新聞「農民」
「農民」記事データベース20210607-1459-01

長びくコロナ禍

農・水産物価格に大打撃

このままでは経営成り立たぬ


 新型コロナ感染拡大に伴う緊急事態宣言、まん延防止等重点措置により、営業自粛・時短要請で飲食店は経営危機に追い込まれ、外食需要の減少で、あらゆる農畜・水産物価格が暴落しています。さらにコロナ禍による失業などで、生活困窮者が急増し、農畜・水産物の需要減に拍車をかけています。価格暴落、営農危機の実態をリポートしてもらいました。


「もう倉庫に入らない」
新潟

飲食店休業で需要減さらに

 新型コロナによる緊急事態宣言で、外食・飲食店の営業自粛、時間短縮要請に伴う需要の減少は、米の需給環境をさらに悪化させています。

 新潟県では今年の田植えの大半が終わろうとしていますが、2020年産米価格の民間流通相場は深刻な事態となっています。

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新潟では田植えは最終盤に(新潟市内)

 出来秋から農家への概算金と販売価格との格差が少なかったことも、これまで例がありませんでしたが、年明け以降に備蓄米の価格が安値で落札された頃から新潟コシヒカリ相場は1俵(60キログラム)2000円近く暴落しています。産直センターが集荷している準産直米も大きく影響しているため、さらに下落することを想定して損失部分を少しでも軽減できるよう、安くても契約してくれる業者に出荷せざるをえない状況です。

 新潟県の発表では、3月現在で2・7万トンが昨年よりも在庫過剰となっているとのことで、21年産米の生産目標を前年より7万5400トン(マイナス1万1200ヘクタール)の減産を求めていますが、達成できる見通しはありません。すでに作付けが始まっている農家に今以上に生産転換をしてもらうことは難しいと思われます。

 大規模農家ほど経営に影響が大

 先日、コロナによる米在庫過剰の影響なのか、一時保管で借りている倉庫会社から連絡があり「低温倉庫に荷物が入り、今年は農民連のお米を受け入れられなくなった」との話がありました。また、地域の農協を訪問した際、組合長は「今年の概算金は1俵2000円近く下がるだろう」と話していましたが、大規模農家ほど経営に多大な影響を及ぼすものとなります。

 このまま実効性ある対策を政府が行わなければ、米価下落は最低2〜3年は続くと思われるため、一刻も早く米価を回復させるためにも、米を守る運動を一層強めながら来る総選挙で審判を下し、安心して作り続けられる農政を実現させなければなりません。

(新潟県農民連 鈴木亮)


野菜
「収穫せず畑でつぶす」
愛知

業務需要落ち込み価格暴落

 コロナ禍で、農村を覆っている暗雲は「晴れ間が見えない」ことにより、そのことへの怒りが渦巻いています。

 高収益次期作支援交付金は、一定の効果があったものの、トマト・ミニトマト農家にとって、露地野菜と同じ、10アールあたり5万円では、ほとんど役にも立ちませんでした。

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トマトのハウス栽培

 減反のつけの、場当たり的農政で、「金になる農業は施設」だということで補助金をつけて各地に産地をつくり続けることで、日常的に過剰傾向に拍車をかけ、トマト・ミニトマト農家は、安値低迷状況での経営を余儀なくされています。

 その結果、価格は低迷が続いても市場での販売金額では、平年との格差がみられないということで「施設花き」等(10アールあたり80万円)とは一緒にできないと言う農水省の説明です。施設への毎年のメンテナンス、重油・光熱費、パートの人件費等経費はうなぎのぼりです。売り上げは毎年下降では収支が合いません。

 キャベツは、数年前まで価格が堅調だったこともあり、年2作の作付けをする農家も増え、生産量が毎年増えています。

 しかし、2018年の冬に暴騰して以降、業務用は中国産へのシフトが進み、以降は価格の低迷が続いています。特に昨年秋からは、コロナ禍による業務用需要の落ち込みで平年の6割前後の価格が続き、安い時には1箱200円〜300円まで下がり、収穫しないでつぶしてしまう畑も多くみられました。そんな状況下でも、この3月には1000トンを超えるキャベツが輸入されています。

 農水省は収入保険への加入を盛んに進めています。加入した農家は、今は助かっていても、このまま価格の低迷が続けば意味がありません。これが今、全国で起きている現実で、これでは農業は成り立ちません。輸入自由化をやめ、価格保障と所得補償など、農業の実態に応じた支援が必要です。

(愛知農民連 河辺正男・本多正一)


漁業
「若い漁師が他産業に」
香川

浜での魚価はコロナ禍前の1/3〜1/10

与島漁協組合長 岩中熾vさんに聞く

 コロナ禍は漁業にも大きな打撃を与えています。

 小売価格とかけ離れた安い浜値

 「魚価はコロナ禍の前と比べると3分の1から5分の1。10年前からだと10分の1になっている魚種もある。このままでは数多くの豊かな地魚が流通する日本の漁業の姿が変わってしまう」と、強い危機感を語るのは、香川県坂出市の与島(よしま)漁業協同組合の代表理事組合長、岩中熾vさんです。

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スーパー店頭での価格はそれほど変わらずとも、漁業者の出荷価格は暴落している

 与島漁協は5月下旬、コロナ禍で深刻化する魚価の下落対策を求める要望書を、政府宛てに提出しました。

 「50〜60センチはある3・3キロの天然ヒラメが、1キロ当たり100円」「2キロの天然マダイ(50センチ前後)が1キロ200円」「3・5キロのクロダイが1キロなんと50円」…。「10年ほど前なら、これらの魚は通常は4桁、少なくとも1000円台が普通だった。2桁の価格なんて、取れすぎて市場ももう出荷してほしくないという捨て値の時くらいで、めったになかったことなのに、コロナ禍では常態化している」と岩中さんは言います。

コロナ禍で漁業も打撃
国は一刻も早く対策を

 与島漁協は、組合員144人。豊かな瀬戸内海を漁場に、沿岸漁業でタイやヒラメ、サワラやトラフグ、カレイやタコなどを出荷してきました。ところがコロナ禍で、とくに外食向けの需要が大打撃を受け、天然ものを中心に魚価が暴落。長引く暴落で、最近、働き盛りの40代の漁師が他産業に従事する事例が3人も続いています。

 さらにいま岩中さんが懸念しているのは、コロナ禍を脱しても以前の魚価には戻らないのではないかということです。

 「すでにコロナ禍以前から魚価下落は始まっていた。漁業者は取った魚を市場出荷する際、自分で価格を決められない。家庭で魚をさばくことが減り、町の魚屋さんも減り、スーパーで切り身を買うことが増えている。魚介類の流通システムが変化するなかで、漁業者へ支払われる魚価がどんどん切り下げられるという構造的な問題が深刻化している。ひとたび暴落したら、価格回復できるか心配」と言うのです。

 こうしたなかで襲ったコロナ禍の魚価暴落。

 「国や県による一時金や協力金の制度はあるが、コロナ前から半分の減収が条件のものが多く、漁業者の救済にはまったく不十分なのが実態だ。このままでは漁師はどんどん廃業に追い込まれてしまう。漁業者も日本の食料供給の一端を担っている。国は一刻も早く対策をとってほしい」

(新聞「農民」2021.6.7付)
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