「農民」記事データベース20040712-643-01

山場迎える米国産牛肉輸入解禁問題

全頭検査を維持し輸入禁止を断固貫け

農民連、食健連 厚労・農水両省に要請

 アメリカ産牛肉の輸入解禁問題が大きな山場を迎えています。「夏をメドに結論を出す」予定の日米協議を前に、農民連と全国食健連は六月二十九日、厚労・農水両省に対して「断固、輸入禁止をつらぬくよう」要請しました。


ブッシュ大統領の選挙向け点数かせぎ

輸入再開で小泉内閣が加担

 “輸入再開を1日も早く” と

 二十八〜三十日に開かれた第二回日米専門家・実務者協議は、「『若い牛』に限定して輸入再開の条件を詰めていくことで一致」(「朝日」7月1日付夕刊)などと報道されていますが、「そんな事実はないし、そもそも輸入再開の条件を話し合う場ではない」と農水省。アメリカ側が、日本が輸入再開の条件としている全頭検査に言いがかりをつけたというのが真相です。

 同時に、農民連・食健連の交渉では、「対策がとられれば、一日も早く輸入を再開した方がいい」というのが厚労・農水の共通の答。政府の本音は、七月下旬の第三回専門家・実務者協議で一定の結論を得て、八月上旬の局長級協議で合意、十一月のアメリカ大統領選挙に間に合わせたい――これが、六月の日米首脳会議で牛肉ステーキに舌つづみを打ちながら小泉首相とブッシュ大統領が描いたシナリオといわれています。こんな党利党略を絶対に許すわけにはいきません。

 食肉業界と癒着の大統領

 テキサス州出身のブッシュ大統領にとって、食肉業界はもっとも大事な支持基盤。実際に、全米肉牛協会の広報部長だったアリサ・ハリソン氏を農務長官の報道官に起用して、業界の声を代弁させてきました。そして、イラク戦争で急速に支持を失っているブッシュ大統領の再選には、こうした業界の支持をつなぎとめる日本の輸入再開が不可欠だというわけです。

 『ファーストフードが世界を食いつくす』の著者、エリック・シュローサー氏は、アメリカ政府と食肉業界との癒着を「食品安全システムの悪い面のシンボル」と酷評し、「牛肉業界はほぼ二十年間にわたって、危険な(BSE)病原体の検査に反対してきた」と告発しています(「ニューヨークタイムス」1月2日付)。アメリカ食肉業界は、コストのかかる全頭検査などの安全対策はおざなりにして、政治的な圧力で日本の市場をこじ開けることを望んでいるのです。

 日米の対策に大きな開きが

 「日本とアメリカではBSE対策が基本的に異なる」(「農業協同組合新聞」6月14日付)――食品安全委員会プリオン専門委員会の山内一也専門委員がこう指摘するほど両国の対策には大きな開きがあります。(表)

 
「基本的に異なる」日本とアメリカのBSE対策
 
日 本
アメリカ
食肉の安全
確保
感染牛を市場に出さないために、すべての牛を対象にと畜場でBSE検査(スクリーニング検査)し、脳やせき髄などの「特定危険部位 (SRM)」もすべての牛から除去するという二重の安全対策を実施 30カ月齢以上の牛に限定してSRMを除去
汚染実態の把握 上記と合わせて、24カ月齢以上の死亡牛のBSE検査を実施 神経症状などがある牛26万5千頭と、30カ月齢以上の健康牛2万頭が検査の対象。と畜頭数のわずか0.8%
トレーサビリティ 国内飼養牛すべてに耳標を装着し、1頭ごとに出生からと畜までの飼養地などの記録をデータベース化 今年後半から一部導入。しかし強制ではなく自主的選択制で、義務化のメドなし

 さらに五月にはテキサス州で神経異常が疑われる牛の検査を怠ったことが判明し、政府への信頼が大きく揺らぐ事態に。だからこそアメリカ消費者連盟の世論調査でも、消費者の八八%がBSE全頭検査を実施すべきだと答えているのです。

 世界に誇るべき全頭検査広く

 ところが小泉内閣は、ブッシュ大統領とアメリカ食肉業界の要求にしたがって、あの手この手で輸入再開にこぎつけようとしています。その一つが、報道にあるような「若い牛に限定した輸入解禁」であり、もう一つがアメリカのずさんな対策に合わせて、日本の全頭検査を見直すこと。

 しかし、全頭検査によって国内で見つかったBSE感染牛の八頭目と九頭目は二十三カ月齢と二十一カ月齢。「若い牛だから安全だ」とは決して言えません。

 さらに全頭検査は、まだ多くのことが解明されていないBSEから食肉の安全を確保する、確かな方法です。プリオン病の研究でノーベル賞を受賞したプルシナー博士も「と畜されるすべての牛を検査する日本の解決策のみが、食品からのプリオン汚染を排除し、消費者の信頼を回復する」と、アメリカ議会で語っています。

 日本政府が今やるべきことは、ブッシュ大統領の選挙向けの点数かせぎに加担して、日本人の食の安全をないがしろにすることではありません。世界に誇るべき全頭検査を、各国のBSE対策に広げることこそ求められています。

(新聞「農民」2004.7.12付)
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2004年7月

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