「農民」記事データベース20020603-541-05

“食の安全”最前線

いま、農民連食品分析センターが引っ張りダコ

 食べ物の安全が、いまほど大きな社会問題となっているときはありません。国も、何か手を打たなければと、動き始めています。だけど、「食の安全を守る」とはどういうことでしょうか。その答えを求めて、最前線で奮闘する個人・団体を追いました。
(石部 傑)


 農民連食品分析センター――。食に関心を持つ人々のなかで今、この名前を目にしない人はいないかもしれません。テレビ、新聞、週刊誌、業界紙・誌と、あらゆるマスメディアで、引っ張りダコだからです。なぜそんな“現象”が起きているのか。

 輸入冷凍野菜も検査するように変えた

 輸入冷凍野菜の検査はしない。それが国の方針でした。「個別包装で検査しにくい」が理由です。

 こんな国の方針を、事実の重みで変えさせたのが農民連の食品分析センターでした。市販の中国産冷凍ホウレン草などの検出結果を、記者会見で発表したのが三月十五日。これをうけて、厚労省が動きます。

 五日後のことでした。厚労省の監視安全課長名で、全国の検疫所長に通達がいきます。

 「生鮮野菜の成分規格を上回る農薬が検出されたと新聞報道がなされています。冷凍食品には、残留農薬の規格はありませんが、加工食品の原材料の野菜には残留農薬基準に適合する必要があることから」……。こうして国は、三月二十日からホウレン草を含む十八品目をモニタリング検査することになりました。

 「モニタリング検査の場合、通常は輸入届出の五%なんですが、農民連さんの検査結果があったので、このときは一〇%にしたんです」と、厚労省の担当者。

 この国が初めて実施した検査で、日本では使用が禁止されている毒性の強いパラチオンが、中国産冷凍ホウレン草から検出されます。このため厚労省は四月二十二日、一〇%モニタリング検査を、一〇〇%検査に切り替えました。「モニタリング検査でも、一〇〇%検査だと結果が出るまでは市場には出回りません」(厚労省)。冷凍野菜の輸入が野放しだったことからすれば、文字どおり画期的なことでした。

 禁止農薬のドリン系を急きょ検査項目に

 まだ続きます。こんどは同じ中国産冷凍ホウレン草から、検出されてはならない禁止農薬、ディルドリンが検出されました。「農民連さんが(ファミリーレストランのホウレン草ソテーを)検査された中に、エンドリンがあったというので、ドリン系が出る恐れがあるということで急きょ検査項目に加えることにしたんです」。その結果の検出でした。

幅広い人たちとの共同

 昨年の九月には、赤ちゃんが食べるベビーフードから農薬を検出しました。国もさすがに無視できず検査した結果、農民連の分析を裏付ける結果が出ました。ベビーフードの原料となる冷凍ホウレン草から、農薬が検出されたのです。

 「考えられないことでした。安全だと思って使っていたものから、農薬が出るなんて」と、新日本婦人の会千葉県本部で赤ちゃん親子リズム小組を担当する、副会長の戸村つねさん。

 厚労省は業者に対して、検査体制の強化、製造所、生産地、納入業者などの調査、指導を実施しました。新婦人のお母さんたちの運動もあって、厚労省を動かしたのです。

 このことをきっかけに戸村さんたちは、新聞「農民」の切り抜きなどを使って、話し合う機会をつくります。「ビン詰や缶詰のものを食べさせるのではなく、家庭の味、食文化を伝えていくようにしていかなければ」と、親子クッキングで離乳食作りにも取り組みました。

 「分析センターの検査がなければ、分からないで過ぎたんだろうなあと思えば、恐くなります。不安なことがあれば、気軽に調べてもらえるので、力強いですね」と、戸村さん。

 生産者百十九世帯でつくる千葉県の農事組合法人・房総食料センター。ここでは年間百五十万円の予算を組んで、農薬残留検査をしています。房総食料センターで出荷している生産物のほとんどが野菜。年間の取扱高は、約十三億円。原価を割ることもある野菜価格の低迷が続いているなかでも、なぜ安全にこだわるのか。

 専務理事の椎名二郎さんはいいます。「安心・安全なものといっても、言葉だけではだめです。科学的な裏づけをきちんとさせる。そのうえで、安心・安全の中身をちゃんと情報公開していこうと、十数年前からやってきた。分析センターができる前は、民間の分析機関でやっていたが、一件三万円もかかる。だから年に二、三回がいいところでした」

 分析センターは農薬だけでなく、栄養成分の分析でも注目されています。「うちの野菜はいいものですよといってきたが、こんなにレベルが高かったのかと、科学的な裏づけを手にしてびっくりしているんです」こう語る椎名さんは「米の業界誌でも、食品分析センターの検査結果を紹介していましたね。分析センターそのものが社会的に認知され、その活動への信頼度が高まってきている。それは、私たちが出荷するときにつけている分析センターの証明書への信頼度も高めています」とつけ加えました。


千葉県食文化研究会

雨宮 正子さん

 私たちは、学校給食の食材は安全な県産品でと、十数年間運動してきました。だけどラチが明かなかったんです。そんなとき農民連の分析センターに依頼した学校給食のパンから、農薬が出た。昨年の五月のことです。それをもとに県となんども交渉し、十月には一部の小麦製品の三〇%が県産になったんです。そこでまたすぐ、分析センターで調べたら、随分減っていた。それでも農薬が残っていたので、また交渉し、今年の四月からすべての小麦製品の三〇%を県産にしました。分析センターさまさまです。いまは一〇〇%県産目指して運動しています。

 小麦だけでなく学校給食の食材には輸入品が結構使われています。そういう面でも調べて、子どもたちの食の安全を守っていきたいですね。

(談)

(新聞「農民」2002.6.3付)
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2002年6月

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