新聞「農民」
「農民」記事データベース20200203-1394-07

国連「家族農業の10年」で食料自給率向上、
農林漁業の再生、
農山漁村をよみがえらせよう
(2/8)

2020年1月17日
農民連全国委員会決議

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【2】「家族農業の10年」「農民の権利宣言」を力に農政の転換と地域の再生をめざす

(1)綱領的課題を実現する好機

 農民連は、行動綱領で「日本農業の自主的発展と家族労働を基本とした農民経営の安定」を基本目標に掲げ、農村地域を守るたたかいの先頭に立ってきました。歴代自民党政権の家族農業つぶし政策で、地域が疲弊し、過疎化が進む中でも、悪政の防波堤となり奮闘してきました。

 「家族農業の10年」は、農民連行動綱領の見地と目的が持続可能な方向に合致していることを証明しました。そして、これまでのたたかいを後押しし、さらに大きく発展させる好機となっています。この運動を進め、行動綱領に掲げる「日本には農業と農村が必要だという国民合意の形成」につなげ、さらには「農業と農山村の復権」を実現します。

 「家族農業の10年」がめざすのは「多様で健康的で持続可能な食と農のシステムが花開き、回復力ある農村と都市の社会で質の高い生活を送り、尊厳と平等が実現し、貧困と飢餓から解放されている世界」(家族農業の10年世界行動計画)です。この未来を実現するために、全ての家族農家を基盤とした持続可能で多様な農業と地域作りを政策的・財政的に応援していくことを掲げています。

 いま、農産物輸出国を中心に化石燃料や化学肥料、農薬を大量に使用し、地下水をくみ上げ、遺伝子組み換え技術などを用いて輸出向け作物の単一栽培が行われています。こうした形態は、資源浪費・環境破壊型の工業的な持続不可能な農業として決別が求められているのです。

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常任委員会報告をする吉川利明事務局長

 (1)家族農業の分断ではなく共同を

 日本政府は「家族農業は重要」としぶしぶ認めながら、実際の政策では、小規模家族農業を切り捨て、8割の農地を一部の担い手に集積することを掲げ、企業型経営を推奨してきました。さらに、輸出や無人技術の振興に異常なほどのめり込み、大規模な企業的農業を後押しする姿勢を打ち出しています。また、2019年度の農林水産関係予算を、2000年度よりも1兆円以上減らすなど、農林水産業そのものに背を向けてきました。

 「家族農業の10年」が求めるのは、一次産業の抜本的支援強化とあらゆる家族農業の振興です。これまで日本では軽視、切り捨ての対象にされてきた、日本の農家の7割近くを占める兼業農家、自給的農家、零細農家、市民農園に取り組む都市生活者など、あらゆる家族農家や持続可能な農と食にかかわる人々による農業の振興を視野に入れています。

 国連が家族農業について「家族または主に家族労働力によって営まれる農林漁業」と幅広く定義しているのはこのためです。「農民の権利宣言」も同様の見地から、権利を保護する対象を幅広くとらえ、農林漁業者とその家族のほかに、農村の農林水産関連企業で働く人々、農村地域社会そのものについても特別の権利を有するとし、振興対象としています。

 農民連は、規模の大小、兼業や専業の違いを超えて、地域に暮らす人々を結びつける農村再生の共同の力にしていくことが肝要だと考えます。この見地から、家族農業について、「地域に住み、農業に従事している農業はみな家族農業であり、集落営農や法人経営は家族農業の助け合いの形態であり、家族農業に含まれる」と定義し、農村地域全体の抜本的振興を求めています。

 (2)新しい時代の家族農業をめざす

 一方で、これまでの家族農業をめぐっては、古い風習や女性の地位の低さ、経営の困難による休日なしの長時間労働など、多くの克服すべき問題があります。こうした問題を克服し、新しい時代の家族農業にふさわしい改革を行うことも欠かせません。

 「家族農業の10年」の運動は、その中心に「ジェンダー平等」(どの性の人も人権、尊厳が守られる平等な権利)と「女性農業者の指導性の発揮」を据えています。そのためにも、土地や生産手段の取得、相続や融資を受ける権利などを含め、女性に対するあらゆる差別をなくすことをめざしています。

 事実婚やシングルでの子育て、同性同士のカップルなど、家族の形はかつてなく多様化しています。そうした新しい家族を基盤にした新しい農業についても発展させていくことが肝要です。

