新聞「農民」
「農民」記事データベース20210104-1439-06

手記

マイペース酪農とともに30年
子に経営移譲し、老親を介護中

厚岸町農民組合 小野寺浩江さん

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家族農業で牛飼いの幸せ
次世代に託して

画像  今年で5回目の年女を迎えます。

 30歳で「マイペース酪農交流会」という集まりがあることを知り、参加しました。当時は規模拡大しなければ生き残れないと信じていたので、ここでの話にはかなり衝撃を受けました。そして同時に、「収益重視の“酪農家”から、牛に優しい“牛飼い”になりたい」と思ったのです。

 マイペース酪農交流会の集まりは、この当時から「牛飼いの基本は家族。夫婦で話し合って、夫婦で決めなければ経営も変えられないし、幸せな牛飼いにもなれない」という夫婦平等の考えから、夫婦同伴参加が基本でした。私も夫と一緒に参加し、さっそく次の日の朝から“勢い”と“ノリ”に任せて、「できることから」と始めました。規模拡大から後退するかのような、私たち夫婦の当時の振る舞いには、夫の両親もただただ、心配だっただろうと思います。

 私たちにも経済的な心配はもちろんありました。しかし、それまでの経済優先の経営とは違って、牛に目を向け、手をかけることの大切さを知りました。それは、「牛がしあわせだと思えることをしてやりたい」、そして「この農村や農場を、癒(いや)しのある空間にしたい」と思えたからです。そしてその思いは今も変わらず継続できていることを、うれしく思います。

 こう振り返ると、30年周期で人生の転換期を迎えていると、ふと感じます。

 マイペース酪農に出合ったころ、長男は2歳、次男は5カ月でした。2人とも親元を離れて高校や大学生活を送り、長男は卒業と同時に、私たち両親の“採用試験”に小論文を提出してめでたく合格し、家に帰ってきました。この頃は、私たちの牛飼いとしての生き方のこだわりも強くあり、できることならその思いを受け継いでほしいという願いがありました。

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秋空の下、放牧地で草を食べる牛たち(岩崎牧場=別海町)

 義父は「孫が帰ってくるまでは…」と、80歳までトラクターに乗り、夏の収穫作業をこなしました。息子が帰ってきて牛舎での仕事にはゆとりができましたが、双方の両親の老いとともに介護が必要になり、今は私の両親も同じ敷地で生活し、見守り介護しています。夫の懐の深さに感謝しています。

 そして、とうとう今年から、息子に経営移譲することとなりました。かなりこだわりも強そうですが、親としては手をだしても、口を出さず静観しようと思っています。

 子どもたちが幼いころは、ただただ日々の農作業に追われ、規模拡大しなければと思っていました。今日の酪農の規模拡大路線は「家族農業」の域を越え、人を雇用し、分業化されつつあります。私たち夫婦はそうではなく、マイペース酪農のように小規模でも家族が生活でき、いつの時代にも通用する普遍的な農業を目指してやってきました。この思いを息子にも引き継いでほしいと願っています。

 人にやさしく、牛にやさしく、環境にやさしい農民であり続けてほしいと願っています。

(新聞「農民」2021.1.4付)
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