「農民」記事データベース20030609-589-08

わが町・村の農業振興に力つくす(1/3)

各地で取り組む自治体

関連/小さくても輝く 村立農業高校
   大きい地域への貢献度
   「百姓百品直売店」オープン
   実現!町単独の価格補償

 国民の食料を生み出す農山村は、生命の営みに欠かせない空気や水、土壌と緑を守っています。そして、その地域の人々の生活と生産は、日本の文化の基層を形成してきました。「このかけがえのない農山村を守ろう」とがんばっている自治体のとりくみを紹介します。


小さくても輝く 村立農業高校

北海道・真狩村

かけがえない担い手、育てたい

村民を講師に生産技術指導も

 札幌市から南西に車で二時間、羊蹄山の南麗に広がる真狩(まっかり)村。ここに、村が運営する農業高校、真狩高等学校があります。 

 真狩村の人口はおよそ二千五百人。同校で学ぶ百二十人の高校生は、村に活気を与え、地域になくてはならない存在となっています。

 公民館と渡り廊下で結んで

 真狩高校は、村の中心にある役場から歩いて三分ほどのところにあります。正門から入ると、南向きに建てられた校舎の後ろにそびえる、羊蹄山の美しい姿がひときわ目をひきます。 

 同じ敷地内には村の公民館があり、高校とは渡り廊下でつながっています。学校を訪れた時、公民館の調理室では真狩高校生活情報コース・生活改善分会二年の生徒が、野菜嫌いの子どもでも好んで食べるナス料理の試作をしていました。 

 学校と公民館との関係は、施設の共同利用にとどまりません。村は学校と社会を結んだ教育を重視し、学校教育と社会教育とを互いに連携させながら運営しています。 

 こうした取り組みで、公民館が、村民と高校生との日常的な交流の場となっているためでしょうか、二千五百人のこの村で、公民館の年間延べ利用者数は一万二千人を超えているといいます。

 真狩村の農業語れる人材を

 北海道には九校の町村立高校がありますが、そのうち四校が近隣の、真狩村、ニセコ町、留寿都村、壮瞥町にあります。

 真狩高校に通う生徒のおよそ三分の一は真狩村出身ですが、それ以外はほとんどが札幌市出身。村として寮を運営し、村外の生徒を受け入れています。

 一学年一クラスですが、二年生からは野菜、草花、バイオテクノロジーの農業生産にかかわる「バイオ園芸コース」と、情報処理、簿記、食品加工について学ぶ「生活情報コース」の二つが選択できるようになっています。

 農家出身の生徒が二割弱のため、農業後継者とともに、関連産業で活躍できる人材の育成をカリキュラムのなかで位置づけています。

 また、学校として力を入れている食教育について満月廣人校長は「輸入の安い農産物と、自分が作る農産物の違いを発信できる生産者、あるいは違いがわかる消費者を育てたい。また、真狩の農業に関心を持ち、真狩の農産物はこうだよと言える人を育てていきたい」と高校の役割を語ります。

 村の暮らしと密着して

 高校では、より実践的な教育活動のために、村民を講師とした取り組みも行っています。その一つがフラワーアレンジメント。村のフラワーセンター職員が、生徒に技術を教えています。

 また、真狩村は二メートルを越える豪雪地帯ですが、村の福祉協議会と連絡をとりながら、独居老人宅の除雪ボランティアをロングホームルームなどの時間を使って取り組んでいます。

 さらに、特産の食用ユリ根を使った加工品のプロジェクト学習で、生徒が取り組んだユリ根のパウンドケーキが商品化に近づくなど、村の暮らしと農業に密着した学校運営が行われています。

 並々ならない村の取り組み

 村として高校を維持し、支えることは並大抵のことではありませんが、高校の子どもは村の子どもとして、村内外の区別なく、生徒の学ぶ環境を精一杯支援しています。

 村では、授業料と教科書代を全額助成し、さらにアーク溶接などの資格取得に対しても半額の助成を行っています。また、真狩高校は昼間定時制の高校であるため、希望すれば三年過程のほかに四年目の在籍もでき、国内のほかに、アメリカやニュージーランドなど、海外で研修を受けることも可能。こうした研修についても村の出身かどうかを問わず、助成されます。

 「生産する視点で学びたい」

 自ら進んで真狩高校を選んだという札幌出身で三年生の女子生徒は、「体験学習の時に感じた雰囲気の良さでこの高校を選びました。生徒数が少ない分、生徒の仲がいい。寮での集団生活はいい経験です。将来花屋になりたいのですが、花卉農家での実習を通じて、生産する視点で、しっかり学びたい」と応えてくれました。

(森吉秀樹)


 真狩村農業の概要

 真狩村の農家数は百八十戸で、総世帯数の約二割を占めています。

 多くの農家が七品目以上生産し、馬鈴薯、甜菜、小麦、小豆などの豆類のほか、ダイコン、ニンジン、食用ユリ根、長いもなどを生産しており、ダイコン、ニンジンの作付面積、生産量はともに道内トップテンに入る規模で、村内の粗生産額のトップは野菜です。

 村では、作物ごとに基幹作物(馬鈴薯、てん菜、小麦、豆類)、重点作物(食用ユリ根、ダイコン、ニンジン、アスパラ、長いも)、戦略作物(キャベツ、ゴボウ、リーキ、花卉)などに分類して振興計画を作成し、独自の農業支援策を実施しています。

 最近では野菜や花などの高収益作物にの力を入れており、新規作物のリーキ導入のための支援や、栽培切り花の共選施設を備えた真狩フラワーセンターを設置して技術情報の提供、花と苗の販売を行うなどしています。


大きい地域への貢献度

筒井末美村長の話

 真狩村の基幹産業は農業。年間五十億円の農業生産で村が成り立っています。ですから、農業を継ぐ若者がいないといけない。

 真狩では、青年農業者が比較的多いと思いますし、若いうちから結婚する人もいます。しかし、農家人口の定着は難しくなってきています。

 村として農業高校を維持するのは並大抵のことではありませんが、この高校から、毎年農業後継者が生まれています。

 また、これからは新規就農者(現在二人)を含めながら、農業振興をやっていきたいと考えています。 

 負担は大きいものの、農業高校が村立であることによる運営の自由があります。高校があることで、経済的にもそうですが、それ以上に文化面だとか、地域への貢献度が大きいのです。

 村が合併すれば、これまで村が独自に進めてきた様々な振興策や、人が集まるコミュニティーがなくなり、真狩から若者がいなくなってしまいます。


 つついすえみ 昭和二十四年五月九日生まれ。昭和四十八年四月一日真狩村役場職員となり、財務課、経済課、総務課、農業委員会事務局長などを経て平成十二年十月二十九日、真狩村村長に初当選。同年十一月二十七日より村長を務める。

(新聞「農民」2003.6.9付)
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2003年6月

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