「農民」記事データベース20021007-557-04

世界のコーヒー栽培農家襲う大暴落
農家手取りは、消費者価格の2%以下

ブラジルコーヒー栽培農家イバン氏農民連本部訪れる


 私たちが飲むコーヒーの値段はそれほど下がっていないのに、コーヒー豆の価格が大暴落し、熱帯・亜熱帯の発展途上国でコーヒー栽培を営む二千五百万農民を直撃しています。最高時一ポンド(約四百五十グラム)四ドルだった生産者価格が、いまは八分の一以下(図1〈図はありません〉)。九七年以降だけをとっても、一・八ドルから〇・四ドルへと五分の一に暴落しています。

 しかも、消費者価格に占めるコーヒー栽培農家の取り分はお話にならないぐらい低く、国際コーヒー機関(ICO)や、世界的にフェアトレード(公正貿易)を進めるNGO「Oxfam」の調査では二%以下(図2〈図はありません〉)。

 ICOは八〜九月に開かれたヨハネスブルクサミットに対し「グローバル・コーヒー・クライシス」(世界的なコーヒー危機)という報告を提出し、事態の打開を訴えています。報告によると、九〇年代初頭には先進国のコーヒー消費総額が三百億ドルだったのに対し、コーヒー輸出国の所得は百〜百二十億ドル。ところが現在は消費額七百億ドルに対し、輸出国が受け取ったのはわずか五十五億ドル。「価格はこの百年間で最低だ」と告発しています。

 「非人間的」な価格

 そんななか、ブラジルのコーヒー栽培農家が九月十三日、農民連本部を訪れました。訪れたのはイバン・フランコ・カイシェタさん。南ミナス州で兄弟五人でコーヒーの有機栽培に取り組んでいます。

 イバン氏によると、ブラジルでもコーヒーの暴落は激しく、九四年には六十キロあたり二百六十〜二百八十ドルだった価格が昨年十二月に五十ドルを割り、いまは三十五ドル。一方、生産コストは八十〜百ドルで、完全に採算割れ。

 「コーヒーの樹を見たこともない人が、ニューヨークやロンドンで勝手に値をつける。これは非人間的な恐怖のやり方です。しかも、三十五ドルで売れても、そのうち四〇%はアメリカやドイツの農薬・肥料会社に持っていかれる」(イバン氏)。

 実際「Oxfam」の調査によると、メキシコ・チアパス州ではコーヒー農園労働者の賃金も半分以下になり、平均的な日給は、国連が認める極貧ラインの一〜二ドル。私たちが喫茶店で飲むコーヒーは一・五〜四ドル(百八十〜五百円)ですが、コーヒー豆を摘む農民たちの日給を考えれば、一段と苦い思いがします。

 離農や子どもの登校ストップ、さらにエイズやマラリアが深刻な地域でも医者にかかれないで死ぬという事態が相次いでいる。

 また、植民地型プランテーションをそのまま引き継いでいるアフリカや中米では、国の経済そのものが完全にコーヒー輸出に依存しているため、国家的危機に直面しています(ブルンジでは輸出総額の七九%、エチオピア五四%。さらにウガンダでは総人口の四分の一の家計がコーヒー生産・販売に依存)。“たかがコーヒー”どころか、まさに「グローバル・コーヒー・クライシス」です。

 “死の農業”から“生の農業”へ

 イバンさんは、こういう事態に手をこまねいていてはダメだと考えて、九六年から有機栽培に着手。この四月には日本やドイツの有機認証も受けました。

 正直なところ「コーヒーの売り込みか」と考えながらお会いしたのですが、話を聞くうちに、事態の深刻さとともに、熱帯雨林地帯での有機農業の切実さ、農民として生きる真剣な姿に目を開かされる思いでした。

 大規模プランテーションは森林を焼き払ってコーヒー園を開きますが、熱帯雨林地帯の土壌は直射日光に弱いので土壌劣化が急激に進み、農薬や化学肥料多投に走らざるをえないとのこと。一方イバンさんたちが進めているのは、森林を伐採せずに日陰を維持し、土壌を大事にしながら栽培する「シェイド・グロウン」。

 「微生物が復活し、土壌が確実によくなっています。“死の農業”ではなく、生態・社会・経済の三つの側面で“生の農業”をやる。これは、人間も生物も植物も含む“命”に対する約束です」――マシャード大学でコーヒー学も教えるというイバンさんの説明です。

 イバンさんは、周辺の農民たちと一緒に「シェイド・グロウン」栽培を進め、小農グループの協同組合作りにも取り組んでいます。

 「私たちの試みは太平洋に一滴の水程度のものかもしれない。しかし一杯のコーヒーから、ブラジルを、世界を見てほしい」――。イバンさんたちが作ったコーヒーは間もなく日本に届きます。

 問い合わせ先 「ナチュラルコーヒー」(代表取締役・清田和之)、熊本市和泉町一八九-一六フードパル熊本内、電話〇九六-二四五-四五五五

(新聞「農民」2002.10.7付)
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2002年10月

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