閣僚会議の開催見送り
TPP交渉の漂流近づく
関連/戦争させない・9条壊すな
交渉破たんを避けるために必須といわれていた5月26日からのTPP閣僚会議開催が中止になりました。次回は未定のままです。
内外のマスコミからは「合意時期が遅れることで交渉が漂流する可能性が出てきた」という指摘が相次ぎ、ニュージーランド・オークランド大学のジェーン・ケルシー教授は「数年間、生命維持装置のもとに置かれてきたTPP協定交渉の棺(ひつぎ)に新たな釘を打ち付けることとなった」と強調しています。
下院のTPA反対派切り崩しを狙ったが
アメリカでは憲法上、貿易交渉権限は政府ではなく議会が握っており、TPP妥結のためには、貿易促進権限法(TPA)を成立させ、政府が議会から権限を譲ってもらうことが不可欠です。現状では、TPAが米上院を通過しましたが、下院通過は全く見通したたずの状態です。
アメリカ政府は、閣僚会議直前にTPAを上院で成立させ、閣僚会議で一定の成果を演出し、その勢いで民主党下院議員の8割を占めるTPA反対派を切り崩すことを狙っていました。交渉参加国を巻き込んで与党の多数派工作をやるなどという身勝手な思惑が破たんしたのです。
オバマ大統領の焦りといらだちを、ワシントンポスト(5月12日)は次のように痛烈に皮肉っています。
「あなたは周りにいる人と友達になろうとして、君は感情的で、非論理的で、時代遅れで、全く頭が悪いなどと言いつのるだろうか。だが、それこそオバマ大統領が与党・民主党議員を扱うやり方であり、彼が敗者となる恐れがある理由である」
交渉破たんは珍しいことではありません。アメリカは、90年代に南北アメリカ34カ国による米州自由貿易地域(FTAA)構想を進めましたが、アメリカの強硬な要求に対する反発から、10年に及んだ交渉は2005年に立ち消えになりました。
ネギを背負ったカモ――安倍首相訪米
焦るオバマ氏の最高・唯一の援軍が安倍政権です。
実際、首脳会談を前に日米閣僚会議や実務者協議を重ね、国会決議を無視して牛肉関税を4分の1の9%に、豚肉関税を10分の1に大幅に引き下げ、さらに、アメリカ米の特別輸入枠を現在の主食用輸入(SBS)と同量の10万トン増やすという“貢ぎ物”を差し出したのが安倍政権でした。
それでもまだ足りないとばかりに、国会に提出もされていなかった「戦争立法」を夏までに成立させることを大統領とアメリカ議会に誓約し、TPPについても「単なる経済的利益を超えた長期的な安全保障上の大きな意義がある」として、「強固な日米同盟」の一環として日米がリーダーシップを発揮してTPP妥結を強行することを誓いました。まるで「ネギを背負ったカモ」です。
ロイター通信(4月30日)によると、ある日本政府OBは「安全保障という大義名分が出てくると、コメの輸入枠拡大などという経済的不利益は優先順位が低くなるだろう」と指摘しています。つまり、安倍政権にあっては、米や牛肉・豚肉などでの譲歩はとるにたりない「大事の前の小事」にすぎないというわけです。
残る任期1年半のオバマ大統領は「レイムダック」(足の不自由なアヒル=死に体)と評されています。「死に体のアヒル」と「ネギを背負ったカモ」が合意してもTPPは成立するはずはないし、させてはなりません。
アメリカと並ぶTPP推進のもう一極である日本で、TPP反対運動の大波を起こすときです。
総がかり行動
「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の第1回となる国会前集会が、5月21日に開かれました。同実行委員会は、戦争法制阻止のため、平和を願う全ての人々が手をつなごうと結成された共闘団体で、農民連も加盟する憲法共同センターだけでなく、戦争をさせない1000人委員会などさらに幅広い団体が参加しています。
(新聞「農民」2015.6.1付)
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