野頼子さんは、新自由主義・貿易自由化反対の立場から、TPP(環太平洋連携協定)・日米FTA(自由貿易協定)反対の態度を貫き、国会前・官邸前行動にも参加しています。緊迫した情勢を迎えている日米FTA反対への思いを聞きました。


 しょうの・よりこ 1956年生まれ。『なにもしてない』(野間文芸新人賞)、『二百回忌』(三島由紀夫賞)、『タイムスリップ・コンビナート』(芥川賞)、『未闘病記』(野間文芸賞)、『植民人喰い条約 ひょうすべの国』など著書多数。


食べることは人間の尊厳・文化

画像  食べることは大事なこと、人間の尊厳・文化というだけではなく、それ以上です。人の魂の中心に言語があるように、人の肉体の中心に食があるべきなのです。この両者こそ、生きる勇気です!

 そして田畑とはまさに日本の領土の根本であり、農は最強の外交手段であり、米は国防の武器です。たとえば農民は、その土地に住み続けることで、その場所・地域を守っているのです。何よりも農民には自国の国民の食料をつくるという大任があります。

 日米貿易協定などというものは、すべてにおいて不要不急です。日本はアメリカとしたたかな交渉をしなければならないのに、これはまさにアメリカの思惑通りで、安倍首相とトランプ大統領の選挙対策のための協定に国民が巻き込まれ、百年苦しむという大迷惑なものです。

 内容もアメリカがもうけることだけが「正義」とされ、まるで「アメリカがもうけたいだけもうけられなかったらその代償に日本をつぶさせろ」と言っているようなものです。そもそも国家、生命の源であるはずの食べものが自動車や石油と同じテーブルで議論されてしまっている。しかも、日本語を奪われて結んだ協定で、日本語訳がいちいちおかしいので、すでに言語主権の危機ともなっています。これで食べものの自立を失ってしまえば、まさに戦時中のように、飢餓が広がるのです。

 すでに発効していますが、TPP11など絶対離脱すべきだと思っています。FTAも批准後、離脱すれば国際的信用をなくすなどと言われますが、もうすでに安倍首相自身により日本全体が信用を失っていますからね。それに信用よりも人の命、平和、安全の方がはるかに大事です。

 私が自由貿易に反対するのは、経済主権が失われることになるからです。国民皆保険がなくなったらたいへんです。そもそも薬価や水をまずコントロールし、国民の命、芸術をも守るのが政府の役割です。経済主権がない国は国とは言えない。

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「日米貿易協定の批准を許すな」と国会前行動に参加した笙野さん=11月13日

 TPPや日米FTAの根底にある考え方、新自由主義のいう自由とは何か。問題は誰のための自由なのかです。それは大企業、多国籍企業の自由にほかなりません。強者が弱者を殺す自由でしかないのですね。

 私が住む千葉県佐倉市をはじめ県内は、台風15号、19号の相次ぐ襲来で、電気、水道が止まり、道路も冠水し、倒木が相次ぐなどたいへんな被害でした。最低限のインフラが壊され、苦しんでいるときに、宝石やティアラを身にまとい、新天皇の即位の礼に伴う宮中晩さん会が開催されていたのです。この対照的な光景は何なのでしょうか。まるでヴェルサイユ宮殿のような場面です。さらにこの台風被害の1000倍以上の人災をもたらすTPP、FTAは断固反対です。

 作家の中野剛志氏、堤未果氏、PARC(アジア太平洋資料センター)の内田聖子氏らの著作でTPPの問題を知ることができました。しかしこの問題について、私はすでに文学で扱っていたのでした。今一部の文学読者からですが、私は予言的と言われています。

 TPP反対の官邸前・国会前行動に参加したのは、内田さんのツイッターを見てからです。私のような通りすがりの飛び入り参加でも、農民連や食健連のみなさんは親切で温かく、仲間として迎え入れてくれました。

 私が特に感動したのは、11月25日に国会前で開かれた「ジェンダーに基づく暴力撤廃に向けた国際キャンペーンへの連帯行動」に農民連女性部が参加し、声を上げてくださったことです。農業・農村にこそ男女平等は必要です。

 女性専用スペースに侵入する痴漢と国を侵略する世界企業はそっくりですね。

 私は10万人に数人の難病で、年に何回かしか参加できませんが、仲間に会いたい気持ちはいつでももっています。これからも小説のなかで、自由貿易や新自由主義の問題点を暴いていきたい、希望を失うまいと考えています。

(新聞「農民」2019.12.9付)
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