新聞「農民」
「農民」記事データベース20200330-1402-04

韓国・ソウル市の
都市農業と公共給食
〈下〉


環境に優しく無償化実施
都市と農村の共生を実現

 全ての小中高校
 直営で自校方式

 韓国・ソウル市では、1998年頃から学校給食の直営・国産・無償化の3大要求を掲げ、「子どもたちには健康を、農民には希望を」をスローガンにして農業者と連帯した市民運動が進みました。現在、小・中・高校とも100%直営、自校方式です。

 2011年からは、社会・経済の民主化(脱新自由主義)を背景に、学校に加えて、公共給食(保育園、放課後に過ごす地域児童センター、福祉施設など)でも、農業者支援と都農相生(都市農村共生社会の実現)を目標に親環境農産物給食が実施され、無償化も実現しました。12年には、「ソウル特別市親環境無償給食などの支援に関する条例」が制定されました。

 ソウル市東北4区公共給食センター長のチョン・ソンオク(鄭成玉)さんによると、都農相生公共給食は、(1)市民に健康で安全な食を提供する(2)持続可能な食を媒介に、生産者と消費者が信頼し合う社会的関係を形成する(3)中小家族農家中心の生産・調達体系の構築(4)教育を通し、農業の生態的価値と食の大切さを向上させる(5)民・官協力ガバナンス(管理)で、差別化された関係市場を造成する――の5大原則の実現をめざしています。

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2017年の都農相生公共給食の協約式(著書『ヘ・オクビョンの世の中を変える幸せな食卓』から)

 協働で政策立案
 産地と直接取引

 19年度の親環境農産物比率は、小学校8割、中学校6割、高校5割以下、保育園・地域児童センター3分の1となっています。21年度までに、小・中・高は100%、22年度までに公共給食は70%を目標にしています。17年現在の学校給食の親環境農産物生産者は1599人、その7割が小規模農家です。

 ソウル市の調達システムは、市の親環境給食課と教育庁が協働で政策を立案・実施しています。現在は13の公共給食センターが地方の自治体と1対1の契約を結び(たとえば江東=カンドン=区は全羅北道中部完州郡と)、それぞれ産地の公共給食センターと契約しています。公共給食センターは、親環境農産物産地の9つの生産者団体から調達します。

 生産者からは安全な農産物を適正価格で直接取引し、持続可能な農業を実現します。親環境農産物の92%は、化学肥料を大幅に減らした無農薬農産物です。加工食品は、学校ごとに業者と個別に契約します。親環境農産物で賄えない分は、既存の卸や市場から調達します。公共給食については、加工食品も含めて公共給食センターが調達します。

 手厚い行政支援
 講師養成で啓発

 公共給食センターの運営は、生協、有機農産物協同組合、社会的企業などが受託し、ソウル市職員も派遣されています。2020年度からは25自治区のすべてにつくる予定です。運営経費の分担は、教育庁50%、ソウ

ル市30%、自治区20%で、すべて行政の支援です。

 19年度のソウル市予算38兆ウォンのうち給食関連は1653億ウォンで、0・44%です。親環境農産物を100%にするには、人件費と管理費を含めて年間約7000億ウォンが必要です。

 給食の食生活講師として13年から毎年、保護者から80人を養成し、現在約400人になりました。食べものの安全性、ローカルフード、フェアトレード、動物福祉などを学んだうえで学校に派遣されます。

(新聞「農民」2020.3.30付)
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