「農民」記事データベース20010108-476-05

もの作る誇りと喜び仲間も増え、活気が…

関連/山の恵みも生かし多品目出荷


「学校給食米を供給して良かった」次々販路が拡大して

北海道・空知

 「個々の農家がもがいている時に、お前ら農民組合は、何か明るい展望を示してくれる」――まわりの農家からこんなふうに信頼を得ている農民組合が北の大地にあります。北海道の空知中央農民組合と空知産直センターは、持ち前のフロンティア精神で販路を広げ、着実に組合員を増やしています。

◇   ◇   ◇

 生産者みずからが販路を切り開く先頭に立っている空知産直センター。そんな彼らが「あの時始めていてよかったぁ」と口をそろえて心から言うのが、三年前に始めた東京・練馬区の小中学校への給食米(きらら397)の供給です。

 「おいしい!」という評判は栄養士仲間の口から口へと伝わり、当初三校から現在十七校へとまたたく間に広がりました。今でこそ、産直センターの扱う米の大きな部分を占めていますが、最初からこうなることを予想した人は少数でした。

採算割れでのスタート

 この話が最初に持ち込まれた役員会は、みんな腕を組んで、う〜ん、う〜んと唸るだけ、誰も口を開きません。最初に栄養士と会い、話をした白石淳一・空知中央農民組合委員長(農民連常任委員)も、「内心はこんな話を持ち帰ったら仲間から袋叩きだろうなぁと思った」と言います。

 逡巡した理由は“価格”でした。当時の農協の仮渡金は一俵(60キロ)一万五千円、産直米はさらにずっと上。しかし学校給食米は、仮渡金すら下回る十キロ三千三百円(白米、運賃込み)だったからです。

 「価格的には本当に厳しかった。ただ、子どもに外米混じりのご飯を食べさせたくないという栄養士さんの思いに応えたかった。運送会社と掛け合ったり、切り詰められるところはギリギリまでコストを下げた。それでも採算割れでのスタートだった」。

野菜の直売所に挑戦…

 産直センターの前田善治代表理事はこう振りかえります。しかしその後、米価は暴落を繰り返し、農協の仮渡金も下がり続けて、今では一俵一万円。学校給食米の価格は、仮渡金を上回るようになりました。

 「子どもたちもモリモリよく食べてくれるし、『おいしいご飯が炊けたよー』って自信を持って言えるお米です。栄養士仲間にも胸を張って薦めています」と、高く評価する栄養士の高木つどい先生(関町北小)。「本物のお米を食べてもらいたいという生産者の誇りは、必ず消費者に伝わります」とエールを送ります。

 産直センターの挑戦は続きます。昨年は野菜の直売所に挑戦しました。「品揃えはどうすんだ」「赤字を出したら困る」「場所が悪い」など、消極論が出るなかで、「まずやってみよう」というスタートでした。

 「やってみて、様々なドラマが産まれた」という産直センターの小橋都事務局長。直売所は、近所の主婦らに「ゲタ履きで買い物できる店」と親しまれ、袋がなくなった時にスーパーの袋を集めて持って来てくれたこともありました。

 直売所は個々の農家が持ち込み値段を決め、売れ残ったものは持ち返る方式。「安くてたいへんだ」とグチっていた農家が、親戚への贈り物を買いに来たお客に「この人の!」と自分のカボチャを指名され、「来年も、がんばって作るわ」と励まされたこともありました。

 「今年は今日で最後という日には、『来年また楽しみにしているからね』って近所の人から声をかけてもらい、赤字だったけど、やっただけ得るものがあった」と、小橋さん。

仲間も扱い量も増えた

 地元生協との取引も秋から始めました。いっこうに売れないタマネギを見て、「生協は本気で売る気があるんだろうか」と心配する生産者に、生協の担当者は「ちょっと売れないからといって取引をやめません。これが出て、いい物だと判れば、お客さんは高くても買うんだから」と答えたといいます。

 「生協も、産直センターがどのくらい生産者を組織し、生産力をもっているか知っている。だから、もっといろいろなものが出てくると期待して、今つき合っている」という米部会長の井上耕太郎さん。「組織の大きさが、取引先からの信用につながる」井上さんは、このことをこれまでの経験から学んだといいます。

 空知中央農民組合と産直センターは、組合員と新聞「農民」読者を毎年コツコツ増やし、十年間で三倍にしました。農閑期に開かれる「説明会」は、毎回新しい人が参加。「誘って参加する」が組合員に定着しています。

 同時に、米の扱い量も徐々に増やし、「売り先限界」論を実践的に克服してきました。現在は組合員一人当り二百俵、平均的なこの地域の経営(八ヘクタール、六百俵)の三分の一。米パニック後に扱い量がガクッと減った時に「何が拡大だ」と組合員を増やすことに反対した古い組合員も、昨年は「これだけ数量が扱えるようになったんなら」と初めて新組合員を迎えました。

