再刊「下水内(しもみのち)郡農民運動史」を読んで
長野県中野市 遠山 茂治さん
戦後まもなく、ガリ版印刷で発行された「下水内郡農民運動史」が、このたび活版で再刊されました。長野県北部の飯山市一帯が舞台で、著者はスキーで名の知られる斑尾(まだらお)山ろくの小部落、親川の黒岩仁助さん(1901〜1965)です。
共産党への大弾圧があった「3・15事件」の年(1928年)、村の青年団長であった黒岩さんは、下水内郡連合青年団の代議員をつとめ、その間、下水内社会科学研究会に入会。全国農民組合(全農)下水内委員会にも参加し、のちに委員長として農民運動の先頭に立って、各地の小作争議に参加しました。
この著書には黒岩さんが体験し、あるいは聞き取りした運動の実践記録がなまなましくつづられています。小作地を取り上げようとする地主に対して「断固、大衆耕作をかけることに一決し」「全郡の精鋭20名ばかりが」「自転車にくわを結びつけて来て、瞬く間に1反2、3畝を耕作し」「嵐のように来て嵐のごとく去り、大衆耕作は大成功」と述べ、現在では考えられないことをやってのけています。また付記として加えられた「電気料金値下げ闘争」も、貴重な実情報告記です。
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著者の黒岩仁助さん |
戦後64年、現在の視点からすればいささか乱暴な部分もありますが、昭和初期の農村不況のなかで、農民組合がいかに苦境にたつ農民と接しその要求にこたえたかを、理屈でなく行動を通じて農民と結びついていたかをこの著書は物語っています。治安維持法による思想統制、さらには交通事情の悪さなどを考える時、当時の運動とともに記録として残されたことに敬意を払うものです。
▼定価 800円(送料別)
▼問い合わせ先 TEL 0269(65)3609 出澤尤治郎あて
(新聞「農民」2009.11.23付)
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