「農民」記事データベース20061127-758-08

日経調「農政改革」提言と
日本の農業・農民

駒沢大学名誉教授  石井 啓雄(いしい ひろお)


第12回 「提言」の空恐ろしい素人的な論議(3)
転用と担当行政機関の問題〈上〉

 農地転用の規制方法と実態

 民法の特別法でありながら行政法だともいえる農地法は、第三条の耕作目的の権利移転統制をベースに、農地を農地以外にかえる転用も規制しています。権利移動を伴わない、いわば農家の自己転用が第四条、売買、貸借など権利移動を伴うものが第五条によります。許可権者は四ヘクタール超(一九九八年以前は二ヘクタール超)のものが農水大臣、それ以下のものが都道府県知事です。ただし、都市計画法上の市街化区域内の農地の転用は、許可不要で届出で足ります。

 その「許可基準」は、当初は次官通達によっていましたが、地方分権法制定のおりの九八年にそれがそのまま法律事項になりました。そして農振法による農用地区域内の農地の転用は、原則許可されないほか、土地改良をした集団的で優良な農地などはなるべく避けて、秩序だった土地利用になるよう図りながら、条件はつけるものの実需要には応えるものとして一貫して運用されてきました。

 しかし、決して軽視できないのは、国・都道府県のほか、それに準じる公的機関の転用が許可不要であることです。そのため、道路をはじめとする各種公的・公共的施設用地への転用が、「転用許可基準」も、次回に述べる線引きも、ほとんど無視して行われてきました。

 この農地転用の面積は、経済の高度成長開始以来、工業化、都市化、公共土木事業の拡大・一般化以来どんどん増えて、一九七〇年代初めには一年に六万ヘクタールを超え、百年で日本に農地がなくなってしまうほどにまで達しました。ただその後は減少に推移し、不況が続くなか最近では二万ヘクタールを下回るようにはなっています。用途別では、住宅用地と商工業その他用地が主ですが、許可不要の公的・公共的施設への転用も無視しがたい比重(転用総面積の一五〜二〇%弱程度)を占めています。この全国の広域に及ぶ大面積の四条許可以外の転用(転用総面積の約八〇%)の際の農地買取価格の高さは、基本的には、法人大企業の支払能力の高さ、言い換えれば利潤の多さによると筆者は思っています。

 また公共的な道水路などへの許可不要の線的な転用(同一〇〜一五%程度)の際の国などの高い買収価格が、代替地の取得などを通じて、広く農地の農地としての価格を高めてしまったことも、農業の発展にとってはマイナスに作用するものでした。

 財界の主張の転換

 ところで財界は、農地制度といえば、長い間、この転用規制を激しく非難し続けてきたのですが、一九九〇年代に入ったころから、態度を一変させてこのことは言わなくなりました。そして法人企業に農業を直営させるためとして、第三条の統制を非難しはじめたのです。その現時点での手の込んだ典型が日経調「提言」です。

 この財界の主張の転換がなぜ起こったのかはともかく、「提言」はなんらの立証なしに、また事実にも反して「転用許可基準は、公開性や客観性に乏しい」と断定します。そして、またこれもなんの立証もなしに「本来、転用規制に最も効果的な制度はゾーニングであ」り、「住民参加型の行政から独立した機関によ」るゾーニングによって三十年間程度は(転用を)完全に禁止するといった措置が必要であると主張するのです。

(つづく)

(新聞「農民」2006.11.27付)
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2006年11月

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