新聞「農民」
「農民」記事データベース20221003-1523-07

北海道
酪農が未曽有の危機的事態

半数は値も付かず「持ち帰り」
乳を搾れば搾るほど赤字に

関連/釧根地区 農協・酪農家が「緊急大決起集会」開催


飼料・資材高騰に、
子牛価格の暴落が追い打ち

 飼料高騰で肉牛農家が子牛買えず

 8月下旬、北海道の酪農家を震撼(しんかん)させる事態がおきました。家畜市場でヌレ子(ホルスタイン種の生後2カ月までの雄子牛)の平均価格が1万円を割り込み、根室市場で5900円、釧路市場では6800円の急落となりました。しかも、約半分は値がつかず「持ち帰り」となったのです。

 今年の6月までは1頭10万円以上だった子牛価格の大暴落に、酪農家は途方にくれる事態です。稚内市近隣の豊富市場では3000円台、北見市場でも4000円台と、道内各地の家畜市場で子牛価格の暴落が相次ぎ、価格回復の目途はありません。

 この原因は、配合飼料の高騰で肉牛農家も利益が出ないため、素(もと)牛となる子牛を買い控えたこと、とくに道内の初生雄子牛の2割を買い入れていた大手畜産業者の「神明畜産」が、経営難で民事再生法の適用を申請し、子牛の買い入れを中止したことが影響しています。

 2回とも売れずやむなく殺処分

 9月19日に急きょ開かれた農民連釧根地区協議会の会合でも、「売れるかどうかと思いながらヌレ子を出荷した。売れはしたものの3千円。これではミルク代にもならない」、「ジャージー種の子牛を2回セリに出したが、2回とも売れず、獣医さんに殺処分してもらった」などのやり場のない不満の声が出されました。

 配合飼料や生産資材、燃油などの高騰に加え、農業機械や部品の価格も跳ね上がり、「部品を注文したが、全然届かない。その間にも値上がりが続いている」という状況です。乳を搾れば搾るほど赤字という酪農経営ですが、追い打ちをかけるように、牛の販売価格の大幅下落で「来年の計画どころか、年を越せない」との声があがっています。

 乳価引き上げも「焼け石に水」

 11月から飲用向け乳価が10円上がりますが、北海道産の生乳の多くが加工用で、飲用乳向けは2割程度なのでプール乳価(酪農家に支払われる、用途別に違う乳価を平均した乳価のこと)は2円程度の引き上げにしかならず、“焼け石に水”です。


釧根地区
農協・酪農家が「緊急大決起集会」開催

この危機こじ開けよう

 この未曽有の危機を何とかしたいと、釧路と根室の農協が9月18日、釧路市で「釧路・根室の酪農を守ろう!生産者緊急大決起大会」を開催しました。

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気迫のこもったこぶしを振り上げる参加者

 TPP(環太平洋連携協定)以降、全国の農協は「これからは集会や大会を開かない」としてきたにも関わらず、酪農・畜産の主産地である釧根の農協は決起大会を開催せざるをえないほど、酪農畜産が深刻な事態に直面しているという現れです。

 決起大会では、「ゴム手袋まで2倍になり、あらゆる生産資材が高騰。配合飼料を減らし、粗飼料にシフトしようとしたのに、悪天続きで牧草の収穫もままならない。生後2週間で出荷した子牛は8千円でミルク代にもならない。生産者は課題が大きくて対応できない。ルールが合わないのなら、新たなルールを作るべきだ」との訴えや、根室の女性からは、「これからも酪農を続けたいががんばる気持ちが起こらない。やめたい気持ちになる。国はお金のかけ方を変えてほしい。このままでは乗り切れない」との声があがりました。

 根室地区酪農対策協議会の望月英彦会長が、「先の参議院選挙の公約が守られていたら、我々はここに集まることはなかった。何としてもこの危機をこじ開けよう」とまとめました。

 自給飼料中心の酪農へ転換模索

 今回の酪農危機は、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻、円安、気候変動などが直接の要因ですが、背景には輸入資材に依存した生産体制と国が進めてきた規模拡大政策のひずみもあります。

 農民連釧根地区の皆さんは、「生産も消費も輸入依存から脱却し、アグロエコロジーなどの研究を含めて、肥料や配合飼料をできるだけ使わないで、自給飼料を中心にした酪農畜産に切り替えるための対応策こそが求められている」と議論しています。

(北海道農民連 野呂光夫)

(新聞「農民」2022.10.3付)
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