「農民」記事データベース20000207-436-03

農民連第12回大会報告

(前号の続き)


【2】運動の重点課題について

1.ものを作る人を増やし、多様な産直運動と市場との共同を進める運動は第一義的な課題

(1)この運動が農民運動に占める位置

 この運動は農民運動を確立する基本的課題であるだけでなく、すべての運動を前進させる前提であり、組織の活性化・拡大にも影響を与える課題です。

 政府は、九九年十二月二十七日、九八年度食料自給率が、供給熱量(カロリー)ベースで四〇%に、穀物自給率で二七%に落ち込んだと発表しました。

 ところがこの数値は、とんでもないウソで、事実をねじ曲げたものでした。食料自給率を下げた主要な原因は、品目別で最も大きなウエートを占める米の自給率が九〇%に下がったためですが、政府は、国産米の在庫を取り崩した量を足して五%かさ上げしました。本当は、食料自給率は、四〇%の大台を割り三九%になり、穀物自給率は二六%だったのです。

 前の年の米を使ったからその分を九八年度の生産量に組み込んだといいますが、その在庫米はすでに前の年の食料自給率に組み込み済みのものであると同時に、九八年度の生産量を表すものではありません。苦しまぎれに基準の土俵を広げた机上の空論です。

 また、こんなやり方では、名目上は食料自給率が上がっているはずなのに、実際には食糧がないということにもなりかねません。これから外米がどんどん増やされることによって「余る」国産米はすべて自給率に組み入れられることになり、ますます実態からかけ離れたものになるからです。

 食料自給率を低下させた原因は、農民を苦しめている史上最大の四割にもおよぶ減反の強制によるものですが、自自公政権は、これをまったく変える気がないことを示したものであり、麦・大豆を「本作」とするといいながら、誰もが十アール当たり七万三千円をもらえるようなウソを平気でつく理由が分かるというものです。

 このことは単なる計算方式の問題ではなく、営農の安定を求める農家と食料自給率の向上を願う国民と、政府との新たな対立を生み出したものであり、新農基法の根幹を政府自らが崩したものです。

 農民がこの悪政とたたかわず、黙って屈していれば、ものを作るどころか離農が増えることになります。「ものを作ってこそ農民」です。作らなくなった農民に要求など出ようはずがありません。農民運動の大本が断ち切られます。

 「作る農民がいないのだから、輸入を増やすのは当然だ」という論調を政府はばらまくでしょう。そうなれば、WTO協定の改定はどんなに世界の条件があっても吹っ飛んでしまいます。国産の農産物が欲しいという消費者や流通業者の期待も裏切ることになり、産直運動、市場との共同も進みません。税金申告運動も論外ということになりかねません。

 しかし「農民の苦悩あるところ農民連あり」の姿勢で、農民なら誰でも元気になる「ものを作る」話し合いや寄り合いを行い、展望を語り、農民とともにたたかえば、ものを作る人を増やし、組織の活性化も拡大も進みます。

 食健連運動をさらに重視し、関心を高めている人たちに一回り大きな視野をもって働きかけるなら、国民の理解も深まり「日本には農業と農村が必要だ」の世論も高められ、逆に政府を包囲することができるでしょう。なぜなら、食料自給率の向上と安全な食料を願う国民の幅広い支持があり、政府には国民が納得できる政策を提起する能力がないからです。

(2)何に留意して進めるか

 作る人を増やす仕事は、簡単に進む問題ではありません。一回や二回ビラをまいてだめだったからとあきらめるのではなく、たえず気軽に声をかけ対話し、わずかな農地でも、わずかな作物でも、何を作ればどんな実入りがあるのか、その人の体力や地域の特性も考えた具体的な提案が必要です。まず作ってみれば、農民の喜びが甦ります。高齢者や女性の力を借りることが秘訣の一つです。相手から出された多様な要求の実現に努力することで信頼を勝ち取ることも大事です。和歌山などの事例はこれらのことを教えています。

 会員が自ら元気になりながら、次々に作物を作る仲間を増やしている例もあります。直売所や朝市・夕市は、新婦人産直や生協産直、市場出荷などと違って、そのつど決まったものを決まった規格でなどという難しさがなく、近所の農民が作りさえすれば気軽に持って来れますし、目の前で様子を知ることができます。

 また、様々な課題を解決しながら新婦人産直を発展させることは、世論の形成のうえでも、産直運動の重要性、産直運動の原点をつかむうえでも、このうえなく大事なことです。

 市場との共同は何から始めたらいいのか、何が要求されるのか、どんな運営が必要なのかを、いまや全国の事例から学ぶことができます。「そんな大きなことはできない」と言って、学びに行きもせず、やろうともしないことが問題です。まず自分のところにある農産物を見本として出してみることです。地方の卸売市場では、地元の農産物不足が共通した悩みです。近くで、いつでも気軽に持って行けるようにここへの働きかけ、共同が大事です。

 また、この運動にあたっては、量販店に次々にやられて、商店街が成り立たないシャッター通りになるなど、壊されている生活圏(ライフエリア)を関係者と一緒にどう守るかという視点をいつも押さえておく必要があります。

