新聞「農民」
「農民」記事データベース20200316-1400-03

韓国・ソウル市の
都市農業と公共給食
〈上〉


都市農業の支援通じ
市民参加8年で14倍

 2月14日に都内で「ソウル市のオーガニック農産物を使用した学校給食無償化と公共給食の取り組みを学ぶ」のテーマで公開学習会が開かれました(主催は、パルシステム地域活動委員会)。出版社コモンズ代表の大江正章さんとソウル市東北4区公共給食センター長のチョン・ソンオク(鄭成玉)さんが報告しました。両者の報告を要約し、まとめたものを2回にわたって紹介します。

 韓国・ソウル市の農地面積は1084ヘクタールで、市全体の1・79%(東京23区の農地が566ヘクタール、0・91%)です。

 農家戸数は3410戸で、農業人口は9370人、0・09%です。(東京23区は1455戸、農業人口2432人、0・03%)

 市の東部(江東=カンドン=区)はハウス野菜、南部(瑞草区)は花、西部(江西区)は米、北部(道峰区など)は梨の栽培が盛んです。

 3無農法を推進する江東区

 なかでも江東区は、有機農業が盛んで、2009年に全国初の親環境農業育成条例を制定し、無農薬・無化学肥料・無ビニールの3無農法を推進しています。区内農家は、約120〜130戸で、親環境農業認証農家は18戸、うち1戸は非農家出身者です。認証費用は100%区が負担します。

 市の農業政策をみると、2011年6月に「都市農業元年宣言」を出し、都市農業の定義を「都市の土地、建築物などの生活空間を活用して農作物、樹木、草花を育てたり、昆虫を飼育すること」と定めています。

 都市農業に関わる市民が11年に4・5万人だったのが、19年には63・3万人に急増しました。今後の課題は、都市農業の産業化と市民が日常生活のなかでより活動しやすくすることです。

 ともに・豊かな・緑・癒しを目標

 江東区は、2030年度を目標とした「都市農業中長期発展計画」を策定し、「誰もが幸福な生活を送るための都市農業」をビジョンとし、「共に取り組む都市農業、豊かな都市農業、クリーンな緑の都市農業、癒しの都市農業」の4つの目標を掲げています。

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ソウル市江東区のニュータウンにある「市民農園」(中瀬勝義さん提供)

 また、約50万人の人口を抱える江東区は、職員が発案し、コミュニティーを育てる農業体験農園に取り組んでいます。4〜5人単位で申し込み、区民限定、公有地を農園に整備し、使用料は無料です。収穫量の半分以上を貧困家庭や社会福祉法人などに寄付し、1カ月に1回以上、草取り、調理会、勉強会など何らかのプログラムを行うことになっています。

 ほかに、伝統的な在来品種を意識的に保存する取り組みとして、水田で伝統品種の稲を栽培し、体験農園には伝統品種区画を設置しています。伝統野菜の種子を展示・分配する「タネの図書館」も設けています。

 有機野菜販売にセンターを設置

 区内産有機野菜の販売のためにローカルフードセンターを設置。行政が消費者のために有機農業を支援し、親環境農業認証取得18農家が当日収穫した野菜のみを販売しています。中間マージンなしのため、周辺の慣行農産物価格の70%から同じ価格です。スタッフは、区の職員(販売部門は時間契約)です。

 また、生産者の写真や携帯番号を表示し、収穫、搬入、残留農薬検査、包装の過程を経て、生産者名をラベルに入力し、陳列されています。

 1日の購買客は約160人、平均売り上げは118万ウォン(10・6万円)で、オープン時の3倍に増えています。残った野菜は、翌日に割引販売し、それでも残ればフードバンクなどに寄付することになっています。

(新聞「農民」2020.3.16付)
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