 「作るだけでなく、農民運動にも興味があった。やっぱり言うべきことは、しっかり声を大にして言わなきゃいけない」と、昨年加入した笹木昭博さん(47)。他の農民組織は「俺が何とかするから、お前は黙っていろ」型で、その結果として毎年米価を下げられている責任は誰も負わないことが背景にあります。

 「産直センターが扱う米の量が二倍になって、トップに立った時に地域がどう変わるか。楽な仕事ではないけど、おもしろいよなぁ」。井上さんの目は、そう遠くはない未来に向けられています。

(二瓶康一)


山の恵みも生かし多品目出荷

福島県霊山町の直売所

 タケノコ、タラノメ、ナス、キュウリ、アケビ、ネギ、大根、漬物、豆……福島県霊山(りょうぜん)町の農民組合の会員十人で出している福島コープの「もぎたて市」コーナーは、実にバラエティーに富んでいて、新鮮で、おいしくて、お客さんに大好評です。「ちょっとずつしか作らなくても、多品目作れば、たくさんの物が出せるから」「お客さんが喜んでくれるから私たちもうれしいねぇ」「家計の助けにもなるし年寄りの生き甲斐でもあるしねぇ」――もぎたて市の相談をするお母さんたちの話はなかなか尽きません。「こんなのが売れた」「あんなのも売れた」「アッハッハッ」「ワッハッハッ」。働き者のお母さんたちの元気な笑い声が、霊山のふるさとに響いています。

「もぎたて市」に出荷し四年

 福島市から車で四十分。こんもりとした山と、広くて明るいなだらかな地形の続く中山間地の農村、霊山町。この町の農民組合員十人で、隣町の保原町にある福島コープの大規模店舗の一角に「もぎたて市」を出し始めて四年近くになります。コーナーは、野菜売り場の一番目立つところで、夕方ともなると売り物がなくなる人気ぶり。今年の売上は、すでに七百五十万円を越えています。

 出荷は毎朝、野菜、きのこ、漬物、乾物など、生産者の一人、大橋クラさん宅のお嫁さんの光子さんが、三か所の集荷所を回って店舗に運んでいます。朝どりか、どんなに早くても前日の夕方の収穫という新鮮さが、生産者のお母さんたちの何よりの自慢です。

春から冬までいろいろ売れた

 「春のタケノコは喜ばれたなぁ。とくにハチクは飛ぶように売れたっけ」「そうそう。予約したり、並べるの待ってる客さんもいたんだって」。「春は山から山菜が取り放題だから。ハッハッ」「夏のキュウリも小さいのや曲がったのもよく売れた。漬物にいいんだって」「私は桑の実も出した。取るのが大変だから、小さな袋につめて」。「私は秋にアケビも出したよ」「へぇ、そんなものまで」「秋はキノコもとれるしね」「冬は漬物がよく売れるね」…。「こんなの作った」「こんなの売れた」という話をする時のお母さんたちの楽しそうな様子ときたら話の止まるところを知りません。

 「何を出してもいいから」という生協からの要請で始まった「もぎたて市」ですが、最初は毎日の出荷に不安もありました。でもキノコ、イチゴやキュウリ、モモなど、それぞれ基幹的作物が違っていて、それだけである程度の品目がそろったこと、それまでも自家用野菜ならいろいろ作っていたことなどから、「とにかくやってみよう」と始まったのだと、今年七十三品目を出荷した班長の大橋広子さんは言います。「それに山があるから山菜や木の実を取ってこられる」というのも共通した意見です。

仲間どうしで調整、品揃え

 ジャガイモやネギなど誰もが作っているものは当番で出し、野菜などは品目が重ならないように作り、タケノコなど旬のものも塩漬けにしたり、乾燥させたりして時期をずらすなど、仲間同士の自然な調整も豊富な品ぞろえの秘訣です。「仲間がいれば休んでも物が切れることもないし、品をそろえためには時々出してくれるような人も大切」とお母さんたち。不況で年齢制限などパート雇用も厳しいなかで、「こういう売り場があるのは助かるね」と、少量多品目を作り続けて、売り場の確保に努めてきました。また「運んでくれる人がいるのも大きいね」と光子さんへの感謝も忘れません。

一番の担い手は、お年寄り

 でも、もぎたて市の一番の担い手は、それぞれの家のお年寄りかもしれません。「私たちは種蒔くばっかりで手入れは年寄りがやってくれるから、とっても助かるのよ」「そうなの。うちもお爺さんいなかったら、もう出すものなくなっちゃう」と言います。もぎたて市で野菜が売れるようになって、お年寄りが元気になった――もぎたて市は大切な作り甲斐でもあります。

 お母さんたちは今、もぎたて市以外にも売り先ができないかと話し合っています。

 「売り場はこれだけだと視野が狭くなると、仲間も増やせないし、日本の食料を守っていくなんて考えたら、もぎたて市で満足してられない。農民連をもっと大きくしなくちゃ」「今年は四年目だから、ちっとは脱皮しなけりゃ」…。お母さんたちの新たな挑戦が続いています。

(満川暁代)

(新聞「農民」2001.1.8付)
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2001年1月

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