新聞「農民」
「農民」記事データベース20191216-1389-01

声明

日米貿易協定の批准に抗議し
新たなたたかいをよびかける

2019年12月4日
農民運動全国連合会

関連/子連れ母、高校生も涙の訴え


 一、12月4日、日米貿易協定の承認案が参議院本会議で自民、公明、維新の賛成多数で可決された。政府は、協定の根幹にかかわる部分についての答弁を拒否し、野党が要求した審議に不可欠な資料の提出を一切拒否したまま、採択を強行した。

 農民連は、日本の農業と国民生活に重大な影響を及ぼす日米貿易協定を、まともな審議も尽くさないまま強行した安倍政権と自民、公明、維新の各党に満身の怒りを込めて抗議する。

 一、わずかな審議の中でも、協定の片務的で屈辱的な内容が浮き彫りになった。

 安倍首相は、「自動車、自動車部品の関税撤廃を約束させた」と強弁するが、該当する付属書Uでは「関税の撤廃に関してさらに交渉」との表現になっている。また、協定文4条には「安全保障上の重大な利益の保護のために必要な措置を適用することを妨げてはならない」とされており、いつ追加関税をされても仕方がない内容となっている。

 さらに、農産物では、付属書Tに「アメリカ合衆国は、将来の交渉において農産品に関する特恵的な待遇を追求する」としており、今後も日本に更なる関税撤廃を押し付けることを宣言している。

 また緊急輸入制限(セーフガード)については、セーフガード措置がとられた場合は「一層高いものにするため協議する」とされており、牛肉については発効後10日以内に協議を開始し、90日以内に結論を出すと規定されている。さらに米国がTPP(環太平洋連携協定)参加国より劣後しないものにするための項目が587項目にも及んでいる。

 日米貿易協定が食料自給率が37%にまで低下した日本農業と畜産にもたらす打撃は、計り知れないものがある。

 一、さらに重大なのは、9月26日の最終合意を確認した日米共同声明で、「日米貿易協定の発効後4カ月以内に協議を終え、関税や他の貿易上の制約、サービス貿易や投資に係る障壁、その他の交渉を開始する」とし、日米FTA(自由貿易協定)の交渉入りを宣言していることである。

 アメリカ通商代表部が2018年12月21日に議会に提出した「日米FTA交渉方針」(「米国と日本の貿易協定交渉――具体的交渉目的」)では、(1)物品貿易、(2)衛生植物検疫措置、(9)投資、(10)知的財産、(11)医薬品及び医療機器、(12)国有企業、(13)競争政策、(18)政府調達など22項目にも及ぶ交渉目的を列記しており、TPP以上の包括的な自由貿易協定となっている。

 「第2ラウンド」である日米FTAが、食の安全、医薬品や医療機器、公共調達など、食や医療、くらし全般に影響を及ぼし、経済主権を脅かすことは明瞭である。

 農民連は、日米FTAを断固阻止するために、医療関係者や消費者団体、労働組合をはじめ、広範な市民と力をあわせてたたかう決意である。

 一、野党は日米貿易協定に反対し、一致結束してたたかった。「桜を見る会」をめぐる問題でも、予算委員会での真相究明を要求し、安倍政権の退陣めざし結束を強めている。

 高知県知事選挙では、野党統一候補の松本顕治さんがわずか1カ月という短いたたかいの中で得票率39・07%と大善戦・大健闘し、野党共闘の結束をより強固なものとした。野党は、次期総選挙で野党連合政権を実現する方向に大きな一歩を踏み出している。

 農民連は、「桜を見る会」の真相究明と安倍首相の退陣を求める国会内外の運動と結んで、日米FTA交渉を許さない世論と運動を広げる決意である。


承認案
採決に抗議の座り込み

子連れ母、高校生も涙の訴え

 12月4日、参議院は与党と維新の会の賛成多数で、日米貿易協定の承認案を十分な審議のないまま数の力で採決に踏み切りました。

 国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会(全国食健連)と「TPPプラスを許さない! 全国共同行動」は3、4の両日も国会議員会館前で座り込み行動を展開し、国会に向けて抗議の声を上げました。

 この間の行動では、多くの市民がツイッターなどSNSの発信を見て駆けつけました。特に小さな子どもを連れた若い母親が多く集まり、声を上げました。

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国会に向けて抗議の声を上げる座り込み参加者=12月4日

 3日の行動で農民連国際部の岡撫O史副部長は国際農民組織ビア・カンペシーナ加盟組織の「全米家族農業者連合」と農民連の日米貿易協定に反対する共同声明を紹介し、「協定は日本だけでなくアメリカの家族農業者にとっても悪影響しかもたらさない。これをつぶすのはアメリカの農業者にとっても重要なことだ」と訴えました。

 小田原から来た女性は「ブラックな働き方をしている若い人も、当たり前に国産食材を食べられるようにしていかなければならない。なぜ、自動車の人身御供に農業を差し出さなければならないのか。不戦と農業生産を守るために税金を使ってほしい」と訴えました。

 行動には高校生も参加。「がんばって良い大学に入っても健康で楽しく生きていけなかったらどうしようと思い、参加しました。弟達が苦しむような世の中になってほしくないし、両親が高い医療費に苦しんでほしくない。おじいちゃんおばあちゃんにも長生きしてほしいので日米貿易協定に反対します」と涙ながらに訴えました。

 4日は農民連常任委員も多く参加しました。岩手県農民連の岡田現三事務局長は、「県内の自治体やJAを回ると、33市町村の半分くらいと全てのJAが現在の農政に反対していた。米が除外されたと言って安心できるとはだれも思っていない」と報告。島根県農民連の長谷川敏郎会長(農民連副会長)は「1990年に牛肉の輸入自由化で関税を70%から引き下げたとき、島根県に約1万人いた牛飼いのうち3000人がやめてしまった。5年前に繁殖和牛を飼う農家が減って、対策をしてやっと増やしてきたのに、また減ってしまいかねない」と危機感をあらわにしました。

 11時頃に参議院の本会議で、与党と維新の会の賛成多数で承認案が採決されると、参加者からは怒りの声が上がりました。

 新潟県から連日、子連れで参加している女性は、「非常に許しがたい。国のトップがおかしいとみんなおかしくなってしまう。車やオスプレイの部品では食べてはいけません。国民を食べさせるのが国の責任のはず。抗議の世論を盛り上げて、これ以上譲歩の幅を広げさせないよう、選挙で自民党は全て通さないくらいの意気込みでたたかわないといけない」と地元で今後も行動する決意を表明。

 千葉県農民連の森吉秀樹事務局長は「明日女性部の総会がある。国会の暴挙をしっかり伝えて、生産現場を支える女性や消費者と一緒になって地域の運動につなげ、押し返していきたい」とこれからのたたかいへの意欲を語りました。

(新聞「農民」2019.12.16付)
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