際立った前のめりの安倍政権
国会決議無視、国益投げ捨て
TPP交渉
事実上の決裂に終わったハワイでのTPP閣僚会議では、日本の異常な前のめり姿勢が際立っていました。農産物で進んで譲歩を行い、日米協議の「合意」を振りかざして、他の参加国を強引に従わせようという日本政府の態度は、もはや「異様」と言わなければなりません。
「合意ありき」で臨みながら…
「えっ、そうなの」。ハワイ会合で大筋合意ができなかったとの報告を電話で受け、安倍首相が発した驚きの言葉です。日本政府は今回、最初から「合意ありき」で臨み、国会決議が「除外」「再協議」を求める農産物の重要品目全てで重大な譲歩をしました(表参照)。合意後に農業団体に説明するため、重要品目を担当する農水省の4部長が現地入り。東京大学大学院の鈴木宣弘教授によると、「合意」後の記者発表用に政府が用意した資料は100ページを超え、国内対策の発表も用意。全てがお膳立てされていました。
それにもかかわらず、他の交渉参加国の抵抗で合意不成立に終わると、日本政府は、閣僚会議を8月中に開催するように提案し、議長国の米国に退けられました。
甘利TPP担当相は自身のブログで、アメリカが「あっさりと断念を決めてしまった」と述べ、自身の見通しの甘さを棚に上げ、八つ当たりさえしています。
甘利氏は閣僚会議終了後も8月中の閣僚会議開催は「12カ国の共通認識」と強弁していましたが、まもなく断念。それでも日本政府は、「あと一回、閣僚会合が開かれれば、決着できる」(安倍首相)と、楽観姿勢を崩していません。
6カ国の批准で先行発効を提案
それどころか、米貿易専門誌の報道(8月14日付)によれば、ハワイ会合で日本政府は、TPP交渉参加国全体の国内総生産(GDP)の85%を占める6カ国の批准でTPPを発効可能にするよう提案していたといいます。先行した国の代表で構成し、遅れて批准する国の協定参加の可否を判断する「自由貿易委員会」の設置も盛り込まれていました。
TPP交渉参加国中日米両国でGDPの約90%を占めることから、先行諸国には必ずこの2カ国が含まれるため、日米EPA(経済連携協定)としての性格が強まります。一方で楽観論を振りまきながら、他方で交渉の行き詰まりを認め、その場合でも日米と同調する一部の国だけで先行することを可能にする仕組みをつくり、抵抗する国については、排除する―。日本政府の提案は、TPPが日米による覇権主義的協定であることを浮き彫りにしています。
一歩も引かず 合意を阻む他国
ハワイでは、生物製剤のデータ保護期間、自動車の原産地規則、国有企業、乳製品や砂糖の市場アクセスをめぐってニュージーランド、メキシコ、オーストラリア、マレーシアなどが「国益」を主張し、日米両大国に対して一歩も引かず、合意を阻みました。
これを後押ししているのが、各国の世論と運動です。閣僚会議を機に、各国のTPP反対運動は改めて高揚しています。
ニュージーランドでは8月15日、国内21カ所で抗議行動を行い、約2万5000人が参加。ハワイの閣僚会議会場となったホテル前のビーチでは、会議中、地元の人々など400人が、ほら貝を吹いてTPPに警鐘を鳴らしました。
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閣僚会議会場のホテル前で抗議する人々=7月29日、ハワイ |
今こそ日本政府に対して、交渉の中止、譲歩の撤回と謝罪を求める世論と運動を強める時です。
(新聞「農民」2015.8.24付)
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