「農民」記事データベース20070115-763-07

日経調「農政改革」提言と
日本の農業・農民

駒沢大学名誉教授  石井 啓雄(いしい ひろお)


第15回 小作料・地価と農地課税問題(上)

 農地改革が基本的に法人の農地所有と農業経営をも解体したことは、連載第七回で触れましたが、戦後農業の展開のなかで法人化問題が起こったのは、一九五〇年代の後半でした。

 農業生産法人制度の創設

 税制における家族労働の正当な評価、他産業並みの社会保障制度の適用などを求める農民の要求と運動があり、また協同のかたちをとらなければ大型機械や施設の導入への助成を受けられなくなったという事情もありました。

 こうしたなかで、一九六一年の農業基本法の制定を受けて、翌六二年に農事組合法人の制度を創設した農協法改正を伴う農地法の改正で、農地に関する権利をもてる唯一の法人として、農業生産法人の制度が同法中に制度化されたのでした。

 しかし当初のこの農業生産法人の制度は、一戸一法人化も可能ではありましたが、耕作農民の共同経営を可能にするということが本旨で、法人格は農事組合法人か人的結合的な合資・合名・有限会社に限り、資本結合的な株式会社は不可とするものでした。そしてその農業生産法人が営める事業の範囲、構成員、役員、農地提供、労働提供、出資配当などについても、その趣旨との関係でかなり厳しい条件が定められていました。

 こうして当初設立された農業生産法人は、畜産や果樹・野菜などの追加部門を従来の各自の経営とは別に、共同で設立するというものが多く、米麦作を中心としたものは山形県の庄内と北海道の深川などでは目立った(ただし、それらもその後ほとんど再編あるいは解散した)ものの、全国的には限られたものでした。その数も一九九五年ごろまでは微増に推移するにとどまりました。

 ところがこの間に、政府・農水省は、財界のほか農業団体と消費者団体などの要求を背景に、大小の農地制度の「改正」のたびごとに、農業生産法人の要件の緩和を重ねました。とりわけ一九九〇年代に入ってからのWTO協定の批准を予定した「新政策」のころからは、規模拡大と並んで農業経営の企業化、法人化を農政の目的のひとつに据えて法人化を奨励するようになりました。

 生産法人としての株式会社の容認

 そしてついに二〇〇〇年の農地法「改正」では、財界の望みに沿って、株式会社でも一定の要件を満たせば農業生産法人になれるよう要件を緩和してしまったのです。

 その緩和された要件の主な点は、(1)定款によって株式の譲渡制限を定めること、(2)農作業常時従事義務は業務執行役員の四分の一以上が負えばよいこと、の二つですが、なお、(3)この農作業常時従事の考え方の基準を年間百五十日以上から六十日以上に引き下げることも行われました。自然人の農作業常時従事義務要件がかわらないままでのこの農業生産法人の要件緩和は、生産法人に対して不公平に甘いものです。

 農業生産法人数の推移は、次回に紹介しますが、こうした農水省の強い奨励のもとで、二〇〇〇年代に入るころから有限会社を中心に農業生産法人の数が急に増えるとともに、米麦作を主部門とするものの比重が高まっています。

 農業生産法人の要件を満たす株式会社は改組と参入を含めて、二〇〇五年初めにすでに百二十社に達していましたが、二〇〇五年の会社法によって、今後は、有限会社の制度はなくなるので、これからは農民出自のものでも農事組合法人の形態をとらないかぎりは、ほとんどが株式会社になっていくだろうと予想されます。

(つづく)

(新聞「農民」2007.1.15付)
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2007年1月

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