新聞「農民」
「農民」記事データベース20210104-1439-09

アグロエコロジー実践で
ウンカ被害を撃退!!

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 2020年は2000年以降で最多のトビイロウンカの発生警報が出され、「坪枯れ」が九州以外の西日本各地でも発生。山口県の米の作況指数が73になるなど、大きな被害をもたらしました。
 トビイロウンカは梅雨時期に大陸より飛来し、稲刈り時期に大発生すると、稲を枯らす「坪枯れ」を起こします。13年にも西日本全体で105億円に上る被害をもたらしています。
 20年の大発生の中で、水田の生物多様性を維持し、稲の持つ力を生かすという、国際農民運動組織ビア・カンペシーナが提唱するアグロエコロジーに通じるやり方で、ウンカを撃退した生産者がいます。
 兵庫県と和歌山県の生産者2人に話を聞きました。


水田の周囲の生き物と
植物の持つ力を生かす

和歌山県紀の川市 高橋範行さん(38)

 紀の川市で、JAS有機認証と自然栽培での米作りに取り組んでいます。和歌山県は3本の指に入るくらいのウンカの被害と聞いています。周りでも坪枯れや一枚すべて枯れた田んぼが出ています。ウチにも被害が及ぶのではと警戒していましたが、全く被害なしでした。

 被害抑えた要因

 3つの要因でウンカ被害が抑えられたと考えています。

 1つは農薬を使用しないことで、田んぼの内外に様々な生き物が生息しているためにウンカが捕食され、繁殖が抑制されたことです。ウンカは天敵も多く、トンボやクモ、カメムシも天敵になります。うちの田んぼにはカブトエビ等の水生生物も豊富で、多くの生き物が生息しているので、それらのおかげはあると思います。

 もう1つは、稲自体の丈夫さです。今年は長雨の影響でどこの田んぼも稲が細くなっていました。株が細いほど被害が大きいようです。うちでは苗を大きく育て疎植で植えていたので、ある程度丈夫な株にできていたのではないでしょうか。

 最後の1つは無肥料の米作りだということです。過剰に窒素分を投入すると硝酸態窒素が光合成でアミノ酸に変換されずに残り、カメムシなどを引き寄せると言われています。化学肥料に頼らない米作りのおかげでウンカを呼ばないで済んでいると思います。

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ウンカに負けず実った米を刈る高橋さん

 昔からの方法を今風に取り込む

 ウンカ被害の拡大を受けて、周りの農家も変わってきました。近くで慣行の米作りをしている友人が、「これからは有機栽培的な考え方を入れなければいけないな」と話しており、とてもうれしく思いました。化学肥料や農薬に頼らず植物の持つ力を生かす、昔からのやり方が、一番良いのではないでしょうか。それを今風にアレンジして取り込んでいくことが、必要なのだと思います。


資材投入に頼る農業の
あり方を見直す時期に

兵庫県たつの市 丸尾正志さん(53)

 たつの市の沿岸部で水田1・6ヘクタールを耕作する兼業農家です。この地域でも、ウンカの被害は猛威を振るいました。ウンカの被害による倒伏や坪枯れが目立ち、一枚の半分くらいが枯れた田もありました。

 しかし無農薬、無化学肥料栽培の私の田んぼでは被害は全く出ませんでした。

 窒素肥料の多投入がウンカの被害に関わっていると考えています。以前、硫安(硫酸アンモニウム)を反当たり40キログラム使用した時に、今まで起きなかった坪枯れが起きたことがありました。今は、箱剤も殺虫剤も一切使用していませんが、ウンカの被害とは無縁です。稲の株元を見ると、ウンカも若干いますが、被害は出ていません。農法を切り替えて反収は減りましたが、台風での倒伏もなく、安定して収穫できています。

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丸尾さんのヒノヒカリの田んぼ。坪枯れのない見事な稲穂です

 稲自体を丈夫に

 ウンカに負けない米作りのポイントは「稲自体を丈夫にすること」です。田植え時には疎植で、株間を30センチメートルにし、8条または12条ごとに条間も空けています。風通しや日当たりを良くし、ウンカが生息できない環境を作ります。稲刈り後の田んぼには乳酸菌資材などを入れて、土壌微生物を活性化します。

 アグリビジネス思うつぼの稲作

 現在の稲作は、収量を増やそうと苗を密植し、化学肥料を多投するから、虫が寄ってきて防除に農薬が必要になります。これでは農薬を作るアメリカのアグリビジネス企業の思うつぼです。種も肥料も農薬もセットにして支配されてしまいます。農業のあり方を見直す時期が来ているのではないでしょうか。


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島根・松江市 加茂京子

(新聞「農民」2021.1.4付)
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