「農民」記事データベース20130211-1056-01

TPPをめぐる情勢と
課題を中心に
(要旨)

農民連第20回大会
真嶋良孝副会長の報告

 農民連第20回定期大会(1月21日〜23日)で、真嶋良孝副会長が行った特別報告(要旨)は次の通りです。(大会後の情勢を踏まえて一部補足)


画像 12月に行われた総選挙は、脱原発、反消費税増税、TPP参加反対など、国民運動の高揚のなかでたたかわれました。小選挙区制度という反民主主義のマジックによって自民・公明が虚構の多数を握る結果になりましたが、運動の決着はまだ着いていません。農民連は第20回定期大会で、「TPP参加を断固阻止し、共同をさらに広げよう」と決意を固め合いました。たたかいの決着を着けるのはこれからです。

 選挙中、自民党の政権公約は(1)「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対、(2)自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない、(3)国民皆保険制度を守る、(4)食の安全安心の基準を守る、(5)ISD条項は合意しない――などというものでした。マスコミは農協を“既得権益勢力”と決めつけ、農協と自民党のしがらみの問題にわい小化して伝えていますが、自民党の公約は農業だけでなく医療・食の安全・ISD条項(投資家対国家間の紛争解決条項)にまでわたっています。これを裏切るとすれば、民主党に突きつけられたのを上回る手厳しい批判を覚悟しなければならないでしょう。

 「TPP反対」を掲げ、農協グループの政治団体である全国農政連の推薦を受けて当選した自民・公明両党の候補者は170人を超えます。この中には、衆議院議員出身の閣僚16人のうち、安倍首相、麻生副首相、岸田外相、茂木経産相など11閣僚が含まれています。また、自民党の議員連盟「TPP参加の即時撤回を求める会」参加議員数は選挙前の118人から209人に増えて、同党所属議員377人の55%に達しています。

 アメリカと財界の異様な圧力

 額面上は裏切りようのない公約ですが、自民党はアメリカと財界という横暴な主人に忠誠を尽くすためには裏切らざるをえないという“不治の病”をかかえています。

 アメリカと財界の異様な圧力に応える画策は選挙中から始まっていました。もともと安倍総裁は、公示直後にすでに首相になった気分で1月中旬に訪米して日米首脳会談を行うことを米側に打診していました(「共同」12月8日)。

 しかし、選挙が終わり安倍政権が動き出すと、アメリカは1月中の日米首脳会談を拒否。TPP参加の腹固めもしないままの“儀礼的な表敬”に対する拒否感が原因といわれています。安倍首相は新年早々から外務事務次官、岸田外相を訪米させ、日程とりつけに躍起になっていますが、アメリカ側の意図は、首脳会談をめぐる「日程交渉を楯にTPP参加決断を促す」ところにあります(「日経」1月9日)。

 また、日本経済再生本部(本部長・安倍首相)の産業競争力会議は1月25日、1回目の会合で「洗い出された課題」の一つに「可能な限り早期のTPP交渉から参加すべく対応すべき」をあげています。これは、安倍政権が“司令塔”として作り上げた大企業代表・新自由主義派から成る産業競争力会議に先行的に物を言わせ、これを隠れみのにして公約投げ捨てに対する党内外の批判をかわそうというねらいです。

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安倍政権が発足してから初の「ストップTPP!官邸前行動」=1月8日

 裏切りとゴマカシを許さない

 自公連立政権合意は、条件つきとはいえ明記していた「交渉参加反対」の文言を消し、「FTA・EPAをはじめ自由貿易をこれまで以上に推進するとともに、TPPについては国益にかなう最善の道を求める」としました。いうまでもなく「国益」とは、財界・大企業の「益」にほかなりませんが、これは裏切りの第一歩です。

 さらに自民党幹部は「TPPが国益にかなう可能性もある」「反対意見に対しては、国内対策を示せばいい」と前のめり発言を繰り返し、高市早苗政調会長は「交渉に参加し、守るべき国益は守る。条件が合わなければ脱退する選択肢もゼロではない」と述べました(フジテレビ、1月6日)。

 安倍政権やマスコミの言動からいって、現在の焦点は「例外を認めさせるために交渉する」ことが本当にできるのかどうかにありますが、結論からいえば、その条件はありません。

