本の紹介
川瀬氾二著
矢臼別の馬飼いと自衛隊
自衛隊の用地買収とたたかう
開拓農民の生きざまをつづる
本書は、自衛隊矢臼別(やうすべつ)演習場の用地買収に応じず、最後まで自分が開拓した土地から離れなかった開拓農民、川瀬氾二(はんじ)さんが「自分史」とも言うべき、開拓とたたかいの生きざまをつづった内容の本です。
終戦直前に岐阜県で招集されるところから「自分史」は始まります。半月後には終戦を迎えたため実家に居候しますが、北海道での開拓への道を踏み出し、弟子屈(てしかが)拓殖実習場で1年間の農業実習を終えた後、別海村三股に入植します。
本人は「ぐうたら」開拓と言いますが、厳寒の原野での開拓は生やさしいものではありませんでした。「自分流」というか「マイペース」というか、試行錯誤を繰り返して生きていく様がユーモラスを持って綴られています。
そして開拓11年目に自衛隊の演習場の用地買収が行われ、「人生のハイライト」が訪れます。はじめは買収に応ずるかどうかを決めかねていたようですが、演習場での「定住元年」が始まってしまいます。そしてさまざまな支援者との交流を通して、平和運動、農民運動にその身を投ずることになります。
川瀬さんは2009年4月、82歳で亡くなられましたが、はじめてお会いしたのは1972年。別海西春別農民組合の書記長として、固定資産税の増税反対や乳価闘争の中心となって活動されていた時でした。この本の発行者である三宅信一先生の講義で、「川瀬さんは自衛隊の演習場に馬や牛を放し、自衛隊から糞(ふん)があるためにほふく前進などの訓練ができないなどの抗議を受けているにも関わらず、ど真ん中でたたかっている」という話を聞いていたので、相当の“つわもの”と思っていました。しかし、その姿は「反戦地主」というよりは、ぼくとつな農民という印象しか受けませんでした。
戦後の北海道入植者の群像、無理をしない農業のあり方を問うものとして、一読の価値ある本です。
(農民運動北海道連合会 野呂光夫)
▼定価 2200円
▼申し込み先 釧路市千歳町10の49 三宅信一 TEL 0154(41)1484まで
(新聞「農民」2011.7.4付)
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