「農民」記事データベース20061106-755-07

日経調「農政改革」提言と
日本の農業・農民

駒沢大学名誉教授  石井 啓雄(いしい ひろお)


第9回 農地法の権利移動統制と「提言」

 今回から数回、現在の農地制度の主要な規定とその意味などについて述べながら、それにかかる「提言」の具体的提案について検討していきましょう。

 農地法第3条の許可制度

 まず農地法第三条ですが、これは農地法の最も核心的な条文で、農地の耕作目的でのすべての権利(所有権のほか賃借権および使用貸借による権利その他いっさいの使用収益を目的とする権利)の設定・移転は、農業委員会あるいは都道府県知事の許可が必要だと定めています。いわゆる権利移動統制で、その許可要件のポイントこそが、先に述べた農作業常時従事義務なのです。このことによって、自らは農業の価値生産的労働に従事しない自然人または法人の、資産所有目的、搾取目的、投機目的などの農地の買い入れ、借り入れなどは許されないのです。これが、一九七〇年改正後の農地法が自然人耕作者主義だと言われるゆえんです(農業生産法人のことは一括して後述)。

 また現在では、基盤強化法によるものとなっている利用権の設定・終了の制度は、一面では後述の賃貸借の解約等の制限にかかわるのですが、基本的には個別的に三条許可の手続きをとらないでも、農業委員会の決定を経た市町村の公告する農用地利用集積計画のかたちで、多数の(所有権を含めて)利用権の設定・移転を一括して促進しようとする制度です。

 こうした制度のもとで、一九七〇年当時、一年に十一万ヘクタール程度だった耕作目的の権利移動は、所有権移転は減っているのに賃借権の設定が(終了に伴う再設定を含むものの)大幅に増えて、一年に二十万ヘクタールにも達するようになっています。そしてそれは、規模拡大になる傾向を強めています。

 なにがなんでも法人企業

 しかしながら「提言」は、「農地の集積は遅々として進んでいない」とか、「基盤強化法による利用権の制度はバイパス的(な)処理」にすぎないとか言い、日本農業を「産業として自立」させるためには、「農地法の根幹をそのままにしてあるところに矛盾が生じ」ているので、「根本的に見直す時期に来て」おり、「借地中心の農地制度を確立することが望まし」く、所有も当然にありうるが、「長期安定利用の仕組みを設けること」というのです。

 また、農地の利用者、つまり農業の経営者については、現に存在する農民的家族経営のうち、企業化したもの以外はすべて無視して、「農地利用の厳格化を前提に参入規制の緩和を追及し…、経営形態の如何を問わず、農地を効率的に利用する農業経営に長けた者に農地を委ね、農業の活性化を図ることである」といい、「食品・外食企業を中心に…、異分野(企業)からの参入促進」まで、「確かなものにする措置を講ずる必要がある」とするのです。

 これは、農業のプロたる農民をばかにした、法人企業万能・万歳論ですが、なによりも重大なのは、本質的には農地に関する権利取得自由化論であることです。しかもなお、「提言」はそれを正面からはいわないで、具体的には外堀を埋めるようないくつかの提案をするのです。

 ところが、皮肉にも、それが高木委員会の農地制度だけでなく民法などに関する一知半解と、政策の実効性に関する無責任を示すことになってしまっているのですが、それについては、次回以降で述べます。

(つづく)

(新聞「農民」2006.11.6付)
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2006年11月

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