新聞「農民」
「農民」記事データベース20200316-1400-08

生業裁判控訴審が結審

生業を返せ、故郷を返せ

国と東電は責任を認めよ

関連/公正な判決求める署名に協力を


子や孫の将来のために
安心して暮らせる保障を

 福島県内を中心に北は北海道から南は沖縄まで、約3800人の原告が被災地の原状回復と損害賠償を求めて起こした「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟(生業訴訟)。福島県農民連からも多くの仲間が訴訟に参加し、国と東電の責任を明らかにするため奮闘しています。

 「ここの地中に除染土を埋めて保管しているんです」と話すのは、福島市の果樹農家、橋本光子さん(64)です。自宅とソーラーパネルの敷地には除染土が大小様々なフレコンバッグ数百袋に入ったまま地中に保管されています。「孫が登ったりする危険を考えると、地中に保管するしかありませんでした。運び出しは一体いつになるのか決まってもいません」と振り返ります。

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橋本さん(左)の自宅前。足元に除染土が埋められています

 原告の一員に加わり

 橋本さんは自らも原告に加わるだけではなく、集落のみなさんにも参加をよびかけてたたかってきました。最初は「国相手では何を言ってもダメだべ」と言われましたが、橋本さんの「何も言わなければ国と東電の思い通りになってしまう。子どもたちの将来のために立ち上がろう」との思いが通じ、農家以外の人も含めてみんなで一緒に原告に加わることになりました。

 「賠償金の多寡ではないのです。責任を認めて謝ってほしい。そして元通りにしてほしいだけなのです。孫たちが安心して暮らせる保障が欲しいのです」というのが原告に共通する思いです。

 橋本さんの果樹園では、事故翌年の桃は果実からも放射線が検出され出荷できず、除染のため樹体を高圧洗浄機で洗ったことで、樹勢が弱り、収量も落ちました。

 事故直後に防除作業ができず、弱った木が何本か折れる被害も。「収穫はできないのですが、そのままにしておくと木が折れてしまうので、夫に反対されながらも摘果だけは行い、幾分かは樹体の被害を食い止めることができました」と混乱の中、懸命に経営を守ろうとしました。しかし、売り上げも価格も事故前にはいまだに戻っていません。

 「この地域の果樹農家はそれぞれがこだわっていいものを作ろうと努力を重ねてきました。私も減農薬・減化学肥料で土づくりを工夫してきました。果樹は、一度ダメになったら戻すまでに何年もかかります。どこまで戻せるかはわかりませんが、国と東電はせめて責任を認めてほしい」というのが果樹農家の痛切な願いです。「一度は『農家を継ぎたい』と言ってくれた孫のため、安心して農業ができる農地を残したいのです」

 国の圧力に負けずに

 1審では国と東電の責任が認められました。「はじめは『やった』と思いましたが、原状回復は認められず残念に思いました。これから被害を受けることになる子どもたちも救済されなければなりません」との思いで控訴審に臨んでいます。

 「控訴審の裁判官は、国の圧力に負けず良心に基いて判断をしてほしいと思います。関係のないところに予算を使うくらいであれば、事故で困窮している人たちを救済してほしい」

 一審時の署名以上に

 生業裁判原告団が取り組む、公正な判決を求める署名にも橋本さんは奮闘しています。「お客さんなどに呼びかけを進め、家を訪れる人にも、まずはお願いをしています」と話します。

 この署名は福島県農民連を通じてすべての県連にも協力を呼びかけています。結審日の段階では約13万人分集まっていますが、一審の23万人にはまだ届いていません、橋本さんたち被災者の「二度と同じ事故を起こしてはならない」という思いに応え、公正な判決を出させるために、ぜひ署名へのご協力をお願いします。


東日本大震災・福島原発事故から9年

公正な判決求める署名に協力を

 生業訴訟の結審となる控訴審第7回弁論が2月20日、仙台高等裁判所で開催されました。

 公判日には仙台市内に約350人の原告団が終結。仙台市内の公園で行われた集会で、原告団長の中島孝さんは「われわれの主張に義があるのは明らかです。同じ苦しみをこれ以上誰にも味わわせてはならない」と訴えました。原告団は商店街をデモ行進して仙台高裁へと向かいました。

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署名を先頭に仙台高裁に入る原告団

 結審を迎えるにあたり、原告、被告の双方から最終の意見陳述が行われました。原告を代表して中島団長が各地の被災者の実情を述べ「被害救済の打ち切りや原発再稼働という追い打ちを受けてさえ、希望のある生活に立ち戻ろうとしている被災者を支えるのか、断ち切って追い落とすのかが問われている」と訴えました。

 国は「原発に関する判断は高度で専門的な知見が必要」だとして、「審査基準の合理性と、その適用の合理性のみで判断すべき」と主張。つまり「裁判所は行政の判断に口出しするな」と言うに等しいものです。弁護団は真っ向から反論し、公害事件と同じように裁判所が判断すべきと主張しました。

 国の代理弁護人が、原告の意見陳述書面に対し、「今までにない主張を出してきた」とイチャモンを付ける場面もありましたが、原告弁護団がこれまでの主張文書の該当箇所を示し、きっぱりと反論する一幕もありました。この日の弁論をもって結審。判決言い渡し期日は未定です。

 報告集会で馬奈木厳太郎弁護士は判決申し渡し期日が未定だったことについて「悪い意味ではない」と説明。「メッセージを伝えるために一審の23万人分を超える30万人分を集めて、良い判決を勝ち取ろう」と公正な判決を求める署名のさらなる推進を呼びかけました。

 参加者は「生業裁判に勝利して、この日本を変えていこう」と決意を固め合いました。

(新聞「農民」2020.3.16付)
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