新聞「農民」
「農民」記事データベース20200706-1415-01

コロナ・ショックがあぶり出した
食のぜい弱性と食料自給の大切さ

東京大学大学院教授 鈴木宣弘


住民と生産者が地域の食を
支えるシステムづくりを

 輸出規制に耐えられる食料自給が不可欠

画像  コロナ・ショックは、グローバル化した食のもろさを露呈させた。物流(サプライ・チェーン)が寸断され、人の移動が停止し、それが食料生産・供給を減少させ、買い急ぎや輸出規制につながり、それらによる一層の価格高騰が起きて食料危機になることが懸念されている。日本の食料自給率は37%、われわれの体を動かすエネルギーの63%を海外に依存している。輸入がストップしたら、命の危険にさらされかねない。

 輸出規制は簡単に起こりうるということが明白になった。FAO(国連食糧農業機関)・WHO(世界保健機関)・WTO(世界貿易機関)の事務局長は共同で、輸出規制の抑制を要請した。しかし、輸出規制は輸出国の国民の命を守る正当な権利であり、抑制は困難である。

 過度の貿易自由化が多数の輸入依存国と少数の生産国という構造を生み、それがショックに対して価格が上昇しやすい構造を生み、不安心理から輸出規制も起こりやすくなり、自給率が下がってしまった輸入国は輸出規制に耐えられなくなっている。今行うべきは過度の貿易自由化に歯止めをかけ、各国が自給率向上政策を強化することである(図)。自給率向上策は輸入国が自国民を守る正当な権利である。

 一層の貿易自由化を求めるショック・ドクトリン

 ところが、FAO・WHO・WTOの共同声明は、輸出規制の抑制と同時に、いっそうの食料貿易自由化も求めている。輸出規制の原因は貿易自由化なのに解決策は貿易自由化だ、とは論理破たんもはなはだしい。食料自給率の向上ではなく、一層、食料の海外依存を強めよというのだろうか。コロナ・ショックに乗じた「火事場泥棒」的ショック・ドクトリン――災禍に便乗した規制緩和の加速――であり、看過できない。

 TPP11(米国抜きのTPP=環太平洋連携協定)、日欧EPA(経済連携協定)、日米貿易協定と畳みかける貿易自由化が、危機に弱い社会経済構造を作り出した元凶であると反省し、これを機に貿易自由化が加速するようなことはあってはならない。

 飼料だけでなく種や労働力も考慮した自給率議論の必要性

 コロナ・ショックは、自給率向上のための具体的課題の議論にも波紋を広げた。日本農業が海外からの研修生に支えられている現実、その方々の来日がストップすることが野菜などを中心に農業生産を大きく減少させる危険が今回あぶり出された。

 新しい基本計画で出された食料国産率――鶏卵の国産率は96%だが飼料自給率を考慮すると自給率は12%――の議論においても、生産要素をどこまで考慮した自給率を考えるかがクローズアップされた。

 野菜の種子の9割が外国の圃場で生産されていることを考慮すると、自給率80%と思っていた野菜も種まで遡ると自給率8%(0・8×0・1)という衝撃的現実がある。種や農業労働力の海外依存度を考慮した自給率も考えなくてはいけない。

 しかし、一連の「種子法廃止→農業競争力強化支援法8条4項→種苗法改定」を活用して、「公共の種をやめてもらい→それを企業がもらい→種の権利を強化してもらう」という流れで、種を独占し、それを買わないと生産・消費ができないようにしようとするグローバル種子企業が南米などで展開してきたのと同じ思惑が、「企業→米国政権→日本政権への指令」の形で「上の声」となっている可能性も指摘されている。

 すでに、メガ・ギガファームが生産拡大しても、廃業する農家の生産をカバーしきれず、総生産が減少する局面に突入している。今後、「今だけ、金だけ、自分だけ」のオトモダチ企業がもうかっても、多くの家族農業経営がこれ以上つぶれたら、地域コミュニティーを維持すること、国民に安全・安心な食料を、量的にも質的にも安定的に確保することは到底できない。火事場泥棒的なショック・ドクトリンが国内の規制改革路線の加速につながることもあってはならない。

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農民連と新日本婦人の会との田植え体験交流会=2019年5月19日、京都市(京北農民組合・一原康男さん撮影)

 自分たちの命と食を守ろうという機運

 ネットなどのコメントでも、これを機に生産者とともに自分たちの食と暮らしを守っていこうという機運が次のように高まってきていることがうかがえる。「国内の農家を守ってこそ、日本の家庭は守られます。農民の作った食べ物を食べて人間は生きている。農民が人間を生かしている。農民の生活を保障すると人間の命も保証できる。今は農民の生活が保障されていない」

消費者も生産により直接関与を

 外食需要などの激減で和牛も在庫が積み上がり、「和牛券」まで提案されたが、ここにきて、店頭でも輸入牛肉が売れ残り、国産が売れているとの情報もある。国産志向が購買行動にも表れてきているとしたら、明るい兆しである。厳しいコロナ禍の中で、このような機運が高まっている今こそ、安全・安心な国産の食を支え、国民の命を守る生産から消費までの強固なネットワークを確立する機会にしなくてはならない。

 特に、消費者が単なる消費者でなく、より直接的に生産にも関与するようなネットワークの強化が今こそ求められてきている。世界で最も有機農業が盛んなオーストリアのペンカー教授の「生産者と消費者はCSA(産消提携)では同じ意思決定主体ゆえ、分けて考える必要はない」という言葉には重みがある。

 全国各地域で、行政・協同組合・市民グループ・関連産業などが協力して、住民が一層直接的に地域の食料生産に関与して、生産者と一体的に地域の食を支えるシステムづくりを強化したい。

(新聞「農民」2020.7.6付)
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