 第一にTPPが例外を認めない交渉であることは、TPP交渉当事国からの情報をまとめた日本政府自身の文書から明瞭です。たとえば政府が2011年10月17日に公表した「TPP協定交渉の分野別状況」では「TPP交渉では高い水準の自由化が目標とされているため、従来、日本が『除外』してきた米、小麦、砂糖、乳製品、牛肉、豚肉、水産物などについて、関税撤廃を求められる」と明記しています。他の項目は「可能性がある」「おそれがある」という表現ですが、米などについては「関税撤廃を求められる」と断言し、“例外扱いにできる”可能性はまったくないことを政府自身が認めているのです。

 また、高市政調会長の思いつき的な発言に対しては、自民党の細田幹事長代行が「例外なき関税障壁撤廃を前提とした交渉では到底対応できない。あらかじめギロチンに首を差し出すようなことはすべきではない」と手厳しく批判し、安倍首相の“交渉力”発言に対しても「アメリカの力は非常に強い。繊維も鉄鋼も半導体も自動車交渉も全部、アメリカの優勢勝ちだ」「(交渉では)防衛関係もあり、譲歩を迫られ、政治的に苦境に立たざるを得なくなる」と述べています(BS朝日、1月7日)。

 第二に「全品目の即時関税撤廃はありえない」(米倉経団連会長)などという気休めにもならない観測が幅をきかせていますが、現在TPP交渉で議論されている「例外」は、関税撤廃までにせいぜい7年間の「猶予」を与えるというものにすぎません。しかし、7年間で1俵(60キロ)1万6500円の米生産コストをアメリカや中国並みの3000円前後に引き下げることなど不可能であり、7年間の「猶予」が「例外」などといえないことはあまりにも明白です。

 第三に「ルールが固まる前に交渉に参加するのが国益にかなう」という議論がありますが、12月から交渉に参加したメキシコとカナダは、すでに合意したTPPの内容について一切変更を求めないことを約束させられています。

 食糧危機が再び世界を襲うなかで 

 食糧危機が再び世界を襲っています。国連食糧農業機関(FAO)の調べでは、2012年の穀物価格は史上最高を記録しつづけ、その水準は世界中で抗議運動と暴動が起きた08年を上回っており、約40カ国が食糧の「異常な不足」に苦しんでいます。

 いま、わが国が果たすべきなのは、世界人口の2%にすぎない日本が世界に出回る食糧の10%を買いあさっているという恥ずべき現状を改め、世界でも有数の農業生産力を存分に生かして食料自給率を引き上げることです。

 食料自給率を40%から13%に引き下げるTPP参加は、これにまったく逆行します。

 さらに、全国農協中央会の委託研究によると、日本がTPPに参加すれば、アジアの米需要をひっ迫させ、アジアの米食人口の1割、2・7億人が飢餓に陥る可能性があります。「アジアの成長をとりこむ」どころか、「アジアに大迷惑をかける」TPP参加は二重三重に許されません。

 TPP交渉の現状をめぐっては、実務レベルの交渉はかなり進んでいるという情報がある反面、ISDや政府調達、国家企業の民営化、知的財産権、農産物市場の開放などで難航が伝えられています。

 アメリカは、国際競争力が強いニュージーランドやオーストラリアに対しては砂糖や乳製品、牛肉などの「例外」措置を認めるよう迫り、他の国に対しては例外なき自由化を強要するダブルスタンダード路線をとっています。

 これに対し、もともとのTPP加盟国(P4)であるニュージーランドは、アメリカが農産物の関税を撤廃し、ニュージーランドの医薬品制度の存続を認めないかぎり、TPPに署名しないと、アメリカを強くけん制しており、オーストラリアはISDに猛然と反対しています。

 国内では、保守的な人々や市民団体、農林漁業、医療、自治体、消費者、労働者など広大な分野のネットワークは厳然と存在しており、国民運動の歴史的な高揚は、選挙後も大きな圧力となって働いています。44道府県議会と90%を超える市町村議会がTPP参加に反対あるいは懸念する決議を採択し、再決議をする議会も相次いでいます。たたかいは、これからです。

(新聞「農民」2013.2.11付)
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2013年2月

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