「農民」記事データベース20020603-541-01

“結婚という「形」よりも愛で結ばれる「中身」が大切よ”

未婚の男女へのメッセージ

 三十二歳の若さで結婚相談所の仕事についてから二十二年、さまざまな独身男女の相談にのり、農村の結婚難問題で全国を飛び回ってきた板本洋子さんに、その「思いのたけ」を聞きました。


 日本青年館結婚相談所長

     板本洋子(いたもとようこ)さん

 「うさんくさい」仕事なのか?

 結婚って本人の問題でしょう? 他人がとやかく言うものではないのになぜ私たちが結婚相談をやらなければならないのか。相談所の開設当時、率直に言って、そういう疑問がありました。当時は「結婚相談所」と聞くと、何となく「いかがわしさ」を感じる人がいたし、相談所で仕事をしているというだけで軽く見られたものです。

 結婚式は「お目出たいことだ」と言われるのに、結婚する人を紹介することは「うさんくさい」という社会的イメージがあって軽視される。でも「結婚相手を求めている」本人や両親は必死です。この「必死」の部分と、社会的に「必死でない」部分とのギャップが大きかったですね。

 北海道から交流申し込み

 私どもの相談所は「農村青年を扱う相談所」と思われがちですが、最初も今も首都圏の独身男女の相談が主流になっています。

 ところが開設直後に、北海道・釧路管内の自治体から「農村の嫁不足」の話が持ち込まれました。都会の女性と酪農青年を交流させるイベントを実施してもらえないか、というものでした。そこで入会者の希望条件を調べると農村の人との結婚を望む女性がいない。そこで「北海道での交流会に参加したい人いませんか」と広く首都圏の女性に呼びかけ、新聞にも取り上げてもらい、女性を集めたわけです。

 あの当時としては画期的なニュースになり、NHKでは「明るい農村」という番組で放映され、続々と参加希望者が出てきて、一回目は大成功を収めたんです。

 それで一挙に「青年館の結婚相談所が農村の独身男性を紹介している」という宣伝が広がって、各地からの問い合わせが殺到してきたんです。面食らいました(笑い)

 「オカシイんじゃない?」

 以来、いくつかの自治体と共催で都市と農村の交流会を進めていくうちに「オカシイんじゃない?」という疑問にぶつかりました。

 例えば「うちの娘は農家にやりたくないが、息子には嫁がほしい」「不真面目な男には嫁がくるけど、真面目な男ほど嫁がこない」「嫁にきてくれるなら誰でもいい」。こうした“つぶやき”は「女性」を一体どう受けとめているのか。こんなことを言っていたら、女性は逃げる一方だろう。もっと農村女性の問題と結びつけて考える必要があるのではないかと思いました。

 若い世代と、お世話する行政や親世代の相談員との意識のずれも感じました。そんなことで、相談所開設五年目くらいから全国の行政関係者や相談員、また結婚したい本人を対象にしたセミナーを開きました。今も「全国結婚相談会議」として継続しています。

 ママが「ダメ」と言ったから…

 この仕事をして強く感じたのは、農村、都市を問わず「男性の脆弱化」です。異性とうまくコミュニケーションがとれないという悩みもたくさん聞きました。例えば、セールスマンは商売の話はうまいけど、お見合いになると口べたになり、あげくの果てに「女性のことが分からない」と悩みます。

 こうした状況も含め、樋口恵子さんや斉藤茂男さんと相談して一九八九年、花婿学校を始めたんです。三人で話し合った結果、テーマはやっぱり「男性」。時代の変化にともない、女性の意識も生き方も変化しているのに、男性は相変わらず「仕事人間」。学歴偏重のなかで経済ロボットになっているのではないか。そのことに気づくことなしに、対等・平等で自由な家庭、夫婦関係はつくれないのではと考えたのです。この事業は、名称は変わりましたが、今も続いています。

 「事実婚」や「同居婚」が

 結婚についての考え方は、時とともに目まぐるしく変わってきました。親世代の人たちは結婚を「バラ色だ」と言い、誰もがするものだと考えてきましたが、現実の結婚とスタイルはどんどん変わってきています。今まで定番とされてきた「夫婦の関係」が崩れ、結婚そのものも「個人の選択と自由」を基本にとらえるようになってきました。

 それは最近よく言われる「事実婚」「同居婚」「別居婚」に現れています。家制度の名残りがある家族法にもとづいた「婚姻」を否定する人は「同居」だけでよく、「婚」はいらないと考える人もいます。

 今までの結婚と同じ形でも中身が変化しています。妻が単身赴任して夫が家を守る。再婚者同士が互いの子どもをつれて一つの家庭をつくる。家事に育児を夫婦が分担する。互いの仕事を優先させて共に暮らすなど、さまざまです。いろいろの問題や矛盾を含みながらも、自分たちが一番生きやすい結婚が生まれてきていることを実感しています。「事実婚」というと、親から見れば、息子や娘がカップルになって家庭を築いてくれるのはよいけれど、婚姻届を出していないというのは、いつでも別れやすい状況にあるわけですから、心配したり、子どもをどうするのか不安がったりします。

 でも婚姻届を出していれば、別れない保証になるという時代ではなくなりました。問題は「形」ではなく「中身」の変化を見守り、シングルやシングルマザーも含めて多様な生き方を認めることが大切なのではないでしょうか。

 後継ぎの肩に「責任」が

 農村でも結婚難が続いています。「出会いの機会がない」「男性が消極的」とも言われますが、他方、男性の背負っている課題が多すぎます。それが大きいと思います。

 農家の後継者には「農業」「家」「家族」「先祖の墓」「地域の役職」などが肩にかかってきます。家族を養うことから親戚とのつき合い、集落の役員や農業団体、消防団などの「役害」も肩にかかっているんですね。自分が希望しない「農業の跡継ぎ」に押しつぶされて、自殺したという「農家の長男」の話も聞きました。加えて「地域の存続、地域の振興のために家を守る。そのための結婚」という発想も後継者には重い課題となってきています。

 この「おしつけ」をはねのけて、自分自身が主体的に行動し、仕事に十の力を掛け、恋愛にも十の力を掛けることができれば、前途に光が見えてくると思います。

 女性がほれる相手とは…

 こんな例があります。長野県川上村のレタス農家の後継青年が見事、パートナーを射止めたんです。六月の交流イベントで彼女と会い、お互いにラブラブとなって、デートしようと思った時にレタスの最盛期とぶつかってしまった。農作業のピークが終わるのは十月、それまで待っていたら恋愛は発展しない。デートをとるか、レタスをとるか。彼は「レタスで二百万、三百万損してもデートをする」と決意。親の支援もあって交際を進め、結婚しました。

 女性が「そうしろ」と言ったのではありません。男性が「そんな気持ちを持っているかどうか」知りたいわけです。二人の気持ちを大切にしてくれる、ファイトのある男性に女性は惚れるもんですよ(笑い)


 〔プロフィール〕一九四八年、茨城県日立市生まれ。日本女子短大卒後、日本青年団協議会に入り全国の地域青年団活動に関わる。その後、財団法人日本青年館へ移り、八〇年、結婚相談所設立と同時に専任となり、八四年以来、所長として活躍。主な著書に『現代結婚事情』(家の光協会)、『花婿学校いい男になるための十章』(共著、三省堂)など。
(聞き手)角張英吉
(写真) 塀内保江

(新聞「農民」2002.6.3付)
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2002年6月

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