 また、家族農業の持続可能性を確保するうえで、青年の就農促進と支援がとりわけ重要です。「ふるさと回帰支援センター」の年次報告書によると、2008年には50〜70代が移住希望者全体の70%を占めていたのに対し、2018年にはこれが逆転し、20〜40代で72%に達するなど、農的生活を求めて地方への移住を希望する若者が急増しています。

 移住の後押しを強化するとともに、若者の意欲に応えるために、「農業次世代人材投資事業」の拡充をはじめ、就農を定着させるための経営・技術、販路支援に加え、住居の確保や子育て支援など、包括的支援が求められています。

 他方、青年を含め、家族農家が安心して農業と生活を営む最低条件を確保することが不可欠であり、そのために価格保障と所得補償制度の抜本的強化を求めます。この一環として、農業者戸別所得補償制度の復活を求めるとともに、中山間地域等直接支払い、多面的機能支払い、環境保全型直接支払いの直接支払い制度を大幅に増額させることを要求します。そして何よりも、最高時から半減以下に削減された農林水産予算の大幅な増額を要求します。

 さらに、兼業農家が経営を維持するためには雇用の安定や長時間労働の是正、労働基本権を擁護するために労働組合などとの連携が求められます。

 「家族農業の10年」では、「社会的イノベーション(革新的な政策や制度の導入)」が強調されています。最低条件の確保を基礎に、新しい家族農業を創造し、農業が青年の憧(あこが)れの職業・生き方となるよう力を尽くします。

 いま、歴代自民党政権の政策がもたらした地域の疲弊を目の当たりにし、「今さら家族農業では地域農業は守れない」という声もあります。しかし、これは、家族農業や農村への攻撃がもたらした帰結であり、現状を追認して農地の集積などを進めれば、農村に住む人はますます減少していくことになります。家族農業振興に農政の大本を転換させ、豊かな農村を取り戻すために力を尽くします。

 (3)持続可能な農業と地域作りの努力を

 「家族農業の10年」の運動の中には、現在の農業のあり方をより持続可能な形に変えていく努力が含まれます。背景には、エネルギー浪費と農薬、化学肥料の多投を特徴とするこれまでの農業が、地球温暖化や環境汚染の原因になっていることが近年浮き彫りになっていることがあります。

 IPCC土地関係特別報告書は、「2007年から16年の農林業などの温室効果ガス排出量は、人為起源の総排出量の23%を占めた」「グローバル・フード・システムの排出量は総排出量の21〜37%を占めると推定」と、農業や食品産業が排出する温室効果ガスが地球温暖化の主要因の一つになっていることを指摘しました。

 これらのことからアグロエコロジー(持続可能な農業・地域作り)が注目されています。アグロエコロジーとは、化石燃料や化学肥料、農薬の使用を極力控え、浪費型ライフスタイルを転換して持続可能な生産と消費をめざす運動で、日本で古くから実践されている有機農業や自然農法、農民連が長く取り組んできた産直、地産地消、公正な市場を実現する運動などをさらに発展させようという取り組みと共通するものです。

 FAOが掲げるアグロエコロジーの原則には、多様性、災害からの回復力、包摂的で公正な社会、責任ある政策的支援、循環・連帯経済が含まれ、社会・地域政策まで対象とした幅広い内容となっています。

 ビア・カンペシーナは、アグロエコロジーについて、食糧主権を実現するために不可欠とし、アグリビジネスによって奪われる土地や種子、水などの生産手段を農民の手に取り戻す運動と位置付けています。農民連の結成以来の取り組みと重なる農業と社会の持続可能性を高める運動をさらに強めます。

(2)農村再生の国民運動の実現のために

 農民連第23回定期大会では、「家族農業の10年」に呼応し、「食料自給率向上、農林漁業の再生、農山漁村をよみがえらせる国民運動」を呼びかけました。

 この実現のため、(1)政府に「家族農業の10年」決議にのっとった農政を実現するよう強力に働きかけること、(2)都道府県や市町村、農業関係団体が「家族農業の10年」を住民や構成員に宣伝・啓発すること、(3)自治体が家族経営を基本に農林漁業の活性化をはかるための生きた計画を住民ぐるみで作ること、(4)後継者育成、助け合いなど生産維持のための取り組みを強めること、(5)食の安全、環境、生態系に配慮した農業と地域作りを進めること――を呼びかけました。この運動を発展させるために全力をあげましょう。

(新聞「農民」2020.2.3付)
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