佐々木健三会長の開会あいさつ実践活動通して農業、農山村の復権を全国研究・交流集会
お忙しい中、全国からの参加ご苦労様です。この研究交流集会は、一月の大会から半年が経過した折り返し点であり、この間の全国の活動や経験を出し合い学び合い、大いに発展させ「共育ち」で成長するということがねらいであります。そして今回、初めて東京での開催です。ここ浅草は春の東部共同行動など、地域ぐるみで運動の展開されているところであり、広範な国民との共同を目指す農民連にとっても、意義あるものであります。
参院選の結果と今後のたたかい七月に行われた参院選挙は異常な小泉旋風のもとで、自民党が単独で過半数を得る結果となりました。これは「自民党を否定」して「自民党が圧勝する」という、政治的なねじれ現象と見ることができるのではないでしょうか。現に選挙後、小泉政権に何を期待するかという問いに対して、多くの国民が求めているのは、景気を回復してほしい、医療や福祉、老後の不安をなくしてほしい、仕事がほしいなど、この政権が「構造改革」の名のもとで一番犠牲を負わせようとたくらんでいることであり、ここに致命的な矛盾があります。農業分野についても同様であります。私達は、「セーフガード暫定発動を勝ち取った力で農業、農村を復権させよう」「自民党農政を根っこから変えよう」の新聞「農民」号外を百二十万部活用して、大きな運動を展開しました。セーフガードの発動や外米の削減、予算を価格保障に使うこと、自給率向上とWTO協定の抜本的改定など農民の切実な要求にもとづいたものであり、大きな共感と期待が寄せられました。 これに対して小泉政権の「構造改革農業版」は、正に農民に痛みを押し付ける家族経営農業壊滅政策であります。景気悪化による農産物価格の低下、不良債権の最終処理による中小企業の倒産、そこに働く兼業農民のリストラ・失業、農協からの借金取り立ての強行、四十万戸の大規模農家を育成するかのような幻想を振りまきながら家族農業経営を壊滅し、「非効率」な農業を切り捨てるなど、農民の要求とは真っ向から対立するものであります。この自民党の悪政に対し国民諸階層と共同し、価格保障と輸入制限によって真に日本農業を守る政策の実現を目指して奮闘しようではありませんか。
21世紀への危険な策動―靖国参拝と新しい教科書問題参院選を前後して、小泉内閣の危険な動きが現れています。A級戦犯を合祀した靖国神社に内外の厳しい批判を無視して参拝したこと、歴史事実を根本から歪める、「つくる会」教科書を検定合格させたことなどです。これはアジア諸国と日本国民に、計り知れない犠牲を与えた侵略戦争を肯定する以外のなにものでもありません。しかも集団的自衛権の研究、憲法の早期改定など危険な政治姿勢を現わにしています。戦後五十六年を経て、「あの戦争は、正義の戦争であった」という策動を見過ごすことはできません。
私の体験を通して私事になりますが、体験を話したいと思います。私は一九四一年(昭和十六年)生まれで、父は一九四五年(昭和二十年)南方バギオ島で戦死しております。この父が、死の直前に実家の妻(私の母)に宛てた手紙がありました。今から数年前、母が大事そうにして私に渡したものです。手紙はすっかり変色していましたが、文面はよく判るものです。内容は次のようなものでした。「自分は間もなく南方へ向かう。恐らく生きて帰ることはできないだろう。幼い息子(私のこと)が立派に成長し、人の役に立つ人間に育ててほしい」という内容でした。丁度、現在の私の息子と同じ年代の若者が、愛する妻や幼い息子に切なる思いを寄せ、無念の死に向かう気持ちが行間から伝わり、滂沱する涙を押さえられませんでした。これは私の個人的な体験だけでなく、多くの国民が被った苦しみ悲しみでありました。同時に、日本がアジアの国々を侵略し暴虐の限りをつくしたことを決して忘れたり風化させてはならないと思います。
