輸入米が姿を変えてあなたの口へ(1/2)伝統的な日本の味 危機/輸入米が姿を変えてあなたの口へ(2/2)
「おれは外国産の米なんか口にしたことはない」。そういうあなた、本当に自信がありますか? ご飯だけが米ではありません。日本酒、せんべい、和菓子、味噌……米を主な原料とする伝統的な日本の味が、輸入米の進出で姿を変えてきています。いまや外国産の米を口にしない方が、むしろ不自然といっていいくらいです。
せんべい、和菓子、味噌などの原料米の原産地表示を8米穀年度(一九九五年十一月〜九六年十月)から始まった米の輸入(ミニマムアクセス米)は年々増え続け、直近の14米穀年度は七十七万トンにのぼっています。このうち二十四万トンが加工用に使われています。(表参照)
この加工用の輸入米はどこへ流れているのでしょうか。食糧庁流通部計画課の話では、こうです。 「それぞれの工業組合を通して、焼酎や味噌、せんべいなど米菓、和菓子のメーカーへ販売しています。それが14米穀年度で十八万トンです。これらの組合に属していないごく小さなメーカーやライススターチ業者、米こうじ業者、それから卸に委託して加工業者へというルートもあり、これらで六万トン。この六万トンの中には二万トンのSBS砕精米、もち米が含まれています」 味噌やせんべい、和菓子といえば、日本ならではの伝統的な食品です。 消費者は、これら食品の原料米が輸入品かどうかを見分けることができるのでしょうか。答えは、否です。主食用の米なら原産国の表示が義務付けられていますが、加工食品にはそれがないからです。これでは「せんべいや和菓子、味噌くらい国産の米でつくったものを」という消費者にとって、選択の自由が奪われたも同然です。 では、せめて輸入米を使っているメーカーを公表できないか。 食糧庁流通部計画課の杉浦和信さん(課長補佐)はいいます。 「国産でつくったものかどうか分からないというのは事実ですが、数量はもちろん、どのメーカーに売っているかは企業活動の範囲ですから、公表していません。だけど組合に入っている大手で、主なところは(外国産米を)買っています。原料としていくらのものまで企業が購入できるか、最後はコストの問題、バランスの問題ですから」 BSE偽装肉事件などを通して、農水省はあたかもそれが農民サイドの農政のためだったかのようにいって、「消費者に軸足を移した農政への転換」を宣言したばかり。そしていま、「食品がいつ・どこで・どのように生産・流通されたかなどについて消費者がいつでも把握できる仕組み(トレーサビリティシステム)の導入」(「食」と「農」の再生プラン)をいいながら、消費者に選択の機会さえ与えようとしないのでは、納得がいきません。 原産国の表示をするか、企業名を公表するか。農民連は情報公開制度に訴えて、とりあえずは企業名の公表を求めています。
日本酒すべて“国産”か?外国産米は、酒造りには使われていないのでしょうか。MA米を扱う食糧庁に聞くと、「清酒用には、いっさい売っていない」(流通部計画課)と断言します。 また酒造メーカー団体の日本酒造組合中央会でも、「外国産米は使っていない」と言い切ります。「中央会では毎年、製造計画と製造実績を調査しています。この調査で、外国産米の使用を問う項目では、どの社もゼロになっています」と、同中央会の船戸正義氏。それに、「米菓や和菓子などほかの業界と違って、日本酒業界は輸入米を買えないんです」とも。 「SBS米は自由に買えるはずですが……」とこちら。買えないというのは、法的なしばりがあるのか、それとも中央会の内規でそうなっているのか。明確な答えはありませんでした。しかし、もし何らかのしばりがあって、輸入米を買うことができないのであれば、外国産米の使用を問う中央会の調査で、「各社ゼロ」と出るのはむしろ当然です。
「私は見ている」社長が証言ある酒造メーカーの社長が証言します。 「国産の加工用米が、政府の補助を受けて安く入ってくる。だから業界の立場上、正面切って外国産米を使っていいとか、使っているとはいえないだけだ。実際には、酒造メーカーでは外国産米を使っている。私自身、現実に見ている。使う米は、SBS米がいっぱい入ってきている。関税を払って買う米も、主食用として七〇%精米で輸入するので、関税率も三割減ほどになり、国産米とほぼ同じくらいの値段で買える。ただ外国産米を入れているところでも、調理用の酒に使っているといわれれば、工場に立ち入らない限り真相は分からない」 同社長は、「みりんは七割近くを外国でつくっている」といいます。また、「低価格酒を志向しているメーカーで、米粉調製品で酒を造る施設を持っているところは、外国産の米粉を使っている可能性が高い」とも指摘します。 米粉調製品の輸入量は二〇〇二年で十万トン余。これは食糧庁を通るMA米の枠外で、加工米として入っています。 食糧庁計画流通部計画課の課長補佐、杉浦和信氏は、「安い酒には外国産米が流れているのではないかという業界の中の噂は聞く。大手メーカーはオーストラリアやアメリカで清酒をつくっているので」といいます。SBS米が使われている可能性については、「あるとはいえないが、絶対にないと否定することもできない。卸経由でメーカーと結びついているという噂も耳にする」と話します。 主食用のSBS米は、卸業者を通して販売され、販売先は規制されていません。そのうえ、WTOモダリティ案でいうように関税が約半分に引き下げられれば、外国産米がドッと入ってきます。そのことから、「大手の酒造メーカーは、輸入米で清酒を造る体制の準備に入っている」といわれています。 日本酒造組合中央会も「原料米は価格、数量を交渉して購入しているが、国産米はやはり高い。いまは選択枠がないので、外国産米は選択肢の一つとして魅力がある」と否定しません。 MA米の輸入が始まったのが、一九九六年。その翌九七年には「清酒の製法品質表示基準」が改められ、外国産米も純米酒、吟醸酒、本醸造酒など特定名称酒に使用できるようになっています。一般酒や低価格酒ばかりでなく、純米酒、吟醸酒なども外国産米を使える道がすでに敷かれているのです。 国税庁課税部酒税課では、「海外で生産する特定名称酒は、日本の規格と同等の検査でクリアした米が使われます。どんな検査機関で検査するかは、とくに求めていません」といいます。また、「海外で造った特定名称酒が、日本にどれだけ入っているのかいないのかは、把握できない」ともいいます。 海外で造った清酒は、原産国名の表示が必要ですが、国内で造った清酒には原料の原産国名の表示は義務付けられていません。 外国産米は、最後の砦ともいうべき〃国酒〃にまで、その手が大きく伸びてきているのです。
焼 酎焼酎(乙類)の原料となる米は、戦後、食糧が切迫していた当時、45酒造年度(昭和四十五年七月〜四十六年六月)までタイ米を使っていました。鹿児島県酒造組合連合会の専門研究員、浜崎幸男さんがいいます。 「国産米が過剰になりだしてからタイ米が使えなくなり、古古米を使わされてきました。国の農政で変わってきましたから。九三年の大不作のときには、焼酎に回す米はないというんで、またタイ米に変わったんです。メーカーでは、できれば国産米を使いたいといっています」 タイ米は固く、二度蒸しするなど技術的な工夫をしている、といいます。米の性質が違うため、国産米と混ぜて使うことはありません。 もちろん、すべてがタイ米というわけではなく、国産米を使った「原料の差別化」を売りにした焼酎も造られている、といいます。 また、沖縄の泡盛がタイ米を使っていることはよく知られています。
(新聞「農民」2003.4.14付)
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[2003年4月]
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