「農民」記事データベース20040705-642-01

参院選の争点は価格保障

世界の流れは価格保障も直接支払いも

“米1俵3000〜4000円に”
財界・政府が本気で議論

 参院選の争点の一つとして「所得政策」(直接支払制度)が浮上しています。農産物価格の暴落による農家の収入減を、政府の補助金でカバーする――一見、いいことずくめのようにも見えます。しかし、はたしてそうでしょうか。


 9割の農家を追い出す無謀

 問題は三つあります。

 第一は、政府や自民・公明両党、財界が言い出している「経営所得安定対策」は、価格保障制度を全面的に廃止し、米価をはじめ農産物価格を市場原理に丸裸でさらし、輸入価格並みに引き下げることを大前提にしていること。米価でいえば、一俵(六十キロ)三〜四千円という水準です。

 第二は、こういう市場原理主義による価格引き下げという“暴風雨”によって九割の中小農家を農業生産から追い出すことです。これでは、食糧の安定供給も食料自給率の向上ものぞめないばかりか、ただでさえ少ない日本農業の「担い手」をさらに少なくする無謀な政策だといわなければなりません。

 第三に、わずか一割の「プロ農家」に対しては「直接支払い」を行い、価格下落を補てんするといいますが、これは「激変緩和に対応するための時限的措置であり、将来的には縮減していく」(経済同友会の提言)、つまり近い将来には廃止が予定されていることです。「プロ農家」は輸入価格との競争を強要され、三〜四千円米価で経営が維持できなければ、“お払い箱”ということになります。

 輸入農産物との競争で価格形成

 「米価が三〜四千円なんて、まさか」と思うかもしれませんが、財界や政府系研究機関の間では平気で議論されていることです。

 たとえば、経済産業研究所(経済産業省所管)の上席研究員で、農水省の幹部職員でもあった山下一仁氏は(1)十年間で国内産米の価格を中国米の輸入原価並みに引き下げ、(2)現在の米価一万六千円と輸入原価三千八百円の差額の八〇%(九千六百円)を直接支払いする、(3)直接支払いは「農家の選別」に役立つように運用する――ことを公言しています(「農政改革の制度設計」二〇〇四年四月)。

 この試算では「市場価格」三千八百円の米一俵に対し、直接支払いが九千六百円ということになります。こういう「補助金」が「過保護」批判を再燃させるでしょうし、また「ウソ」までついて年金の掛け金をとめどもなく引き上げ、給付はどんどん引き下げる自民・公明政治のもとでは、とうてい持続可能ではないことは明らかです。

 経団連も「市場を通じた価格形成により、最終的には国内価格を国際価格に収斂(限りなく近づけていく)」させることを要求しています。

 また、政党のなかでは民主党がすいぶん踏み込んでいます。昨年十月には「農産物価格は市場において輸入農産物との競争によって価格が形成されるようにします」と、全国農政協のアンケートに答え、ことし五月に出した「農林漁業再生プラン」では、直接支払いの単価を「将来的には、我が国と海外生産コストとの差額」としています。これは「将来」丸裸の自由化を認め、三〜四千円米価にすることを意味しています。

 選別的な政策なしの米・EU

 このように価格保障を全部やめ、価格下落補てんを「プロ農家」に限ることを「日本型直接支払い」などと自慢しているのが自民党です。また、民主党も「農政改革…の第一歩が、価格支持…を中心にした補助金行政から直接支払いへの転換である」(農林漁業再生プラン)と強調しています。

 しかし、世界の流れはこんなゆがんだものではなく、アメリカもヨーロッパ(EU)も韓国も、価格保障+直接支払いの組み合わせです。

 アメリカは、いったん廃止した価格保障(不足払制度)を二〇〇二年に復活させ、図1〈図はありません〉のように直接所得補償と価格保障(不足払いと価格支持融資)の組み合わせで、農家の生産費が償われています。

 EUの場合は、市場価格が暴落した場合に各国政府が市場に介入して農産物を買い入れる価格保障制度を維持しています。ただし、EUは、生産費を基準に決めてきた買入価格(支持価格)を九二年から引き下げ、その引き下げ分を直接支払いで補てんしています(図2〈図はありません〉)。小麦の場合、八年間で支持価格は一三%引き下げられましたが、直接支払い単価は一・五倍になっており、実質的な手取価格は四%の引き下げにとどまっています。

 さらに、アメリカでもEUでも、直接支払いの対象を限定するなどという選別的な政策はとっていません。

 このように、世界の流れは価格保障と直接支払いの組み合わせです。

 こういう世界の流れに沿い、日本農業を再生する政策をきちんと掲げている政党は、日本共産党です。

 見せかけはともかく、日本農業の崩壊と自給率のいっそうの引き下げに直結する政策を選ぶのか、日本農業の再生と食料自給率の向上に役立つ政策を選ぶのか、目をしっかり開き、見極めることが求められています。

(より詳しい内容は、雑誌『農民』No.54=二〇〇四年六月発行に掲載しています)

(新聞「農民」2004.7.5付)
ライン

2004年7月

HOME WTO トピックス&特集 産直・畜産・加工品 農業技術研究
リンク BBS 農民連紹介 新聞「農民」 農とパソコン

農民運動全国連合会(略称:農民連)
〒171-0022
東京都豊島区南池袋2-23-2
池袋パークサイドビル4階
TEL (03)3590-6759

本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
Copyright(c)1998-2004, 農民運動全国連合会