 県内での組織内の協力やブロックでの協力、全国の協力が、産直運動、とくに市場との共同には欠かせません。助け合えるだけの農産物を全国いっせいの努力でつくり出すことがその保証です。

 この運動の原則や全国の進んだ経験は「学習テキスト」に詳しく書かれています。

2.農業と農山村の復権のために、WTO協定改定と安保条約廃棄をめざす運動を

(1)国際シンポに全国から参加し、成功させよう

 WTO協定の転機を迎えたいま、二月二十日・二十一日に行われる国際シンポジウムと海外代表との国内での交流を成功させることは、これまで述べたように決定的に大事です。

 あと一カ月足らずに迫っています。出足早い県連では、昨年のうちに送付した呼びかけ人の訴えやカンパ帳をもって団体や個人と対話したり、参加したい人を募ったりしていますが、まだ全国的な運動になっていません。

 WTO協定を受け入れたこの五年間に、米価は一俵五千円も引き下げられ、野菜も果実も畜産物も軒並み値下がりが続いています。茨城ではコシヒカリが一俵七千円も引き下げられています。各地の五年間の被害を調査し、宣伝する運動をシンポジウムの呼びかけと合わせて進めましょう。

 これまでの国際交流の成果やWTO閣僚会議決裂をめぐる内容は、新聞「農民」に発表されています。よく読んでこれを確信にするとともに、全国的大運動に発展させましょう。新聞「農民」(四二八、四三一、四三二、四三三号)を必ず持ち歩いて拡大しましょう。

(2)アメリカの横暴を許さない、安保条約廃棄の世論を高めよう

 日本とアメリカの二国間協議で譲歩させられて国内農業をつぶしてしまう、WTO協定改定を言いだせず世界の流れに竿をさすこういう日本政府の姿勢の根底には安保条約があります。安保条約の廃棄をめざしましょう(安保条約がいかに日本農業をつぶしてきたかは、その歴史も含めて「学習テキスト」に詳しく紹介されています)。

 その際、安保条約廃棄で一致しなくても、アメリカの横暴に危機感をいだき、反対する国内外の勢力との連帯で、食糧・農業の面から安保条約廃棄の世論を高めましょう。

3.新農基法の具体化とたたかい、さしあたっての要求実現をめざそう

 新聞「農民」号外や決議案にある「農業再生に向けての農民連のさしあたっての要求」は、政府がその気になればすぐにでもできることです。

 政府は「予算がない」「WTO協定は守らなければならない」と言って要求を拒否しています。大銀行や大手ゼネコンには国民の税金を湯水のように使い、その〇・数%でできる価格保障をやらず、それどころか、この通常国会で大豆、ナタネ、加工乳の価格補償をやめる法案を準備しています。

 大企業にさらに儲けさせるために、株式会社に農地の取得を認める農地法の改悪まで用意しています。

 これでは、食料自給率を上げるどころか離農と土地の荒廃を広げるだけです。

 政府の目はとことん大企業にしか向いていないのです。農業予算の六割を公共事業に回し、価格保障には一割しか使っていません。この六割の金こそ、大手ゼネコンと癒着し、天下り先を用意し、汚職のやり放題の温床になっています。大企業のための政治の仕組みからくる構造的な腐敗です。新農基法を具体化するほど、こんな馬鹿げたことが進んでいくのです。

 WTO協定を守らなければならないと言いながら、WTO協定が認めている中山間地補償では、制限をつけるだけつけて、自治体に負担を押しかぶせ、農民には知らせようともしないで自民党の票を稼ぐ利益誘導の道具にしているのが実態です。指定を返上する自治体すら出ているほどです。

 同じ資本主義国でもEUの施策とは根本的に違う異常さです。EUは中山間地(条件不利地域)の農業と農山村を守ることを前提に補償をしていますが、日本は中山間地の農民への手切れ金の扱いです。セーフガード(緊急輸入制限)の発動も、韓国は三度も発動しているのに、日本はただの一度もやっていません。アメリカが恐くて何の自主性も発揮できないのです。これが自民党型の政治です。

 切り開いた情勢を生かしながら、農民の目線で対話、宣伝し、広範な国民とともに反撃しましょう。

4.自治体への提案と働きかけを進めよう

 さしあたっての要求実現の運動を進めながら、地域でも実施できること、地域から政府に実施させることを迫るためにも、自治体行政を批判するだけでなく、自治体への提案と働きかけを積極的に進めましょう。

 何としても農業と地域経済の再生をしたいと思っているのは、民主的自治体はもとより保守的首長であっても同じです。なぜなら住民に直接選ばれる首長は、住民の要求実現なしには再選はありえないからです。

 いわんや革新の首長は、農民連が選挙母体になっていたり、首長自身が農民連の会員でさえあったりします。まず、この地域に強い農民連をつくり、典型をつくって、全国の自治体に広めましょう。

