「農民」記事データベース20130311-1060-06

TPP参加は公約違反

日米の共同声明
安倍政権のウソを検証

関連/日米の共同声明
  /TPPでもミニマムアクセス米?
  /各分野から怒りの声続々


 安倍首相は2月28日に行った施政方針演説で「TPPについては『聖域なき関税撤廃』は前提ではないことを、先般、オバマ米大統領と直接会談し、確認した。今後、政府の責任で交渉参加について判断する」と述べました。「TPP交渉参加は公約違反」「政治は信頼だ。うそをついてはいけない」(萬歳章全中会長)など、日本中にうずまく怒りの声を踏みにじる暴挙を絶対に許すわけにはいきません。

 2月23日未明に行われた日米首脳会談と、帰国後の安倍首相の言明から、TPP(太平洋をまたぐ経済連携協定)をめぐる日米首脳会談は、“太平洋をまたぐ猿芝居”(トランス・パシフィック・サルシバイ=TPS?)だという様相が浮き彫りになっています。安倍政権のウソを検証します。

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首相官邸ホームページから

 “例外を認める”とはどこにも書いていない

 首脳会談後には共同記者会見を行うのが通常ですが、今回は会見はなく、かわって両政府が、文書の日付も、誰と誰の共同声明なのかも記されていない「日米の共同声明」なる文書を公表しました(別掲)。形式も異様ですが、問題はその中身です。

 まず安倍首相は「聖域なき関税撤廃は前提ではない」、つまり“例外は認められる”かのように強弁していますが、共同声明には“例外を認める”とはどこにも書いていません。これは、重要品目を例外扱いにすることを認めたものでは毛頭なく、交渉の中で“主張してみる”ことは自由だ、結果は交渉次第だといっているにすぎません。

 共同声明(第2項目)では、日本は農産物を、アメリカは自動車を重要品目としています。現実の問題として、TPP参加国の中でアメリカに自動車を輸出している国はなく、かりに日本が参加すれば関心国は日本だけです。

 その一方、米、麦、砂糖、乳製品、牛肉、豚肉、水産物など日本にとっての重要品目に対しては、TPP交渉参加国のほとんどが輸出拡大をねらっています。TPP交渉では、自動車は「例外」になる可能性がある一方、農水産物は例外になるはずがない――これが冷厳な現実です。

 声明の表現のうえでも、現実の問題としても、「聖域なき関税撤廃は前提ではない」は空手形にすぎません。

 重要品目も非関税障壁もすべてが交渉対象

 さらに、共同声明(第1項目)では「すべての物品が交渉の対象とされる」と明記され、TPP交渉参加国が確認している「TPPのアウトライン」にもとづく「包括的で高い水準」の協定を日本が達成することを義務づけています。「TPPのアウトライン」は「関税ならびに物品・サービスの貿易および投資その他の障壁を撤廃する」こと、つまり関税と非関税障壁の撤廃が大原則であることを明記しています。「アウトラインの達成」とは、関税と非関税障壁の「聖域なき」撤廃にほかなりません。

 重大なのは、安倍政権がTPP交渉参加国であるアメリカ政府と「アウトラインの達成」を確約し、TPPの枠組みの中に自らをしばりつける約束をしたことです。

 もともと自民党が総選挙で国民に公約したのは(1)「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り交渉参加に反対、(2)自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない、(3)国民皆保険制度を守る、(4)食の安全安心の基準を守る、(5)ISD条項は合意しない、(6)政府調達・金融サービス等はわが国の特性を踏まえる――の6項目でした。

 第1の関税撤廃問題も空手形にすぎませんが、他の5項目については安倍首相が一方的に説明しただけで終わっており、国会答弁でも、これらの項目が実現する保証は何もないことを認めざるをえませんでした。

 日本をアメリカに売り渡す売国奴

 冒頭に書いた“太平洋をまたぐ猿芝居”の証拠はそろい始めています。

 篠原孝元農水副大臣は「共同声明をどうしても出させてくれと日本側が懇請して、それに対して米側が強引な主張を書き込ませるという妥協の上に、やっと出来上がったのだろうことが伺える」と発信しています(2月27日メールマガジン)。

