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愛媛・野村町にみる(下)

“四つの宝”で町おこしだ

過疎・高齢化のなか農業守る自治体農政

 愛媛県の野村町では、農民組合や生産組織が町の行政や農協を動かして、畜産と野菜の地域複合による山間地農業の再生に取り組んでいます。小さな町の大きな施策(四つの宝)―(1)土つくり(2)町独自の野菜価格保障制度(以上、前号紹介)に続く、(3)行政による流通支援(4)後継者研修・高齢者援助についてみてみましょう。


産直店開設に補助、高齢・後継者への手厚い支援で夢と活気が…

 “四つの宝”の第三の柱は、町行政による生産・流通支援と産直店の開設です。

7百万円かけた産直店が大盛況

 過疎化や高齢化が進んでいる野村町では、農地の荒廃を防ぎ、高齢者の生き甲斐対策として、産直への期待が強くありました。
 これにこたえ町では、基本設備に七百万円を補助、運営は産直組織に任し、口はださないという条件で昨年六月、県都松山市内に「百姓百品産直組合」の常設店をオープンさせました。

 これに先立ち、四月には町の営農指導センターの呼びかけで「野村町百姓百品産直組合」が結成され、農民組合(角藤治義組合長)も組織参加し、産直組合の組合長には農民組合の和気忠教町議が選ばれました。松山市の産直店では、新鮮な野菜、漬物、手作りニガリ豆腐などが評判をよび、開店いらい毎月五百万円前後を売り上げるという繁盛ぶりです。そしてことし五月には、消費者の要望にこたえ松山市内に姉妹店をオープンさせました。

 産直組織の組合員は、現在二百六十人に増え、とくに七十歳以上の高齢者が三〇%を占めています。お年寄りたちが「百姓百品産直のおかげで出番ができた」「生きる励みがでてきた」と喜んで野菜や米、漬物作りに励み、「来年の二、三月には、売り上げ金を貯金してハワイ旅行に」と夢をふくらませています。

農民連に団体加盟、大豆トラスト運動も

 産直店で一番の人気商品は、惣川地区の川上寿美さん(74)夫婦が、昔からのニガリと湧き水で作る豆腐です。川上さんは夜の七時に寝て、十時に起きては明け方三時半までに約百丁の豆腐を作り、土曜、日曜、水曜の三回出荷。「体はしんどいが、お得意さんが味を知っていて、喜んでもらえるのがなにより」と頑張っています。

 自治体や農協が都市部に産直店を出している例は各地にありますが、野村町のように自治体が資金援助し、農民連も参加した産直組織が自主運営しているのは珍しい。

 百姓百品産直組合では、ことし五月の総会で、もっと品揃えを良くして消費者にサービスするためには、全県、全国の産直協や農民連と提携していく必要があるとして、農民連への団体加盟を決定しました。また九月に松山市で開いた生産者と消費者の交流会では、遺伝子組み換え食品が増えているなかで、安全な食品を確保するため大豆トラスト運動に取り組むことも決めました。野村町だけでなく生協などにも働きかけ全県規模のトラスト運動にしようと話し合いを始めています。

後継者研修に毎月12万円の助成金

 第四の柱は、農業後継者への研修助成と高齢者援助です。
 町では九七年度から、十八歳から三十五歳までの後継者が公共機関や先進農家などで研修する場合、三万円までの赴任旅費と毎月十二万円を二年間支給する後継者支援制度がつくられています。これは和気町議の提案で実現したもので、現在までに三人の後継青年が北海道に酪農の研修を行っています。

 後継者の育成とともに高齢者の農業を支援するため町では、五百万円を限度に野菜のハウスづくりなどで三分の一の資金を助成しています。
 また野菜作りは重労働で栽培期間も長くて休む暇もないので、野菜ヘルパーを作ってほしいという要求がだされ、農協で検討中です。

農民組合が切実な運動の先頭に

 以上のように野村町では、中山間地農業を守る“四つの宝”と呼ばれる総合的な取り組みと同時に、その一年間の総決算として税金問題を重視しています。農民組合が中心になって、野菜農家などに呼びかけ、これまで青色申告だったのを農民連の税金ノートを使った自主申告にかえ、暮らしと経営を守っています。

 野村町は決して革新自治体ではなく、どちらかと言えば保守的な町政です。このため一方では、「だれのためのものか分からないハコもの作り」と、批判の強い農業公園作りに十数億円も投入するといったこともやっています。

 しかし全体的にみると農民のための農業振興策が推進されています。これができるのは、数はまだ大きいとは言えないが、町民の中にしっかりと根を下ろし、それぞれの生産点で中核になって活動している三十数人の農民組合員がいるからです。組合は農民の切実な要求を取り上げ、町政を動かす世論をリードしているのです。

 また町議会では、この二年間、農民連などが要請する米の関税化反対、WTO協定改定を求める意見書など、すべての請願を採択しているのも特徴的です。

(新聞「農民」1999.10.4付)
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1999年10月

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