新聞「農民」
「農民」記事データベース20200323-1401-01

秋田 能代
『鶴形そば物語』

市民有志150人で手作りミュージカル


〜ふるさとの農地荒らさない〜
お母ちゃん達のそば作り
汗と笑顔の物語が舞台に

 秋田県能代市には能代市芸術文化協会主催の能代ミュージカルというのがあります。制作委員会が中心となり、脚本や音楽、振り付けなどをすべて市民有志が手がけるもので、手作りミュージカルとして親しまれています。

 39回目の今回は、「十割そばの里 幸福の里〜鶴形そば物語〜」です。2月23日に能代市文化会館で上演されました。鶴形地域を代表する「鶴形そば」に焦点を当て、都会へ出て行った鶴形出身の若者が、家族や地元で働く同級生らとの触れ合いを通して郷土愛を育む姿を描いたストーリーです。

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祖母からそば打ちを教わる主人公(右)

 鶴形地域まちづくり協議会をはじめ、鶴形地区そば生産組合、鶴形そば製造加工株式会社などのお父ちゃん、お母ちゃんたち、地区の皆さんも30人ほどが出演し、スタッフ、キャスト総勢150人で作り上げました。

 能代吹奏楽団による生演奏や、郷土芸能の「鶴形ささら」などのさまざまな踊り、歌が繰り広げられ、詰めかけた1千人を超す観客の感動を誘いました。(秋田県農民連・小林秀彦事務局長、写真は「北羽新報」提供)

「鶴形そば」を継承させて
地域農業守る決意新たに

 女性たちがそば打ち師匠で大活躍

 能代市鶴形地区では昔からソバが栽培されてきました。とくに川から水を揚げないと作れない高台にも40ヘクタールほどの水田があり、減反とポンプの故障で荒廃していたこの転作田にもソバを捨て作りしていました。ところが20年ほど前、行政から「転作助成金は収穫しなければもらえない」との指導があり、これを機に、70人の農家で鶴形地区そば生産組合を立ち上げました。

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劇中の「鶴形そばまつり」のフィナーレを「鶴形そば音頭」で飾る

 その後、本格的にそばの加工、販売に取り組んでいこうということで、お母ちゃんたちを中心に鶴形そば製造加工株式会社をつくりました。同社は秋田県農民連にも加盟しています。

 いつも笑いの絶えないお母ちゃんたち。でも最初は恥ずかしくて、お客さんにお尻を向けて接客していました。しかしお客さんの「おいしい!」という笑顔が自信と励みになり、今ではスーパーや産直、道の駅などへのそばの出荷、販売のほか、数多くのイベントなどにも出張し、販売しています。また学校や介護施設など、あらゆる会合でもそば打ち体験を指導し、毎日のように活躍しています。

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鶴形そばまつりの開催を祝って踊る主人公の父たち

 そして、年末の年越しそばづくりは、地区住民も30人ほどが協力し、毎年4万2000食ものそばを作り、消費者に提供して喜ばれています。こうして玄そばの栽培面積も約80ヘクタールまで拡大し、耕作放棄地も減少してきています。

聴衆にそばを振る舞って

 地域一体になりそばまつり開催

 今回の能代ミュージカルをキャストやスタッフとして支えた「鶴形地域まちづくり協議会」は、鶴形地区を活性化しようと各団体の人が一体となって結成されました。毎年11月に「鶴形そばまつり」を地元の旧鶴形小学校で開催し、新そばを提供。700人ほどの参加者で大いににぎわっています。こうした努力の積み重ねで、「鶴形そば」の名が内外に広まってきており、これはお母ちゃんたちのがんばりのおかげでもあります。

 そんななか、能代ミュージカルの制作委員会から、「ぜひ鶴形そばを題材に」とミュージカルのお話がありました。これまで「鶴形そば」に取り組んできた経緯や、鶴形の歴史などをいろいろとお話しさせていただきました。

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勇壮な舞で観衆をくぎ付けにした「鶴形ささら」

 そしてミュージカルの上演日には、「鶴形そば」を格安で振る舞うことができました。訪れた聴衆の皆さんに、鶴形の歴史と文化を伝えることができて、本当に良かったです。これを一つの節目として、地域の農業を守り、「鶴形そば」を継承していく決意を新たにしています。

(新聞「農民」2020.3.23付)
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