新聞「農民」
「農民」記事データベース20210104-1439-01

2021年 あけましておめでとう

国連「家族農業の10年」3年目スタート
持続可能な新しい社会へ

家族農業こそ循環型農業の担い手に
人にも牛にも環境にも優しいマイペース酪農

北海道農民連釧根地区協議会議長
岩崎和雄(別海町)


「低投入、適正規模、循環、生き方」
を大切に、風土に学び、自ら考える

 あけましておめでとうございます。

 今年の干支は「うし」。

 「うし」と言えば北海道ではホルスタイン種。北海道の第1次産業の生産額のトップは酪農です。全国一の酪農王国、その中でも釧根(釧路・根室)は酪農の主産地、牛が主人公の地域です。

 生産量増めざし人も牛も忙しく

 私は、別海町で戦後開拓の2世として1969年に高校を卒業した後、父親が開拓して築いてきた酪農を継ぎ、現在は開拓3世の息子に引き継ぎ、今に至っています。

 私が継いだころは、電気が引かれて間もなく機械化が始まった時期で、まだまだ人力が主体の酪農でした。戦後開拓が始まって20年ほどが過ぎ、すでに開拓民の約半数がこの地を離れていましたが、それでも現在の2倍以上の酪農家がおり、次世代へと引き継ぎながら酪農が発展していました。しかし一方で離農はなくなりませんでした。

 そんな中で酪農家、獣医師や研究者、労働者などと「まかたする酪農」を目指して勉強会を始めました。「まかたする」とは北海道の言葉で「採算が合う」という意味です。農政に惑わされず、農民自身のペースで酪農を考えようと「マイペース酪農学習会」が別海町で始まりました。

 しかし、一生懸命に酪農に取り組むようになると、当初目標の「まかたする経営」が、いつしか経済収支中心になり、穀物飼料をたくさん与え、生産量を増やす経営になっていました。放牧地の草はあまり食べさせず、夏の間も牛舎の中で餌を与えるようになり、人も牛も忙しい毎日を送るようになっていました。

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岩崎さんと人なつっこい岩崎牧場の若牛たち

 経営改善で牛飼いらしい生活に

 大きな転機になったのは、三友盛行さんとの出会いです。1991年の交流会の準備をしていた時、「中標津(なかしべつ)に変わった酪農家がいる」というので実行委員会で訪ねて、お話を聞き、驚きました。それまでの「生産量の増加=所得の増加」という考えが大きく崩れるほどの大衝撃でした。

 この出会いが、それまでの酪農に対する概念を転換する契機となり、年1回だけでなく、毎月集まって学習会を行い、自らの経営を議論し、経営方針の転換へと結び付けてきました。

 こうしてマイペース酪農では、「低投入、適正規模、循環、生き方」というスタイルを大事にして、「牛にできることは牛に頼み、人はそっとお手伝いで済むような酪農」、そして肩の力を抜いて「自然に生かされる」ような酪農を目指すようになりました。従来の作業や、飼料や肥料などの投入資材も見直し、以前と比べてゆったりとした酪農となり、牛飼いらしい生活を送れるようになったことが最も大きな変化となりました。

 外部委託で農民の知識も危うく

 私が住む地域は酪農専業地帯で、これまでも国の酪農政策の実験場になってきた地域で、さまざまな補助事業が展開され、規模拡大と離農が同時進行してきました。

 現在は、畜産クラスター事業などにより酪農家の規模拡大がさらに進み、労働力不足を補うために外国人研修生に頼らざるをえなくなりました。また、牧草やデントコーンなどの飼料作物作りは請負業者に任せ、乳牛の餌の混合作業はTMRセンター(さまざまな飼料を混ぜて、酪農家に配送する施設)に、子牛の育成は外部委託等にと、酪農の作業が細分化され、外部に委託されるようになっています。このため、それぞれの酪農家の「土、草、牛」にかかわる酪農の基本的な技能や知識さえも危うくなっています。

 輸入の穀物飼料への依存度が高まる一方で、放牧している酪農家はめっきり少なくなり、消費者がイメージする北海道酪農の姿とは大きくずれ始めています。

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搾乳作業中の岩崎さん

 無穀物、無化学肥料への挑戦も

 放牧することで草食動物である牛が自ら草を食べ、そしてふん尿も自分で畑に散布・還元し、おいしい牧草が伸びる時期に乳をたくさん出してもらう酪農経営なら、化石エネルギーをたくさん使って収穫する作業量も減り、コストだけでなくエネルギー消費量や、農業機械の消耗も抑えることができます。農家の生活・経営を豊かにするだけでなく、地球温暖化防止にも大きく寄与することになります。

 現在、マイペース酪農に参加する酪農家の中から、新しい試みが生まれています。国産の遺伝子組み換えでない穀物を使用したり、さらには穀物給与そのものをやめて草だけを与える取り組みです。また、マイペース酪農の農家はもともと化成肥料の使用は少ないのですが、これをさらに推し進めた「無穀物、無化学肥料」への挑戦も始まっています。

 30年続けてきた「マイペース酪農」の理念は「低投入、適正規模、循環、生き方」でした。今、あらためてその価値を考えると、国連「家族農業の10年」と持続可能な開発目標(SDGs)や、「農民の権利宣言」に重なるものがあります。

(新聞「農民」2021.1.4付)
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