ブックレット『食糧主権宣言(案)』を読んで
教育評論家 三上 満さん
憲法9条、食糧主権
日本の進むべき道照らす
雑誌「農民」増刊号を読みました。この号には、農民連が提案し、広く討論を呼びかけている「食糧主権宣言(案)」と、今年五月に行われた国際フォーラム「WTOから食糧主権へ」の記録が収録されています。
この号をいっきに読んだ思いをひとことで言えば、「すべての日本国民が読むべき本だ」ということです。なぜなら「宣言(案)」が明らかにしているように、日本ほど食糧という最も基本的な問題で大きな危機をはらみ、また世界の飢餓や食糧供給に深くかかわっている国はないからです。この増刊号は、食糧という窓を通して日本という国のあり方を根本から問い直すものとなっています。
そしてその根本の問題とは「主権をとり戻す」ということです。BSE問題や米のミニマム・アクセス問題、広範な食料輸入の自由化など、WTO体制の中で日本の食糧自給がいかに侵され、日本の農業が危機におちいっているかを、この「宣言(案)」は、怒りをこめて明らかにしています。
さらにこういったWTO体制のもたらす害悪と犠牲が、主として家族経営による集約的な農業を主体としたアジアその他の地域に及んでいることを明らかにし、世界的な規模での連帯をよびかけ、そのキーワードとして“食糧主権”を高らかに打ち出しています。収録されている国際フォーラムの記録は、その可能性と展望を力強く私たちに示してくれています。
「宣言(案)」のなかに「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はありえない」という宮沢賢治の言葉が引用されているのも、私にとっては感激でした。日本をふくむアジアモンスーン地帯の農地の、高い人口扶養力などの分析もあり、この「宣言(案)」の方向で日本の農業生産力が生かされるなら、どんなに大きな国際貢献ができるかと、わくわくするような思いにもかられました。憲法九条と食糧主権、このふたつの柱による国際貢献、日本の進むべき道が見えてくる本です。
(新聞「農民」2006.8.14付)
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