便秘をしない食生活で
放射性物質防御しよう
埼玉食健連・学習会
関連/「大豆やみそが被ばくに効く」本当ですか?
埼玉食健連(農業・食料・健康を守る埼玉連絡会)は9月3日、「水・食品の放射性物質汚染と、その対策を考える」をテーマに学習会を開き、大妻女子大学名誉教授の池上幸江さんが講演しました。その一部を紹介します。
大妻女子大学名誉教授
池上幸江さんが講演
断定が難しい低線量の被ばく
放射線の健康被害で心配なのは、被ばくして数年から10年以上たって発症する「晩発性障害」です。しかしこの間にさまざまな病気の要因が入ってくるので「放射線の影響によるがんだ」と断定することは困難です。
また食品や水、大気などから放射性物質を体内に取り込む「内部被ばく」や、全員に同じ影響が出るのではなく、100人いたら5人だけに影響が出るような「確率的影響」も心配されています。
100ミリシーベルト以下の「低線量被ばく」も問題です。実は、低線量被ばくの健康被害は、科学者のあいだでもさまざまな議論があって、今でも明確になっていません。とくに判定が難しいのは、低線量を長い間被ばくし続ける場合です。喫煙したり、食生活がいい加減でもがんになりやすく、「低線量被ばくならたいした影響はない」という口実に使われかねないという面もあります。
DNAを傷つけがん起す放射線
水と食品からの放射性物質の影響でいちばん問題になるのは、やはりがんだと思います。細胞のなかのDNAは核酸という物質を含んでいるのですが、この核酸に放射線があたると、酸化して分子が切れたり、別の化合物に変わってしまったりしてがんが発生します。私たちの体にはこれを修復する働きもありますし、食生活である程度防御することもできるのですが、修復能力が追いつかないほど増えてしまうと、10年後、20年後にがんになるわけです。
ところがどれくらいの被ばくでがんが起こるのか、まだ明確になっておらず、放射線については「これより少量なら影響なし」という“閾値(いきち)”がないんですね。今後の科学の課題として、おとなと子どもの影響の違いや、内部被ばくと外部被ばくの影響の違いなども明らかにされる必要があると思います。
放射性物質除去には調理が有効
放射線医学研究所が、原発事故後もっとも線量の高かった3月14日から4月11日の東京都民の被ばく量の試算を出しています。この内訳を見ると一番多いのは、食べ物経由の内部被ばくなんです。「厚労省が検査する時も洗ってから測定するので、家庭で洗っても放射能の数値がさらに減ることはない」という意見もあるのですが、やはり調理することで放射性物質は6〜8割が除去できます。とくにゆでる、よく洗う、外側を取り除くなどは有効です。
食物繊維の多い食物で快便生活
私なりに考えた「子どもたちの健康を考えたオススメ食生活」を紹介しましょう。
おとなもそうですが、大事なのは「便秘を起こさない食生活」です。バランスのとれた食生活ができているという簡単なバロメーターとして、私はよく女子大生に「毎日、キュウリ2本(の便)が出る生活をしなさい」と言っています。食物繊維がしっかりとれていると便秘しません。食物繊維は放射性物質の体外への排せつも早めてくれますし、食物繊維を多く含む野菜や果物には抗酸化成分も豊富で、DNAが放射能で酸化するのを防いでくれます。野菜や果物はカリウムもたくさん含んでいるので、似た性質のセシウムを吸収しにくくする効果もあります。
チェルノブイリの研究でも、ヨウ素欠乏など食生活の違いによって子どもの甲状腺がんの発症が高まったということがわかっています。普段からしっかりした食生活をしていることが重要だと思います。
「大豆やみそが被ばくに効く」本当ですか?
私もいろいろ調べたのですが、その根拠の一つに、「長崎に原爆が投下された時、みそ汁を飲んでいた人は被ばくの影響が少なかった」と書いてある本があるようです。
もう一つは、「あらかじめ発酵度の違うみそを与えておいたマウスに、強い放射線を浴びせると、発酵度の高いみそを与えられたマウスは影響が少なかった」という広島大学の先生の論文があります。しかしこの論文は、学術誌に載ったものではなく、科学者同士の審査を経た信頼性のあるものではありません。しかもいま問題になっているのは、この論文とは違う低線量被ばくです。
たしかに大豆は抗酸化物質の豊富な、優れた食品ですが、何でも一つの食べ物を食べ過ぎれば、弊害があります。バランス良く食べることが大切なのです。
(新聞「農民」2011.9.19付)
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