 外務省が公表した「日米首脳会談の概要」によると、共同声明の第2項目は、安倍首相が首脳会談で発言して、オバマ米大統領との間で確認したものです。逆にいうと、第1項目と第3項目は、アメリカ側の提案ということになります。

 第1項目では「TPPのアウトライン」の受け入れを日本に求め、第3項目ではTPP交渉参加の「入場料」として、BSE牛肉の輸入規制緩和に引き続き、自動車と金融・保険分野での大幅譲歩を求め、安倍首相は事実上、これらを約束したという構図です。

 これでは「日本を取り戻す」というスローガンとは裏腹に、安倍首相は「日本をアメリカに売り渡す」売国奴に成り下がったというほかありません。

 こういう大芝居のうえに、農業だけではなく、医療、食の安全、地域経済、経済主権に重大な打撃となるTPP交渉参加に踏み切るのは、重大な公約裏切りであり、国民を愚弄(ぐろう)するものです。安倍自公政権が数の力で暴走するなら、民主党政権同様、国民との矛盾を広げ、早晩破たんすることは避けられません。

(M)


日米の共同声明

 一 両政府は、日本がTPP交渉に参加する場合には、(1)すべての物品が交渉の対象とされること、(2)2011年11月12日にTPP首脳が確認した「TPPのアウトライン」で示された包括的で高い水準の協定を日本が達成することを確認する。

 二 日本には一定の農産品、米国には一定の工業製品というように、両国ともに貿易上のセンシティビティ(重要性)が存在することを認識しつつ、両政府は、最終的な結果は交渉次第であり、TPP交渉参加に際し、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではないことを確認する。

 三 両政府は、TPP参加についての二国間協議を継続する。協議は進展を見せているが、自動車部門や保険部門に関する残された問題とその他の非関税措置に対処し、さらにTPPの高い水準を満たすことについて作業を完了することを含め、更なる作業が残されている。


TPPでもミニマムアクセス米?

 「政府内では米国を対象に一定量のコメの輸入枠を設ける手法も浮上する。日本は1993年のウルグアイ・ラウンド合意の際に、高関税を維持する代わりに77万トンの外国産米を輸入するミニマムアクセス(MA)の仕組みを受け入れた。TPP交渉に絡み米国にMA枠を設ければ、コメの関税撤廃への圧力をどうにかかわせるとの読みだ」(「日経」2月26日)


各分野から怒りの声続々

 安倍首相が日米首脳会談で、TPP交渉への参加に大きく踏み出す意向を表明したことで、各分野の団体・組織から怒りの声が広がっています。

 農林水産業から、JA全中(全国農業協同組合中央会)が萬歳章会長名の声明を発表し、「日本の食と暮らし、いのちを守るため、組織の総力を挙げて徹底して運動していく」と表明しています。全国漁業協同組合連合会(全漁連)も服部郁弘代表理事会長名で「拙速な判断は国益を毀損(きそん)することにつながるもの」だと批判しています。

 医療・保険分野からは、日本医師会の横倉義武会長が、「TPP交渉参加によって、公的医療保険制度が揺るがされることを懸念」すると、会見で述べ、全国保険医団体連合会(保団連)は住江憲勇会長が「国民皆保険制度を守る立場から、TPP交渉参加の意向表明に抗議する」との談話を発表しています。

 消費者団体からは、主婦連合会が「食品添加物、残留農薬基準をはじめ、多くの化学物質の使用緩和や、遺伝子組換え食品表示の撤廃なども対象に入ります」と懸念を表明。日本消費者連盟は「自民党が昨年12月の総選挙の時に発表した公約で謳(うた)った、5つの非関税分野に存在する重要な懸念事項が全く払しょくされない状況で、正式参加表明をするなど論外の暴挙」と非難しています。

(新聞「農民」2013.3.11付)
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2013年3月

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