「農民」記事データベース20120730-1031-06

大きく注目集める
再生可能エネルギー
(1/3)

関連/大きく注目集める再生可能エネルギー(1/3)
  /大きく注目集める再生可能エネルギー(2/3)
  /大きく注目集める再生可能エネルギー(3/3)

 岩手県北部、北上山地の山懐に抱かれた葛巻町は、いち早く再生可能エネルギーの導入に取り組んできた町として、いま全国から大きな注目を集めています。葛巻町の取り組みに学ぼうと、全国食健連が6月27、28の両日、視察ツアーを企画。前町長の中村哲雄さんの案内で、40人が風力発電所やバイオマス発電施設、製材所などを熱心に見学しました。
(満川暁代)


岩手・葛巻

自然エネルギー活用こそ
町に合った地域振興策

 町民より牛の数多い小さな町で

画像 「北緯40度 ミルクとワインとクリーンエネルギーの町」――町のキャッチフレーズのとおり、葛巻町は、酪農と林業を基幹産業とする人口7300人ほどの小さな町。一方、牛の飼養頭数は人口よりも多く1万1000頭。町の面積の95%が標高500メートル以上で86%が森林。スキー場も温泉もゴルフ場も鉄道も高速道路もない、まさしく中山間地の町です。

 ところが葛巻町には、1750キロワットの風車12基をはじめ、家畜たい肥を活用したバイオマス発電や太陽光発電、木質バイオマスなど5種類の再生可能エネルギーの発電施設があり、町の電力自給率は166%に達しています。「町にないものを外からもってくるのではなく、地域にあるものを生かして、いかに産業を振興し、人々が住み続けられるようにするか。それが本当の地域振興ではないでしょうか。自然エネルギーの活用は、まさしく葛巻に合った地域振興策だったのです」と中村さんは言います。

 年間の売電収入3〜4億円にも

 きっかけは1999年の「葛巻町新エネルギービジョン」の策定でした。折りしも京都議定書が採択され、地球環境問題への関心が高まっていたころのことです。このビジョンのもと、畜産ふん尿や自然資源を活用した自然エネルギーの取り組みと、林業の振興によるCO2の吸収力の向上が位置づけられ、取り組まれてきました。

 その先駆けとなったのが、風力発電です。葛巻町では30年前から高原を大規模な牧場として開発してきました。障害物のない牧草地は風力も十分で、1999年に400キロワットの風車3基、さらに2003年には1750キロワットの風車12基が建設されました。この12基の風車の年間予想発電量は、一般家庭約1万6000世帯分に及び、その売電収入は年間で4・3億円に達しています(管理経費1〜2億円)。

画像
高原に建つ葛巻町の風車。牧草地には岩手県特産の肉用牛が放牧されている

 また2003年からは、畜産ふん尿と家庭生ゴミをメタン発酵させるバイオマス発電にも挑戦。いまのところコスト面では見合っていませんが、発酵後は悪臭がしない良質な液体肥料になり、農家からも好評です。

固定価格買取制を追い風に

続けてほしい国や県の補助事業

 建設費58億円で負担4600円

 こうした自然エネルギー施設の建設には、58億円余を要しましたが、国や県、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助金や助成制度を目いっぱい活用し、町の投資は4600万円弱ですんでいるとのことです。

 しかし7月から始まった再生可能エネルギー電力の固定価格買取制度では、設置費用などの経費を含めた価格が設定されていることから、国は新たな設備への補助事業を大幅に見直しています。中村さんは「固定価格買取制度は、自然エネルギーへの追い風になってほしいと思っています。しかし、電力会社に全量買い取りの義務が課されていないなど抜け穴もあります。普及の勢いを落とさないためにも、国や県の補助事業をやめるべきではありません」と話しています。


町内には5種の施設

先駆けは風力発電

 葛巻町は、林業の振興にも熱心に取り組んでいます。間伐や伐採後の再造林への支援のほか、林業が産業として成り立つよう、森林組合とも協力して葛巻町産材をアピール。埼玉県の建設会社と契約し、年間で200軒分の葛巻町産材のカラマツ集成材を出荷しています。間伐・伐採・搬出などに携わる森林組合職員や、製材所や集成材加工所など関連産業は、Uターン、Iターンしてきた若い人の雇用の場にもなっています。

(新聞「農民」2012.7.30付)
ライン

2012年7月

農民運動全国連合会(略称:農民連)
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224

本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
Copyright(c)1998-2012, 農民運動全国連合会