 その際大事なことは、農民連が地域農業・経済の再生の視点から具体的な要求にもとづいてたたかい、政策として提案し、実施母体になりうる力をもつことです。価格保障、担い手の育成、条件不利地域への援助、市場の管理者としての権限を行使した大企業の買いたたきの規制など、現在でもたくさん行われている自治体の事例を研究しながら、長野県栄村のような土地改良、埼玉県などのような学校給食のパンやうどんに地元の小麦を使う要求を提案し、行政に反映させましょう。「農民連のさしあたっての要求」の実現を求めていくこと、政府の行うべき施策を求める意見書をあげることを要求しましょう。

【3】国民的課題の実現と政治革新のチャンスを逃すな

1.国民的なたたかいの広がりが政府を追い詰める勢いをもってきた

(1)農業者年金の改悪の中身を大宣伝し、年金改悪法を阻止しよう

 年金改悪法案の強行を止めましたが、まだ国会では継続審議になっています。今年の通常国会で自自公政権から再び持ち出されることは必至です。

 さらに、年金改悪法案とからめて農業者年金のとんでもない改悪が予定されています。農民は政府が保証するというから無理をしても掛け金を払ってきたのです。ところが政府は、すでにもらっている人の給付額を三割も削り、いま掛けている農民には掛け金さえ戻ってこないという国家的なサギをやろうというのです。

(2)介護保険の抜本的な改善を求め、消費税引き上げに反対しよう

 介護保険の保険料徴収は半年延びましたが、税金さえ払えない低所得者からの取り立てや消費税の引き上げをねらっています。保険料に見合う看護ができるような基盤づくりはまったく手つかずです。

(3)多国籍企業、大企業のリストラ攻撃に反対し、雇用を守ろう

 日産リストラに代表されるように、ため込んだ金が一兆円もあるのに労働者の首を切るこんなことでは景気は回復できません。不景気は農産物の売れ行きに大きな障害となり、地域経済を冷やすものであり、兼業農民の職場を奪うもので農民にとって他人事ではありません。

 大企業は次々リストラ攻撃を仕掛けています。労働者、国民の生活を安定させてこそ景気は回復します。労働者、地域住民とともにたたかいましょう。

(4)国民大運動に結集してたたかおう

 これらはすべて戦争法の実施と大企業のための予算に食われ、六百四十五兆円四人家族で二千万円の借金という破産国家をつくった結果起きていることです。「軍事費を削って、暮らしと福祉、教育にまわせ国民大運動実行委員会」に結集してともにたたかうことで、要求実現のチャンスを生かしましょう。

(5)アメリカ軍の演習に反対し、名護市の新基地建設を許さない運動を

 沖縄県名護市の新基地建設は、アメリカ海兵隊の「殴り込み」能力を強化し、米軍の沖縄居座りを“永久化”するもので、日本の戦争の危険をますます大きくするものです。新基地建設は同時に、肥沃な土地を追い出され、五十年かけてようやく完熟パインを作って産直をしている沖縄の仲間から、その土地まで取り上げようとしているのです。

 平和あっての農業です。アメリカや自衛隊の演習による農畜産物や農民自身への被害に反対する行動や、基地撤去の運動と合わせて名護新基地建設に反対しましょう。

2.農業と暮らしの破壊を続けさせないため、総選挙は、自自公政権を追い落とすチャンス

(1)悪政を進める自民党型政治をやめさせよう

 要求運動とともに、早ければ来月にもといわれている総選挙に向け、政治の転換をさせようという対話を進めましょう。

 その際、自自公政権の悪事の数々をいうだけではなく、先の参院選挙で野党が勝ったのに自民党の思惑どおりの政治がなぜ続いたのか、なぜ野党の結束ができなかったのか、いまなぜできるようになったのか、さらに野党が結束できて自民党型政治をやめさせることのできる一番の保証は何か、自民党と対決し、対案を出して農業再生を一貫して追求してきている政党はどこかなど、事実をもって全農民規模で対話し「誰がやっても同じ」とか「政治は変えたいけど、変えられない」という多くの農民の心を動かす運動を精力的に進めましょう。

 農民連も支持母体になっている大阪府知事選、京都市長選は総選挙の前哨戦です。全国から支援をしましょう。

 もちろん、農民連行動綱領に即して、会員の政党支持・政治活動の自由を保障することは言うまでもありません。

(2)革新懇運動に積極的に参加しよう

 総選挙など選挙のときにかぎらず、農村で政治を語ることは大変大事な問題です。政治が直接身近な営農や暮らしに関わってきていることは、これまでの話で十分だと思います。

 政治を語る、地域の情勢を語るうえで革新懇の存在は大いに役立つものです。「同じ人が集まったって」とか「懇談だけでは……」とか「分かっちゃいるが」とか言って参加しない組織があります。

 地域の農業再生のシンポジウムには、今までの運動の成果が実って単位農協の組合長、農業委員会長、自治体の首長、議長、村の実力者などがシンポジストになったり、参加してくれる条件が広がっています。

 革新三目標の一つでも一致すれば、もっと言えば、政治の転換を願う人ならば個人でも団体でも誰でも参加できる組織です。懇談でいろいろな意見を聞くことは視野を広げ、明日の活動の糧になることは、全国革新懇の会議に参加して痛感することです。革新懇運動に積極的に参加するとともに、地域での革新懇の結成に力を合わせましょう。

(新聞「農民」2000.2.7付)
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