「農民」記事データベース20130506-1068-07

〈寄 稿〉

“馬脚”あらわしたインチキ食品

偽装牛肉 欧州全土に広がる


フランス・レンヌ大学 雨宮裕子

 フランスではおとなも子どもも「アッシパルマンティエ」という、牛のひき肉入りのポテトのグラタンが大好き。給食にこれが出れば、残す子はいない。

 ジャガイモをゆでてつぶしてから、いためたひき肉を挟みこんでグラタンにする。ちょっと手間がかかる料理なので、つい冷凍ものを買ってしまう。そのひき肉が、実は牛ではなく馬だったのだ。1月の中旬、アイルランドで見つかったのを発端に、インチキ牛肉の問題は、ヨーロッパ全土に広がった。

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レンヌ市内の幼稚園で、給食に出されたアッシパルマンティエをお代わりする男の子

 ここ3カ月、牛肉入りの冷凍加工食品の売れ行きはさっぱり。牛肉好きの友人に聞いてみると、冷凍ものは、パッケージをよく見て確かめてから買っているそうだ。牛肉の代わりに馬肉が使われていた例は、フランスが一番多い。

 大手食品工業の体質うきぼりに

 でも、フランスの消費者は、偽装をそれほど深刻に受けとめてはいない。うそはいけないが、食べても害がなければ、大問題ではないと思っているからだ。

 大変なのは、大手の食品工業である。冷凍食品は、2月の調査で、1週間に1億円の損失。1996年の狂牛病の時と同じように、消費者は、牛肉入りの食品を買わなくなった。

 偽装牛肉の流通は、責任の所在がいまだ明らかになっていない。馬肉の混入にとどまらず、輸入禁止のマトン(羊肉)がイギリスから大量に入っていることも発覚。狂牛病の伝播(でんぱ)を防ぐ措置が、どこかでないがしろになっているのだ。

 食材は生産から加工まで、一番コストが安上がりな場所を選んで、ヨーロッパ内を駆け巡る。安価であれば現物を確認せずに買い付けて、加工業者に委託する、大手の食品工業の体質が浮かび上がった。

 政治家の不正に庶民の目が移る

 ところが、この話題がこのところすっかり影をひそめている。食品業者の不正より、政治家の不正に庶民の目が移ってしまったからだ。こともあろうに、社会党のカユザック予算担当大臣が、スイスに隠し口座を持っていることが発覚。「左派で、しかも国の予算を預かっている人物が、自分の資産を隠して、税金逃れをしているなんて」と、庶民の不信感は食材から政治家へ向かうことになった。景気は落ち込み、失業者が増え続けるフランスで、オランド政権への批判が日増しに鋭くなっている。

 政府が国民優先産地直結を推奨

 そんななか、一つ朗報がある。食肉の国際流通ルートが見直され、フランス農水省が、国産優先、産地直結を推奨したのだ。安心できるのは自分の国の農産物。政府がそれを認め、地産地消が推進されれば、小さな家族経営農家の生き延びる道が見えてくる。

(新聞「農民」2013.5.6付)
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2013年5月

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