「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟
同弁護団 馬奈木厳太郎(まなぎ いずたろう)弁護士に聞く
国の責任、明確に断罪
事故 予見できた
津波 回避できた
10月10日に福島地裁で言い渡された「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の勝利判決について、同訴訟弁護団の馬奈木厳太郎さんに話を聞きました。
原状回復と全体救済めざし
法廷外の運動さらに重要に
再稼働を進める国の姿勢に一石
今回の判決でもっとも大きな点は、国の責任を認めたということです。これまで国と東電は「津波は想定外だった」「だから事故の責任はない」と主張してきました。しかし今回、裁判所は明確に、津波は想定外ではなく予見できたし、対策を取っていれば事故を回避することができたのだから、対策を怠ったことは違法だと断罪しました。原発を扱う以上、危険を予見したのならば、万全の対策を講じなければならないという、当たり前のことではあるのですが、大変貴重な判決です。
また、この判決の趣旨は、再稼働を進める今の国の姿勢にも一石を投じるものです。というのも、新規制基準は、避難計画など住民の安全確保を含んでおらず、万全な対策を講じてはいないからです。安全性より経済的利益を優先させる姿勢に警鐘を鳴らす判決だといえます。
国・東電のもう一つの主張は、「年間被ばく線量20ミリシーベルト以下は被害はない」「中間指針(※)は合理的な内容を定めたもので、相当だ」というものですが、これも今回の判決で明確に覆され、被害救済の範囲・水準が中間指針や国・東電の主張するレベルでは足りないとされました。これも重要な成果です。ただ、この救済範囲と水準については、私たちの主張がすべて認められたわけではなく、今後に引き続く課題もあります。
(※原発事故の賠償の指針を定めた、原子力損害賠償審査会の中間指針)
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地裁前で勝訴を伝える弁護団 |
原状回復の旗印に確信をもって
さらに、私たちは原告だけの救済を求めているのではなく、あらゆる被害者が救済されなければならない――これを全体救済と言っていますが、今回の判決で救済範囲とされた対象地域の人口は、150万人以上にも及びます。だとすれば、政治の出番にもなってくる問題です。県や市町村も被害者と一緒になって、国に救済の見直しを迫っていくことも求められると思います。
私たちの裁判の旗印の一つが「原状回復」だったのですが、今回、裁判所は原状回復に対しては「却下」という判断になりました。この「却下」は、「裁判という枠組みでは、この請求を受け付ける、つまり判断に入ることができませんよ」という意味であって、「原告の主張は認められない」という意味の「棄却」ではないところが重要です。
しかも裁判所は、単純に「却下」とすればよいところ、わざわざ「原状回復は原告らの切実な思いに基づく請求であって、心情的には理解できる」と判決文に書いたのです。これは審理の最中に、裁判官が実際に農地などに足を運び、現地を見て、私たちの思いを受け止めたことの表れでもあり、私たちとしては、原状回復を旗印にしたことは正しかったという確信を深めるべきものです。今後は、法廷の中はもちろんですが、法廷外での取り組みがますます重要になってくると考えています。
全国どこでも被害起こり得る
農民連の皆さんは、ぜひこの原発訴訟のたたかいを、福島だけの問題だと考えないでください。今回の判決で被害が認められた範囲はほぼ80キロ圏です。全国各地の原発から80キロで円を描けばわかりますが、一たび原発事故が起きれば全国どこでも被害は起こり得るはずです。
それから、福島の農民連の皆さんはこれまでたいへんな思いでたたかってきました。全国の仲間として今まで以上に支援を強めてほしい。国・東電は高裁でもさらに争う姿勢です。とくに農民連で取り組んでいる営業損害請求では、「打ち切り」も示されているなかで、今回の判決は、「中間指針がすべてではない」「被害実態を見なければならない」としました。これはまさに農民連が言いつづけてきたことで、ここに確信をもって、たたかってほしいと思います。
国は原状回復の責任果たせ
果樹農家 畠 雄一さん(福島市、49歳)
就農して2年目に原発事故が発生。しかし東電は規模拡大分の賠償を認めず、困っていたときに農民連と出合い、なりわい裁判にも原告として加わることにしました。これほどのひどい事故と被害に、誰も、どこも責任をとらないのはおかしいという怒り、そしていま小学生の子ども2人にもしも将来、健康影響が出たときに泣き寝入りしないためにも、責任の所在をはっきりしておきたいと思ったからです。
判決でその責任が明確になったのは、本当によかった。でも「原状回復」は認められませんでした。いま、除染のために畑の表土をはいで、山砂を入れたりしていますが、本来、土壌は何十年、何百年と作り続けて、やっとおいしいものができるんだし、それぞれ畑の土壌や風土にあわせて作物を選んでいるのです。やはり原状回復の責任を、国・東電にはとってもらいたいです。
つながって支えられて勝った
果樹農家 松川峯子さん(福島市、73歳)
「黙っていては伝わらない。この悔しさを全国にわかってもらいたい」と原告になって4年。判決日は膝痛で杖(つえ)をついて福島地裁に駆けつけましたが、地裁の外に弁護士さんが飛び出してきて、「勝訴」という幕を掲げたときには、本当に「原告になってよかった、たたかってきてよかった」と、涙が出ました。
この勝利判決は、全国の皆さんの支援と、地域での粘り強いたたかいがあったからこそ。「公正な判決を求める署名」にも23万人分を超える署名が集まり、裁判のたびに全国から応援に集まってくれて、本当にありがたかったです。地域でも小さな力を集めて積み上げて、みんなでつながって、支えられて勝った――たたかいは続きますが、この感動は大きいです。
(新聞「農民」2017.10.30付)
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