TPP参加、農業つぶしねらう
アベノミクス農政
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参議院選挙の公示まであと1カ月。「TPP断固反対! ぶれない ウソつかない自民党」という選挙公約を真正面からふみにじるTPP交渉参加に対する猛反発をかわすため、安倍政権はゴマカシに躍起です。
「攻めの農業」「農業の活力創造」で「輸出倍増」「所得倍増」という一時代昔のテレビ・コマーシャルのようなうたい文句があふれ、なんとなく景気がよくなるようなムードがあおりたてられています。
しかし、参院選をゴールに見立てた矢継ぎ早の目くらまし作戦は“オレオレ詐欺”のようなものです。
“オレオレ詐欺”にだまされない――シリーズで検討します。
二頭だての馬車
安倍政権は、“財界・新自由主義馬車”と“自民党馬車”の二馬車だてで参議院選挙を乗り切ろうとしています。
“財界・新自由主義馬車”を引く馬は3頭。首相直属の3つの機関――経済財政諮問会議、産業競争力会議、規制改革会議です。経済財政諮問会議と産業競争力会議を構成するのは主要閣僚と「民間議員」で、「民間議員」の大部分は大企業・財界代表と新自由主義派の学者が占めています。
TPP交渉に参加し、ヒト、モノ、カネが世界で「最も自由に行き来する国」になれ、FTA(自由貿易協定)比率を7割以上に――経済財政諮問会議と産業競争力会議は相次いで、こんな方針を打ち出しています。
そんなことをしたら日本の農業はつぶれてしまうという批判に対する答は、“大丈夫、競争力を強めて、農業を輸出産業にすればいい”というもの。
一方“自民党馬車”は「農業・農村所得倍増」「新規就農倍増」「輸出倍増」と、行け行けドンドンとばかりに「倍増」の大風呂敷。「輸出倍増」は“財界馬車”とクツワを並べています。
「アメとムチ」。“財界馬車”がTPP参加、「聖域」なき自由化をゴリゴリ進めるのに対し、“自民党馬車”は甘くもなく体にもよくないアメ玉を準備するという構図です。
輸出目標7兆円から1兆円、実質1千億円に
2月18日、新浪剛史(ローソン社長)、三木谷浩史(楽天会長兼社長)、長谷川閑史(武田薬品社長、経済同友会代表幹事)、竹中平蔵(元経済財政政策担当大臣)ら民間議員は「日本の農業をオールジャパンでより強くし、成長輸出産業に育成しよう!」という意見書を提出しました。
その中身は(1)自給率向上目標を取り下げる、(2)10年後に農産物輸出額世界第3位をめざす、(3)10〜15年後に経営規模50ヘクタール(北海道100ヘクタール)を実現、(4)一般企業の農業参入を全面的に自由化、(5)中山間地農業は保水・環境保全農業とし、大規模農業事業者に補助金を出して管理してもらう、というものです。
目玉は農産物輸出額世界第3位です。
現在、世界第1位の農産物輸出国はアメリカで約12兆円、2位がオランダ8兆円で、日本が第3位をめざすには農産物輸出を7兆円にしなければなりません。これは、日本の農業総産出額8兆円の9割に当たります。日本人に食べさせないで輸出しようとでもいうのでしょうか。
あまりに途方もない目標だったためか、4月23日に新浪ローソン社長が全民間議員の意見をとりいれてまとめた「農業輸出拡大・競争力強化」では、10年後に1兆円をめざすことに大幅に減額されました。
しかも1兆円のうち、ほとんど国産農産物を使わない加工食品が50%、水産物と林産物が40%で、純然たる農産物は米、牛肉、野菜・果物、花、茶で1000億円以下。7兆円に比べれば1・6%にすぎません。
7兆円から1兆円に減ったことについて、当事者の説明は一切ありません。オールジャパン体制で製造業並みの海外進出をめざして農業を輸出産業にする、所得も倍増させるという威勢のいいスローガンは一体どこにいったのでしょうか。
これは微調整などではなく、輸出産業化を通じて農業の体質強化をはかるという財界代表と新自由主義派の政策的前提が完全に崩れたことを意味します。
ヨタ話も「交渉」を通じ一丁前の政策に
竹中平蔵氏はトクトクと次のように述べています。
「産業競争力会議の現時点での成果は『交渉方式』が定着したことだ。民間議員が論点ペーパーを作り、担当大臣と議論して論点を詰め、首相が出席する『本会議』に臨むという手順が確立された。次元の異なる成長戦略策定のために、会議は厳しい交渉の場にしなければならない。こうした闘う姿勢を強めていく」(「産経」3月19日)
「次元の異なる」というよりは「いい加減」なヨタ話も「交渉」を通じて一丁前の政策に仕立て上げられる可能性がある――。ここに安倍型政治の危険があります。
(つづく)
(新聞「農民」2013.6.10付)
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