農業生産法人 
「なないろ畑」
(神奈川・大和市)
 いまアメリカやヨーロッパで広がりつつあるCSAという農業形態を日本でも採用し、地域で農業を支え、会員が力を合わせて農場を作り運営しているグループがあります。神奈川県大和市を中心に活動する農業生産法人「なないろ畑」です。
  
  
 CSAをとり入れて 
地域で農業を支える
 CSAとは、コミュニティー・サポーティド・アグリカルチャーの略で、地域社会が農業を支える活動です。
  1次産業の復権をめざす
 なないろ畑代表の片柳義春さん(59)は言います。「農業は民間サラリーマンの平均給与の3分の1以下の収入しか得られない“報われない”仕事です。農家の仕事のうち3分の2が農民の無償のボランティアで成り立っています。そこで安全な食料を自給するために消費者が農場を自分たちで作る必要があったのです」
 さらに「有機農業を中心に地域の中にコミュニティーを再生しようという意味も込めています。農場を持続していくために、会員みんなで力を出し合って、有機農業を基礎に社会全体を、環境に配慮したエコロジー型社会に変えていき、1次産業の復権を目指します」と力説します。 
 2003年、本物の有機野菜を作ろうと1反(10アール)の農地から始めた農場も、2町(2ヘクタール)を超えました。農場は現在、大和市上草柳、座間市、長野県辰野町にあります。 
 
  
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    座間農場で見学者に説明する片柳さん(こちら向き)  | 
   
 
 会員が力出し合い 
農場を作って運営
 多岐な仕事を持ち味を生かし
 毎年一定金額の会費(前払い)による会員制で、農場全体を会員のオーナー制にして、収穫物は会員に分配されます。農作業を手伝う会員には特典があります。
 農場の多岐にわたる仕事(農場の建設、野菜の栽培・収穫・仕分け、広報・イベントの企画など)を会員一人ひとりの持ち味が生かせる形で手伝ってもらうことになります。 
 このシステムは、はじめに、どのような野菜をどれだけ作るかという作付け計画を立てます(作付け会議)。次にボランティアで農場の仕事を手伝える会員を探し、農場を確保し、野菜の栽培管理を行うグループや、農場の広報や企画を担当するグループ、野菜の収穫や仕分けを手伝うグループなどに分かれて、各自の持ち味を生かして農場をサポートします。 
 次に、農場の野菜を定期購入して、野菜を買ってもらう人を集めます。有機野菜を買ってもらう人が増えることで農場の規模が拡大し、農業をやりたいと考える若い人たちも、農業を始めることができるようなります。 
 
  
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    野菜の仕分け作業で忙しい出荷場(大和市)  | 
   
 
 有機農業を中心に 
コミュニティー再生
 お昼ごはんを皆で食べながら
 ここでは、会員の力で、手間のかかる有機農業を成り立たせています。手作業で除草したり、防虫ネットを張ったりしています。化学肥料を使わず、堆肥で賄っています。さらに会員が、収穫した野菜を各家庭に配るための仕分けをします。こうして収穫のための労働力不足を補い、流通経費を限りなく低くしています。
 農場開設のときから手伝っているという野口すみ子さん(70)は、大和市の出荷場の近所に住んでいます。「野菜の成長をみるのがおもしろく、収穫した野菜もおいしい。みんなでお昼ごはんも一緒に食べながら、楽しくやっています」と笑顔で話します。 
 会員は、野菜の定期購入だけでもよく、Mサイズ、Sサイズと、家族の人数や食べる量に合わせて選ぶことができます。大和市の出荷場では、火・木・土曜日の午前11時から午後3時まで、野菜の直売を行っています。 
  大豆トラストも農福連携も実践
 なないろ畑ではいま、農場を提供して自ら栽培・収穫する大豆トラストにも取り組んでいます。3年目に入り、福祉団体、障害者団体、生活自立支援団体などが参加しています。元公務員で退職後、なないろ畑を手伝っている国延台次さん(70)は、「ここでは、農福連携も実践しています。みんなが集まり、みんなの生活を豊かにする拠点にしたいと考えています」と胸を張ります。
 ほかに収穫祭や映画祭、元農水相の山田正彦さんを迎えた学習会などにも取り組み、会員同士の交流や学習を深めています。 
  失敗を恐れずチャレンジして
 代表の片柳さんは、なないろ畑の今後について、「産業化された社会のなかで、人間らしい生活を取り戻す、実験農場のような役割を果たし、外に発信しようと思います。試行錯誤の繰り返しですが、失敗を恐れず、チャレンジしていきたい」と展望します。
         (新聞「農民」2017.8.28付) 
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