「農民」記事データベース20240311-1592-05

「だれ一人取り残さない」の実現には
農業を支えなければならない

駒澤大学経済学部 姉歯曉(あき)教授
インタビュー

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新自由主義による国の責任放棄で
日本の農と食のリスクがあらわに

画像  私は学生に「食と農」から生活のリスクを考える授業をしています。

 直接的なリスクとしては、食料自給率は砂漠の国家並み。穀物自給率にいたってはバチカン市国並みの状況が続いています。日本農業の人口扶養力を考えれば、世界の食料供給の中心となるべきなのに、この低さです。

 この数字が格差、貧困の刻印から抜け出せない一因になっています。国際的な飢餓の深刻さは知られていますが、国内でも子どもや高齢者などで、飢餓状態に陥る人がいます。こうしたリスクを抱えている国であることを私は学生に伝えています。

 食と農への不安は様々な面にも波及しています。たとえば輸入食品の検疫は32カ所の検疫所で422人の職員が行っています。

 2022年度のデータでは、検査されたのは年間246万件の輸入のうちわずか20万件(8%)です。このうち809件で違反があり、単純に全輸入量に換算すると、9708件の違反があることになります。アフラトキシン(カビ毒)なども検出されますが、検査結果が出るまで7営業日必要で、結果が出る前に流通可能です。

 BSEの事例では23年間で1500万頭以上の全頭検査を行い、36頭の感染が認定されました。同じようなことが食品検疫でも行われるべきですが、行われていません。この一点だけでも輸入に依存するべきではないと言えます。

 こうしたリスクは農業の大規模化では解消しません。SDGs(持続可能な開発目標)の「だれ一人取り残さない」という目標達成のためにも地域の維持と食料生産の安定に寄与する小規模農家を支えることが必要ですが、国が何もしておらず赤信号がともっている状態です。

 私は学校給食の研究もしています。都会では経済的困窮から給食が命綱となっている児童が多くいます。子どもの数も多く、農家がいれば安定した納入先になるポテンシャルがありますが、肝心の農家がほとんどいなくなっています。「有機給食を実施したいが、どこから調達したら良いのかわからない」というのが給食現場の悩みとして出ています。

 一方、地方では農家がいても、子どもの数の減少や学校の統廃合などで、一度に買い上げる量は減っています。運搬を高齢化した農家が担うのも大変です。

 こうした国内需給のミスマッチの解消は、農家を支援し供給体制の基盤を作るなど、本来国の責任でやらなくてはいけないのですが、国は自治体に丸投げしています。

 民間任せ見直せ

 民間委託も大きな問題です。地元の農家との綿密なやりとりや、加工品を使わず手間のかかる手作りの給食を継続するためには、調理現場でも技術の伝承や農家と子どもたちとの恒常的な交流が不可欠です。加工品を使うことを極力抑えることができている現場では今の価格高騰でも生鮮食料品の値上げは小さく影響が抑えられたそうです。一方、調理現場の民間委託で加工品比率が上がり「本当に苦労している」という現場もあります。

 私は昨年までスウェーデンにいました。福祉大国といわれていますが、WTO(世界貿易機関)やEUへの加入で自治体任せと民間委託の政策が進んだ結果、新型コロナウイルスの流行による高齢者の死亡増加につながってしまいました。

 世界的に見ても自治体任せ、民間任せを見直す時期に来ています。

 一番いい食材で安心して食べられる給食を提供するという食育基本法の理念実現のためには、日本の豊かな農地を守り、農家の生活を安定させ、調理現場の人員の確保が必要です。

 そのためには国が投げ捨ててきた責任を、もう一度思い出させる運動が必要です。

 農民連の「自給率向上を政府の法的義務にすることを求める」請願署名は、まさにその役目を果たす重要な取り組みだと思います。ご一緒にがんばりましょう。


2.24

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(新聞「農民」2024.3.11付)
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2024年3月

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