「農民」記事データベース20120917-1037-02

TPP参加の地ならし、牛肉の
輸入条件緩和の容認に抗議する

2012年9月5日
農民運動全国連合会会長 白石 淳一


 一、内閣府食品安全委員会プリオン専門調査会(座長・酒井健夫日大教授)は9月5日、アメリカ、カナダなどからの牛肉の輸入条件について、現行の「月齢20カ月以下」から「30カ月以下」への緩和を容認する「答申案」を了承した。農民連は強く抗議し、撤回を要求する。

 「答申案」は、各国でのBSE発症件数が減少していることをもって、「リスクの差が非常に小さい」とし、「人の健康への影響は無視できる」と結論づけている。頭部、脊髄(せきずい)などの「危険部位の除去」についても、「30カ月以下」への緩和を容認した。国内産の全頭検査を必要としない対象も、「30カ月以下」に拡大しても人の健康に問題はないとしている。

 一、アメリカ産牛肉の輸入条件の緩和は、日本のTPP参加の「入場料」としてアメリカから見直しを強く要求されていたものである。今回、科学的知見に立脚すべきプリオン専門調査会が「答申案」の容認に踏み切ったことは極めて政治的であり、TPP参加の地ならしといわなければならない。

 BSEは人命にかかわるものであるだけに、日本では発症直後から原因の可能性が高いとされた肉骨粉の牛への給与を中止するだけでなく、肉骨粉そのものを隔離・遮断、全頭検査などの対策をおこなってきた。

 ところが、アメリカでは牛の肉骨粉を牛に与えることは禁止しているものの、鶏、豚への給与は容認されている。牛の肉骨粉を製造した機械や設備で豚・鶏の肉骨粉を作ることや、牛の血液や血液製品の利用も許されている。危険部位の除去も徹底されていない。しかも、年間、数千万頭といわれる牛の出荷頭数のうち、検査しているのは0・1%以下であり、牛の月齢の正確性も疑問視されている。

 プリオン専門調査会は、BSE発症件数が減少しているというが、充分な検査を行っていないから発見されていない可能性は否定できない。

 一、アメリカ・カリフォルニア州で今年5月、全米で4例目となるBSE感染牛が発見された。アメリカ農務省は、「感染牛は非定型BSEだった」と発表した。「非定型BSE」は、世界中で検査が行われるようになってから発見されたまれなタイプのBSEであり、「飼料以外の原因」を指摘する専門家もいる。このように、BSEは現在の研究段階では未解明の部分が多く、厳重な警戒が必要である。

 一、アメリカの輸入条件の緩和を求める要求は、BSE安全対策よりも牛肉を売り込むことを最優先したものである。食品安全委員会プリオン専門調査会が、こうした圧力に影響を受けた政府の意向を丸のみして「答申案」を了承したとするならば、食品安全のリスク評価機関としての自殺行為といわなければならない。

 一、「答申案」は近く正式に決定され、食品安全委員会に報告し、30日間のパブリックコメントなどを経て厚生労働省に答申されることになる。農民連は、アメリカ産などの牛肉の輸入条件の緩和を阻止するために、畜産関係者や広範な国民と連携し、全国で運動を強化する決意である。

(新聞「農民」2012.9.17付)
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2012年9月

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