この間の運動について―セーフガードの暫定発動をさせた力を一層発揮させWTOの改定をめざそう―この成果が、私たち農民連の運動によるものであることに確信を持ちたいと思います。全国知事会会長の土屋埼玉県知事を訪ね、要請を行った際に、「この運動はあなた方の力によるところ大です」と語っておられた事にも見られるとおりであります。同時にあくまでも暫定発動であり、本発動を目指し、また他品目への拡大を目指す運動を強化していきましょう。 同時に今、全国各地で豊作を理由に収穫直前の稲の青刈りが強要されています。農民の心を土足でふみつけるものであり、心から怒りが込み上げてきます。この際限なく続けられる減反政策は結局のところ、減らした分が輸入されるという欠陥政策であることは、赤子でさえ判ることです。 参院選で各地をまわりこのことを話しますと、誰もが「そのとおりだ」と言います。ならばどうするのかと聞かれ、私は迷わずWTOの改定をすることだと答えました。でも、なかなか難しいことではないか、という声が返ってきます。しかし、今から数年前、セーフガードの発動を求める運動がはじまった頃のことを考えてみましょう。我々は粘り強くたたかって大きな運動で発動させました。WTOを改定せよの声は、今や国内だけでなく、世界の運動へと広がりつつあります。九月には、非同盟運動についての国際シンポが開かれ、十一月にはローマ、カタールで国際会議が開かれます。壮大なたたかいが、必ずや前進するし、みんなの力でさせようではありませんか。
もの作り仲間をふやそう輸入農産物は、相変わらず増えつづけており大きな問題です。最近でも、JRの子会社NREがアメリカ産あきたこまちを使った冷凍弁当を輸入し、農民連分析センターによる分析で、これがゴマカシであり、違法、脱法行為であることが明らかになりました。私たちの厳しい追及に対して財務省は、JR東日本の弁当については、厳重検査を指示するという成果を上げました。併せて報告しますと、ベビーフードから農薬が検出された件で、新婦人の皆さんが厚生労働省交渉を行い、前進を勝ち取っています。農民連分析センターが大変大きな力を発揮しております。改めて分析センターへのカンパ活動を強化することを訴えたいと思います。 一方、ものを作る運動でも、各地で行われています。昨年に引き続いて取り組まれたスーパースイートきぼうのリレー出荷をはじめ、秋田中央市場での午後セリの成功や東海ネットの生協の空き店舗を活用した直売店、さらに広がりを展望できる“ほくほくネット”の活動など各地でさまざまな活動が広がっています。 生産現場では、異常気象に悩まされたり、酷暑の中の厳しい作業に汗しながら、みんな頑張っておられます。でもその苦労も、消費者の方々から「おいしいですよ」とか「私たちも応援しています」などの声をかけられると、また頑張ろうという気持ちになってきます。 今農村では高齢化が進み、「農業は俺一代で終わり」というあきらめがあるのも事実です。そういう時だからこそ、ものを作ろう、産直や市場出荷をやろう、農業情勢や政治を学び、行動しよう。こんな働きかけをやろうではありませんか。この研究交流集会に多くの経験や活動が反映され、秋以降の大きな飛躍になることを願っております。 最後になりますが、先日何気なく観ていたテレビの番組に、こんな内容のものがありました。北海道の最北端の来年には廃校になってしまう小学校の話です。この学校では、子供達に短歌を指導していました。小学校二年生の女の子は、子牛の誕生を詠み、高学年の子は雄大な大地を、また母牛とのつらい別れを詠うなど、自然の営みの中で本当に豊かな人間性が作られていく様が映し出されていました。厳しい現実の中にあっても、人が生きていくうえで、自然や農業のもつ大きな力をつくづく感じました。 私たちは今大会の方針で、「農業と農山村の復権を」と呼びかけています。この大きな志に向けてみんなで奮闘することを呼びかけたいと思います。
(新聞「農民」2001.9.17付)
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[2001年9月]
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